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2022年1月、純資産額87億ドル(約1兆2500億円、1ドル=144円換算)の投資信託「フィデリティ・セレクト・テクノロジー(Fidelity Select Technology)」のポートフォリオを引き継いだのは、2014年から複数のハイテク関連株の投資ファンドを運用してきた同社ファンドマネージャーのアダム・ベンジャミン(Adam Benjamin)だ。
成長株から大きくスタイル・ローテーションをさせているなか、この引き継ぎはベンジャミンにとっても大きな挑戦となった。ベンジャミンは当時をこう振り返る。
フィデリティのファンドマネージャー、アダム・ベンジャミン。
Fidelity
「市場が不安定な時期でした。テクノロジー関連のあらゆる領域で、ファンダメンタルズに基づかない無差別的な売りが大量に発生していました。それに対して私は、いくつかのハイテク株投資では保守的な守りの姿勢をとってきたし、2022年の初頭もそのような考え方を持っていました」
この守りの姿勢を象徴しているのが、アップル、マイクロソフト、シスコの3銘柄で、これらはすべて彼のファンドの上位10銘柄に含まれている。
ベンジャミンは長年アップルを追い続けてきたが、その考え方は年を経るにつれて進化してきた。アップルは多くの人々にとって生活の一部となり、今では実質的なサブスクリプションモデルとなっている。
「このモデルは大きく誤解されています。アップルは以前ほどヒット商品に左右されなくなり、毎年9月に発売される新型iPhoneへの依存度は下がっています。その結果安定性が大きく増して企業価値は上がっていますが、それでもアップル株は他のハイテク銘柄ほど割高ではありません」
アップルは、ベンジャミンの投資ファンドの中で(2022年7月31日時点)24.61%を占めるトップ銘柄だ。結果的に、ナスダックの株価指数は過去1年間で約20%下落したのに対して、アップル株は6%の下落に留まっており、もっと買っておけばよかったとさえ感じていると彼は言う。
さらに、「アマゾン、マイクロソフト、サムスンからグーグルやメタに至るまで、あらゆる企業がシリコンの開発に取り組もうとしているなか」、アップルはM1チップやM2チップといった独自のシリコンチップを開発しており、これが同社の新たな差別化ポイントとなっているという。
「アップルは、iPhoneやiPadでこれらの開発に取り組んできましたが、現在はノートPCでの差別化にも活用しようとしており、他社に対してコストと性能で優位に立っています。ソフトウェアからシリコンまでのすべてを扱えるということは、商品の差別化や、性能や消費電力の面での改善がしやすくなり、最終的には原料コストの削減にもつながります。そしてこれがより高い利益率を生むことにもなるのです」
マイクロソフトについては、ベンジャミンは次のように述べる。
「ソフトウェア、特にSaaS企業のバリュエーションがコロナ以前には5〜6倍であったのに対し、昨年末は15〜16倍にまで大きく膨れ上がりました。これによりこの分野の多くは、リスクとリターンで言えばそれほど魅力あるものではなくなりました。
しかし、マイクロソフトは他社とは一線を画しています。ソフトウェア企業でありながら現在急速にクラウド事業を伸ばしており、同社の事業はかなりの勢いで成長し続けると確信しています」
また、シスコについては、世界が金利上昇へと移行する中で、ポートフォリオの「ニーズを満たすため」に保有することを選んだ。「(株価上昇のきっかけの)カタリスト」となる比較的安価な銘柄を求めたのだ。
シスコは、クラウド事業への動向にやや乗り遅れていたが追いつきつつあるし、この分野はシスコ全体から見ればほんの一部に過ぎない。同社は大規模なサーバー事業とサービスプロバイダー事業を行っていたが、この2つの分野はコロナ禍で大きな打撃を受けた。そういった意味では、シスコはちょっとした転換期を迎えているのだ。
しかしベンジャミンは、2年にわたる投資の空白期間を経て、人々が職場へ復帰するにつれて企業はどこも自社インフラのアップデートを図るだろうと考えている。ハイブリッドな働き方を導入している企業ならなおさらだ。
ベンジャミンは特に半導体分野に強い。アナリストとしてこの分野を専門に扱うことで、自身が注目している広範なハイテク関連の情報に触れることができると考えている。
この分野もまた、一時期のシクリカル銘柄(景気敏感株)としての性質から脱却し、ファンダメンタルズの改善により現在、進化の時期を迎えている。
半導体分野の企業は多くの統合を経て、収益性、粗利益率、営業利益率を改善する一方、魅力的な相対評価で特定のエンドマーケットの主要な長期的テーマに取り組んでいると彼は言う。
なかでもNXPセミコンダクターズは、自動車分野では多くのOEM(相手先ブランド製造)メーカーの戦略的パートナーでもあり、ベンジャミンのポートフォリオの中でも以前から中核的な存在だ。
電気自動車(EV)のバッテリーマネジメントシステムから、ADAS(先進運転支援システム)の主要なレーダー機能まで、内燃機関(ICE)車からEV車への移行が進むにつれて、半導体業界全体のコンテンツレベルは格段に上がっていると彼は説明する。
「自動車がそのうちスマートフォンのようなものになることを考えれば、そこに使われる電子機器を一から見直す必要があります。その動きはすでに始まっています。完全なものとして導入されるには時間がかかると思いますが、その分野でもNXPセミコンダクターズは、非常に強い立ち位置にあります」
既存の業界秩序やモデルをこの先破壊することになる「ディスラプター」企業を探したいというベンジャミンは、今後10年間の最大のテーマは人工知能(AI)だと考えている。なかでも未来の勝者の可能性として彼が挙げるのが、エヌビディア(Nvidia)だ。同社は複数の技術に精通したソリューションを駆使し、企業がディープラーニング技術をより容易に展開できるよう支援する機会を作り出している。
(編集・大門小百合)