夏場の株価上昇も勢いが消え、再び冬に突入かと落胆する投資家たちに、今度こそ「押し目買い」の好機が迫っているのかもしれない。
Spencer Platt/Getty Images
米銀大手トゥルイスト・バンク(Truist Bank)のキース・ラーナー共同最高投資責任者(Co-CIO)は、8月下旬以降の株価下落はすでに行き過ぎていると分析する。それでも、まだ警戒の必要性は消えないという。
最近の顧客向けレポート(9月1日付)でラーナーはこう指摘する。
「短期的に見れば、いくつかの指標が売りの行き過ぎを示唆しています。
もちろん、売られ過ぎの相場がさらなる売られ過ぎに向かう可能性はありますが、ここまで株式市場へのエクスポージャーを縮小するよう強く推奨してきた上で今回の急激な調整局面を迎え、これ以上の切り詰めはさすがに必要ないと考えています。少なくとも短期的には」
ラーナーは市場の動きを正確に予測する秘訣のような何かをつかんでいるのかもしれない。
4月上旬には小型株の20%下落を予想して事前に格下げ、6月中旬には市場の底入れを正確に予測。8月上旬には、S&P500種株価指数の急落直前に留意すべきリスクを列挙して警鐘を鳴らした。
直近だけでそれだけの実績を誇るラーナーの「下落は行き過ぎ」分析を聞いたら、強気派の投資家たちは手を叩いて喜ぶことだろう。
ただ、ラーナーが株式市場について、中期的には「波乱含み」が続くと予想していることには留意すべきだ。また、レポートの結論近くに出てくる「市場は一直線に動くものではない」というのも踏まえておくべき至言だ。
後者の指摘について反論の余地はない。
9月1日木曜日、株価は5営業日連続の下落に向かって突き進んでいるように思われたが、S&P500種指数は前場で最大1.2%下落した分を取り返し、結局は安値から1.6%上昇して取引を終えた。
翌9月2日朝には米労働省が8月の雇用統計を発表し、非農業部門雇用者数が31万5000人増という堅調な伸びを示したことから、回復の勢いは前場を終えるまで続いたものの、前日終値比では1.1%下落となった。
この9月初頭の反発は、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がカンザスシティー地区連銀主催の国際経済政策シンポジウム(ジャクソンホール会議、8月26日)で、インフレ抑制は「いくらかの痛みをもたらす」と発言したことを受けた値動きと言える。
つまり、投資家たちにとって、景気後退入りの可能性が現実味を帯びる中で、FRBの引き締め政策を受けて金利がさらに上昇した場合、いったい株価や経済にどんな影響があるのか吟味する時間が必要だったのだ。
「市場は6月半ばから景気後退を織り込む形で(年初の高値比)約24%下落し、その後、今度はソフトランディング(軟着陸)とFRBのハト派転換の可能性を織り込んで(同)約17%まで戻しました。
きわめて結果の振れ幅の大きい不透明な時代ではありますが、ほぼ完全に予想通りの動きでした」
ラーナーが設定するS&P500種株価指数の年末目標水準は4200〜4300、したがって今後5〜7.5%程度のアップサイドを想定していることになる。
ただし、いまはまだ投資家がヒーローになる時期ではなく、足元ではディフェンシブ銘柄、クオリティ銘柄に集中すべきというのがラーナーのアドバイスだ。
「マクロ的な課題は依然として残っており、今後も続くでしょう。いまは積極的に買いに回るべき時期ではないというのが私の考えです。
インフレは高止まりしたままですし、各国の中央銀行はここ数十年で最も厳しいタカ派姿勢を示して引き締め政策を続けており、景気後退のリスクも差し迫っています」
それでも、投資に動くこと、あるいはこの調整局面での押し目買いに踏み切ることを躊躇(ちゅうちょ)すべきではないとラーナーは強調する。
以下に、トゥルイスト・バンクのレポートに掲載された(または参照された)5つのチャートを、ラーナーのコメントともに紹介しよう。調整局面の最悪期は過ぎたとラーナーが判断する理由が分かる。
【根拠1】これほどの急落はまれで、普通は長続きしない
S&P500種株価指数(土日休場除く)12日間移動平均の変化率。極端な振れ幅(グレーの点線)を超えると反発する。
Truist Bank
「過去12日間でS&P500種指数は9%下落しました。これは6月中旬の安値記録時以来の極端な下落幅です」
【根拠2】売られ過ぎ状態はそう長く続かない
S&P500種構成銘柄のうち、割安銘柄の占める割合の推移。6月中旬(右端手前のグレー強調)は極端に増え、8月中旬(右端のグレー強調)も同じ動向をたどっている。
Truist Bank
「(足元の8月中下旬は)高値からの急反落を受け、S&P500種構成銘柄の中で売られ過ぎ、すなわち短期的に割安に転じた銘柄の割合が約80%という極端な状態になっています。これは6月中旬に安値を付けた前後に見られたのと同じ動きと思われます」
【根拠3】悲観的センチメントは強気の逆張り指標
米商品先物取引委員会(CFTC)公表のS&P500種先物の投機筋ポジションの推移。
Truist Bank
「トレーダーのポジショニングとセンチメントはネガティブな状況が続いており、それは逆張り派の視点から見るとポジティブな兆候です。
例えば、先物市場で投機筋(ヘッジファンドや金融機関など非商業部門の投資家)が保有するポジションはパンデミック初期以降で最も大きく売り越しに傾いています」
【根拠4】個人投資家が急速に弱気化、やはり逆張り指標
投資家センチメントの推移(2022年8月)。緑が強気、グレーが中立、赤が弱気の割合。
American Association of Individual Investors
「9月1日に公表された米個人投資家協会(AAII)の週間調査結果によれば、弱気と答えた個人投資家の割合は、同月初(8月10日までの週)の36.7%から月末(8月31日までの週)には50.4%へと急増しています。これも【根拠3】と同様(強気の逆張り指標)です」
【根拠5】バリュエーションはすでにかなり低下した
S&P500種構成銘柄の予想株価収益率(PER)の推移。9月1日時点で16.7倍。
Yardeni Research
「ファンダメンタルズの観点から見ると、S&P500種構成銘柄の予想株価収益率(PER)は、直近最高値の18.2倍から9月1日時点の16.7倍へと低下しました。絶対的に割安と言える水準にはほど遠いのですが、それでもより妥当な水準になったと思います」
(翻訳・編集:川村力)