Model Y パフォーマンス。屋外に持ち出すと、ボディーの造形のボリューム感がよくわかる。
撮影:山﨑拓実
テスラの新型ミッドサイズSUV(スポーツ用多目的車)「Model Y」の国内向け車両の納車が、いよいよ今週から始まる。6月10日の受注開始から、ちょうど3カ月でのデリバリーということになる。
Model Yの国内価格は643万8000円から。米国での2022年モデルのエントリー価格が約6万6000ドルであることを思えば、今の円安下では戦略的な値付けとも言える。
テスラのベストセラーとなったセダン「Model 3」と何が違い、どんな仕上がりのEV(電気自動車)なのか、首都圏の高速道路を中心に乗って分かった印象をみていこう。
試乗車:Model Y パフォーマンス:価格833万3000円〜(ベースグレードRWDモデル 価格643万8000円〜)、オプション:白色の内装、FSD(フルセルフドライビング)追加済み。
実物を目にするとわかる「大きさ」の違い
フロントガラスの高さや、ボンネットの位置の違いなどで大きさの物量感はかなりかわる。全高が高いこともあって、Model 3よりも見た目の存在感は大きい。
撮影:山﨑拓実
Model Yはアメリカでは2020年から納車が始まっており、日本上陸は2年遅れということになる。
テスラは2022年第1四半期だけで25万台以上のEVを出荷していて、そのうち実に24万台近くが「Model 3/Model Y」の普及価格帯の車種になっている。
圧倒的な台数の違いがわかる。実売価格帯が半額になると、最上位クラスより約15倍売れる、という結果だ。
出典:テスラ
着座位置が高めで運転しやすく、中も広々としているSUVは全世界的に人気のカテゴリーなだけに、競合も多い。だからこその「戦略的価格」とも言えるのではないか。
テスラジャパンの関係者からも「今年一番売れる車種になるのではないか」との声も聞こえる。要するに「Model Yが本命」という見方をしているわけだ。
トランク部分付近のボリュームを見ると、SUVモデルであることがよくわかる。空いていたこともあって撮影のため少し前に停めているが、輪留めまでバックすると枠内には無事おさまる。
撮影:山﨑拓実
トランク。体育座りなら、大人でも入れそうだ。容量は854Lを確保している。
撮影:山﨑拓実
初対面したModel Yは、確かにModel 3と基本的なデザインが共通で、「SUV版のModel 3」というのがよく分かる。
とはいえ、近づいてみると、ボリューム感がかなり違う。近づくにつれて、「あれ、思ったよりデカい?」と気づく。車高が高いことで、特にヘッドライト周辺の押し出し感、物量感は、Model Yの方がずっと強い。
ボディーサイズは、全幅1921mm(ミラー含まず)、全長4751mm、全高1624mm。全幅が1.9mを超える堂々としたサイズなのは事前に調べて知っていたものの、Model 3の全幅1849mmと比べると、72mmの差とはいえ迫力が違う。
実用上の話でいえば、横幅1850mmを超えると駐車できない機械式駐車場が増えてくると言われる。自分の行動範囲のショッピングモールなどの対応サイズは事前に調べておくと良さそうだ。
ミニマリストの極地といえる、シンプルな内装
撮影:山﨑拓実
ドライバーズシートに乗り込むと、Model 3の試乗の際にも感じた、極めてシンプルで、個性的な室内が目に飛び込んでくる。
「車内にはボタンはほぼなし、タブレットのようなディスプレイ1枚のみ」という装備は、Model 3と共通の特徴。同クラスのSUVタイプにあたる日産アリアやヒョンデIONIQ 5、もう少し価格帯が上のBMW iX3と比べても、非常に個性的であることは改めて感じる。
前席のシートは、かなりハリあるタイプだ。しっとりと沈んで体を包み込むようなタイプのシートを想像して座ると、しっかりとした反発力のある座席に驚く。肩周りや腰まわりも、想ったよりタイトだ。
一方、後席は非常にゆったりしている。ボディーのサイズがModel 3より大きく、また全高も高くなったおかげで足下の広さも含めた空間が広いからだ。
撮影:山﨑拓実
さらに、天井はModel 3と同じようにグラスルーフだが、Model Yでは前後を区切る「梁」がなく、開放感も十分。長距離移動なら、後席はリラックスした移動にぴったりの空間だと思う。
Model Yのグラスルーフ。左右をつなぐ梁なども一切ない湾曲したスモーク風ガラスでできている。
撮影:山﨑拓実
ハンドル右側にあるコラムシフト(シフトレバー)を下げてドライブに入れて、貸し出し場所を出て行く。
重量約2トン(パフォーマンスモデル。後輪駆動のRWDモデルは1.93トン)の重さはまったく感じさせず、スルスルと走る。
低速でもトルクフルで扱いやすいのはEVのモーター特性による部分が大きいが、さらに試乗車は上位グレードのパフォーマンスモデルだ。アクセルを床まで踏み込めば、0−100km/h加速で3.7秒という、その辺のスポーツカーよりよほど速い加速力を持っている……が、ゆったりと街中を流して走っている限りは平穏そのものだ。
高速道路で試した「加速」がどんな体験かは、動画の中に1箇所、試したシーンがあるので、「0-100km/h 3.7秒の驚き」は僕の表情から読み取ってもらえればと思う。
スマホやタブレットでマップアプリを使うように、音声検索で目的地を探してセットできるナビ画面。「ごく普通にスマホっぽい」スムーズな挙動には相変わらず感心してしまう。
撮影:山﨑拓実
平日の都内の混み合う首都高速を走って揺れ方や遮音性をみてみる。
ちょうど、Model Yの試乗と近いタイミングでBMWのSUV型EV「iX3」も試乗していたので、キャラクターの違いがよく分かった。
遮音性の良さは、ひけをとらないと思えるほど高い。横に2台並べて測ったわけではないが、走行中のロードノイズ(地面の凹凸の影響で生じる騒音)の侵入はかなり抑えられている。高速道路レベルの速度で走っても、侵入してくる音は角が丸まっている。21インチの大きなホイールを履いたSUVで高速移動していることを忘れるほど、静粛性は高い。
試乗車は21インチのパフォーマンスモデル用のホイールを履いている。
撮影:伊藤有
試乗車のModel Yは総走行距離が1000キロメートルにも満たない「ほぼ新車」ということもあるが、運転席・助手席の2名乗車では、路面の継ぎ目などで少しピョコピョコと跳ねるような感覚があり、フラットライド感は期待したほど高くはなかった。
この辺は、プレミアムセグメントのBMW iX3と比較するなら、iX3には一日の長があると感じた。iX3では、同じ2名乗車でもギャップを乗り越えるときの突き上げ感はほぼゼロで、ひたすら心地よさがあった。
そういう意味で、Model Yはやはり、プレミアムではなく「日常のクルマ」の側面が強いのだと思わせられる。iX3は、Model Yのベースグレードの「RWD」と比較すれば約200万円も価格帯が上だが、試乗車の「パフォーマンス」との比較では、実は価格差は30万円を切る。人によっては競合車種と捉える人もいるかもしれない。
とはいえ、こうした乗り味の違いは両車を比較して考えれば……という話。Model Y単体で乗ったとして、乗り味に不満を感じることはそうないだろう。
オートパイロットは究極的に楽ちん
テスラのオートパイロットはコラムシフトを下に2回、押し下げるとオートパイロットに切り替わる。
撮影:山﨑拓実
Model Yで特筆すべき点として、オートパイロットは外せない。
試乗時はちょうど、横浜から東京に向かう首都高・横羽線が渋滞気味で、ノロノロと走りながら時折停止する、というシチュエーションが何度かあった。
撮影:山﨑拓実
オートパイロットは長距離移動の負担を軽減して安全に移動する機能の側面がクローズアップされがちだが、都市部在住者はこういった渋滞路でこそ恩恵を受けられると感じる。
オートパイロットに入れておきさえすれば、前走車との距離を適切に保ちつつ、スピードを自動調整し、前走者が停止すると人間が操作しているかのようにスッと自然な停車・再発進までこなしてくれる。
注意点は、日産のプロパイロット2.0のような「ハンズオフ」(手放し運転)には対応していないため、ハンドルに一定の力をかけ続けなければならないことだ。
曲がりこんだカーブは、慣れないオートパイロット任せだとドキッとすることもある。が、その場合は自分でハンドルを切れば、人間に操作を戻してくれる。
オートパイロットは全車標準装備なので、他社のように付けるかどうかを選択するものではないものの、高速道路で試乗する機会があれば、ぜひ使ってみてほしい機能だ。
ディーラーに行かず「ネットでクルマを買う」という時代
Model Yを数時間試乗してみて、率直に「この価格なら人気が出るだろう」という印象を持った。
テスラは頻繁に価格を変えるため、いつまでエントリーモデルが643万円なのかは分からない。ただ、現時点のエントリー価格で見ても、日産アリア(539万円/B6モデル)、ヒョンデIONIQ 5(479万円)、ボルボXC40 Recharge(579万円)などと比べても、大量のEVを作り続けてきたテスラの実績まで加味すれば十分競争力はある。
「ディーラーは車両を見るだけ。購入はネットで」という、テスラが日本で広めたオーダー方法は、EVを買うような「テクノロジー好き」な人の間では浸透しつつある。実際国内では少なくとも1万台以上のテスラ車がこの方法で売れている。日本でも、コロナ後に日産をはじめオンライン購入に対応する例が増えてきた。「ネット購入でもクルマは売れる」ことが分かったからこそ、日本再参入のIONIQ 5も「ネット注文」オンリーの受注に踏み切った背景もあるはずだ。
Model Yが日本のEV市場にどれくらいのインパクトを与える車種になるのか? 今後、街中を走るModel Yを見かける回数はしばらく気にしていたいと思う。
(文・伊藤有)