「Next Commons Lab」ファウンダー兼代表理事・林篤志さん(左)。
番組よりキャプチャ
“変化の兆し”を捉えて動き出している人や企業にスポットを当てるオンライン番組「BEYOND」。
第13回は、「ポスト資本主義社会をつくる」ことをミッションに掲げるNext Commons Lab ファウンダー兼代表理事・林篤志さんが登場。
8月31日(水)に放映した番組の抄録を、一部編集して掲載する。
当日の様子は、YouTubeでご視聴いただけます。
撮影:Business Insider Japan
──Next Commons Labについて教えてください。
林篤志さん(以下、林):2016年に立ち上げたチームで「ポスト資本主義社会を具現化する」というミッションを掲げています。
国内の地方に目を向け、過疎化を始めとした課題解決に取り組むなど、さまざまなプロジェクトを立ち上げています。
── 一般社団法人、株式会社という二つの法人で運営していますが、どういった違いがありますか?
林:一般社団法人では、日本財団から助成金をいただき、実験的なプロジェクトを展開しています。
株式会社では、全国に十数カ所ある地域のネットワークを活かし、メンバーと連携しながら一般社団法人で出たプロジェクトの横展開を行っています。
NFTを通して限界集落を活性化
山古志地域のNFTについて語る「Next Commons Lab」ファウンダー兼代表理事・林篤志さん。
番組よりキャプチャ
──林さんが手がけたプロジェクトの一つに新潟県長岡市山古志地域で始めた「電子住民票発行を兼ねたNFTの発行」がありますが、どのようなNFTを導入したのでしょうか。
林:NFTはデジタルアートを高額で取引するイメージもあると思います。
一方で、このプロジェクトでは「NFTをどうすれば社会的に活用できるか」を考え、一つの挑戦として導入しました。
山古志地域発祥と言われている錦鯉をモチーフにしたNFTを購入すると、山古志地域のコミュニティにアクセスできる「デジタル村民の権利」が与えられます。
そして、NFTによる売り上げの一部をデジタル村民がプロジェクトで使える予算として計上します。
──デジタル村民になると何ができるのでしょうか?
林:デジタル村民には山古志地域を盛り上げるためのアイデアを出していただき、村民による投票を通して、稼働するプロジェクトを決めます。
つまり、デジタル村民は予算をどう使うかを投票で決める、ガバナンストークンの所有者と言えます。
──投票によって稼働したプロジェクトにはどのようなものがありますか?
林:デジタル村民がリアルの山古志地域を訪ねて、お祭り(長岡花火)の手伝いをすることがありました。
ほかには、山古志地域の建物等をスキャニングしてVR空間で再現する「メタバース山古志」もあります。
「NFTを集める村」というコンセプトで、山古志地域の共有財産としてNFTを買い、リアルの山古志地域のコミュニティスペースに展示するといったプロジェクトもありました。
メタバース(cluster)で山古志が再現されている。
出典:cluster
──実際に山古志地域を訪れたデジタル村民は、どのような反応でしたか?
林:訪れる前から、NFTを通して山古志地域のコミュニティに参加しているので、すでに帰属意識があるんですよね。デジタル村民の中から山古志地域で就職する方も1人出ました。
私も山古志地域に住む高齢者に暗号資産を入れるウォレットのインストールをレクチャーする機会がありました。リアル村民もまた、NFTを持ち始めています。
奇妙な光景ですが、今まで線引きされていたリアルとデジタルが融合している感覚を、プロジェクトを通して感じています。
ブロックチェーンだからこそプロジェクトが加速
WEの構成要素。
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──8月には新プロジェクト「WE」のローンチイベントがありました。これはどのようなプロジェクトなのでしょうか。
林:「WE」は、DAO(分散型自律組織)の形態を目指す共同体で、「共通の財布」「福利厚生」「DAOコミュニティ」の3つの内容があります。
「共通の財布」は、日本の農村などに古くからある、いわゆる民間金融をよりフレキシブルに広範囲で実装できないか考えたものです。
メンバーシップとしてNFTを購入し、そのお金を拠出します。そして、メンバーが困ったときや、コミュニティに貢献したいときなど何かお金が必要なときに、使える「財布」となります。
「福利厚生」は、一人ひとりが持っている余剰の資源を集めて、NFTやスマートコントラクトの仕組みの上で使うことができます。
福利厚生というと、会社から与えられるイメージが先行しますが、少し違います。
例えば、田舎で所有している山や飲食店を経営していれば、場所やデザートを1つサービスするなど、個人単位でも余剰の資産が実はたくさんあります。
──事故が起こってお金が必要となったとき、WEから給付金が暗号資産(イーサリアム)として受け取れるという仕組みですよね。
林:「共通の財布」では、そのシステムを想定しています。これにスマートコントラクトも実装しているのが、「DAOコミュニティ」です。
例えば、NFTを購入後でも、コミュニティに貢献していない方が自由に給付金が得られるわけではありません。
ブロックチェーンを通じて貢献度を定量的に評価して、一定の評価以上の方に対して、スマートコントラクトで送金ができる仕組みにしていきたいと考えています。
これは今まさに検討中の仕組みで、「WE」はプレローンチの段階です。10月中に正式リリースを目指しています。
──ブロックチェーンを活用する良さは何だと考えますか?
林:スマートコントラクトと組み合わせることで、誰でもアクセスできるパーミッションレスであることだと思います。
誰かが権限を強く持つ、誰かの顔色をうかがうといったことがなく、元々設計した思想や理想に基づいて、集まるお金やリソースを純粋に再配分できることですね。
林さんを支える2つの本
──林さんの源流として、影響を受けた2冊の本についてご紹介いただけますか。
林:1冊目は『社会学入門 人間と社会の未来』です。自由な社会とは何か、どのようにして実装していくかが、社会学者見田宗介氏の言葉で書かれています。
彼の提唱していることを自分だったら現実社会でどのようにかたちにしていくかを常に考えています。私のバイブルですね。
──2冊目はどうでしょう。
林:『社会的共通資本』です。まさにポスト資本主義を体現した概念が書かれています。
『社会学入門 人間と社会の未来』もそうですが、彼らが残した実践とそこから得た視点、構想などをバトンとして私は受け取り、現代ならではのブロックチェーンを使ってどう実現できるかを考えています。
新しいチャレンジには、新しい場所と仲間を
これからのツクリテたちへ林さんからのメッセージ。
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—— 最後に、これからの未来をつくっていく方へ向けて、メッセージをお願いします。
林:「過ごす場所を変え、仲間を見つけましょう」です。
私は、新しいチャレンジをしたいと思ったとき、今身を置いている場所とは別に、そのための場所があると考えています。
例えば、会社勤めの方は、全く異なることにチャレンジしているコミュニティに自分の時間の半分を使ってみたり、思い切って住む場所を変えてみるなどですね。
すると、過ごす場所だけでなく、話す人も変わると思うんですよね。
同時に、仲間をどう見つけるかも大事です。
一人でできることはほとんどなく、自分の中から出てくる思いを少しでも言葉にして、それに乗っかってくれる、一緒に考えてくれる仲間を見つけることができれば、自ずと前へ進むことができると思います。
2022年9月7日(水)19時からは、東京大学の横山広美教授をゲストに迎え「理系女性が少ないワケ」をお送りします。
「BEYOND」とは
毎週水曜日19時から配信予定。ビジネス、テクノロジー、SDGs、働き方……それぞれのテーマで、既成概念にとらわれず新しい未来を作ろうとチャレンジする人にBusiness Insider Japanの記者/編集者がインタビュー。記者との対話を通して、チャレンジの原点、現在の取り組みやつくりたい未来を深堀りします。
アーカイブはYouTubeチャンネルのプレイリストで公開します。
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