Money Insiderでは新連載「ミレニアル世代の家計診断」を始めます。どんな環境でも柔軟に生きたい、経済的にも自立していたいと考えるミレニアル世代読者を公募し、ファイナンシャルプランナーとともに家計診断を行います。
今回登場するのは、子育てと地方移住を両立させようと模索する夫婦。彼らのチャンスとリスクはどこにあるのでしょうか?
教育移住を計画する夫婦に住宅価格高騰の波が襲う。
CCISUL/Shutterstock
- ツトムさん・ユキさん夫婦は、長野県・軽井沢への「教育移住」を計画している。
- 移住先では、持ち家の一軒家を探しているが、住宅価格の高騰に躊躇している。
- しかし、希望校の入学規定および現在の持ち家の売却機会を考えると、決断のタイミングは迫っている。
「教育移住」がミレニアル世代のあいだで盛り上がりを見せている。
単なる地方移住を超え、子どもたちの将来のため、より良い「教育環境」を求めて地方や海外へ移住するこの新しい生活様式。コロナ禍において住宅購入や子育てなど、ライフステージの大きな決断に迫られる世代にとって、ある意味、一石二鳥を叶える手段の一つだ。
有力候補は軽井沢の風越学園
ドメスティックな大手老舗IT企業に務めるツトムさん(仮名:40歳)も今、教育移住を具体的に検討している。その有力候補地となっているのが、楽天の創業メンバーである本城慎之介氏らが2020年4月に「軽井沢風越学園」を開校した、長野県北佐久郡軽井沢町だ。
「自由にのびのびと、本人の意思を尊重した子育てをしたい」と語るツトムさんは、幼小中一貫校として学年などの垣根を越えた「異年齢学級」を展開する、この学園に可能性を感じている。また、現在の仕事に強くやりがいを感じ、退職意向のないツトムさんにとって、新幹線通勤も視野に入れられる軽井沢という距離感も魅力だ。
「千葉や神奈川の郊外で通勤可能な圏内だと、やはり土地の値段が高いだけなく、逆に交通の便が悪い場合もある。軽井沢も人気だが、アクセスの良さとの差し引きで割に合うと思った」と、ツトムさんは語る。
「せっかく移住するのであれば、教育環境は大きな決め手だが、その後の老後生活も視野に入れたい。住居から徒歩圏内に、スーパーなどの生活インフラが揃っている環境を求めたら、首都圏郊外はちょっと厳しいと感じた」
見えてきた「厳しい現実」
「まずは何でもやってみる。失敗したり、難しいと感じたときは考えるチャンス」というモットーのツトムさんは、すでに移住先のリサーチを進めている。軽井沢に下見旅行へ出かけ、現地の不動産や建築業者、工務店などにも当たっているという。
しかし、そんななか厳しい現実も見えてきた。
「ただ、この1年だけを見ても、軽井沢の住居価格は、1.5倍くらい値上がりしている。さらに原料価格の高騰も相まって、必要経費も青天井だ」と、ツトムさん。「そのため、まだ『行くぞ!』という決心はし切れていない」。
ツトムさんのパートナーであるユキさん(仮名:38歳)も、基本的には移住に賛成だ。だが、「東京があまりに便利すぎるので、費用面的に将来厳しくなるようだったら、気後れはしてしまう」という本心も垣間見せる。
2人の子どもは、4歳の長男と1歳の長女。ユキさんは都内のベンチャー企業で時短勤務をしており、2人合わせて世帯年収は1400万円程度。さらに7年前、江東区で手に入れた一軒家という資産もある。
ツトムさん・ユキさんの家計表
夫:ツトムさん(仮名、40歳)
ーー国内大手老舗IT企業社員
妻:ユキさん(仮名、38歳)
ーー都内ベンチャー企業社員(時短勤務)
子ども:男子4歳・女子1歳
手取り月収:夫 55万円、妻 23万円
家計簿の有無と管理方法:あり
ーー個別にアプリ管理
世帯貯蓄額(株・投信含む):1900万円
ーー内訳 預金 400万円、投信 1500万円
住居:持ち家・一軒家(江東区・築7年)
ーー変動金利 ローン残債3100万円
自家用車:なし
ひと月あたりの出費:
・住宅ローン返済 12万5000円
・食費 5万円
・外食費 1万円
・交際費 1万円
・通信費
ーースマホ 1万6000円
ーーネット 7000円
・光熱費 6万円
・日用品代 10万円
ーー本人たちの小遣い含む
・教育費
ーー保育料 3万3000円
ーー習い事 1万円
・保険費
ーー夫 貯蓄タイプ 3万8000円/掛捨タイプ 9000円
ーー妻 貯蓄タイプ 2万3000円/掛捨タイプ 4000円
ーー学資保険 5万円
・貯蓄・投資
ーー財形貯蓄 1万円
ーー積立投信 15万円
「タイミング」が大きな課題
状況整理をすると、軽井沢への移住という目的を達成するために、2人が解決しなくてはならない課題は次の3つだ。
1. 移住のタイミング:目当ての軽井沢風越学園は幼小中一貫校だが、入学のタイミングは、幼稚園入園時と小学入学時の2回のみ。途中からの転入だけでなく、中学入学時の編入も認められていない。前述のとおり、2人の長男は現在4歳。つまり、少なくとも来年までには判断を下し、具体的な計画を実行に移す必要がある。
2. 現在の住居の処理:現在の自宅は持ち家で、江東区にある築7年の一軒家。マンションに比べ、一軒家の売却はハードルが高いが、2人の自宅はまだ築年が浅い。さらに原材料価格の高騰で、新築物件価格も上昇しているため、今は中古であっても需要は高い。
ツトムさんはすでに査定を行っており、ローン残額に1000万円を上乗せした価格で売却できるという結果をもらっている。ただし、この額面も築10年を超えると下落する可能性が高いため、こちらの面でもあまり時間の余裕はない。
3. 移住先の住居の確保:移住先では、今のところ持ち家を考えている。だが、地方移住のトレンドに呼応し、移住先の物件価格も上昇。さらに、原材料価格の高騰は、当然こちらにも影響を及ぼし、コストの増加に拍車をかけている。
新しい時代の働き方・生き方
ツトムさん・ユキさん夫妻はダブルインカムのため、収支は別々にアプリなどで管理。しかし、夫婦ともに無駄遣いするタイプではなく、お互いの家計・貯蓄状況は大まかに把握している。家計に関する定期的な話し合いは特にないが、大きな買い物をする際には、内容と金額について、必ず報告し合うようにしているという。
「軽井沢にはほかに私立はないので、場合によっては公立を選んでもいい。軽井沢風越学園にはとても魅力を感じているが、『どうしてもそこでなければ』と固執しているわけではない」と、ツトムさんは移住計画について補足する。
しかし、良くも悪くも今は住宅価格の高騰という絶好の機会だ。最大限のメリットを享受するのであれば、決断しなくてはならないタイミングはすぐそこに迫っている。
「人々の働き方はここ数年で大きく変わった。東京の便利さは十分に理解しているものの、私も妻も地方出身なので、リモートワーク時代ならではの働き方・生き方というものを模索してみたい」と。ツトムさんは言う。「しかし、『教育移住』という決断をした際に、家計にどう響いてくるのか? 第三者の意見を伺いたいと思っていた」
【ミレニアル世代の家計診断 #1-後編】では、本記事の内容を前提に、ファイナンシャルプランナーの西山美紀氏とともにツトムさん・ユキさん夫妻の家計診断を行っていく。「教育移住」という2人の目標は、現実的なものなのか?
(文・長田真 、連載ロゴデザイン・小川いずみ )