アマゾン(Amazon)のムーンショット型研究組織「グランド・チャレンジ(Grand Challenge)」を担当するバイスプレジデント、ババク・パルヴィズ。
Gustavo Caballero/Getty Images for New York Times International Luxury Conference
アマゾン(Amazon)社内で破壊的イノベーションの創出に取り組む研究機関「グランドチャレンジ(Grand Challenge)を担当するバイスプレジデント、ババク・パルヴィズが突如退任。8年前に自ら設置したポジションを離れたことが、Insiderの取材で明らかになった。
パルヴィズはグランドチャレンジの事実上の創設者。前職のグーグル(Google)では、ディスティングイッシュトエンジニア(卓越した技術力を有するエンジニア)として、ウェアラブル端末「グーグルグラス(Google Glass)」開発のプロジェクトリーダーを務めた。
内情に詳しい関係者によれば、2014年にグランドチャレンジを創設して以来、パルヴィズは同機関の顔として活躍し、400人以上の従業員を抱えるまでに成長させたという。
また、近年は社内外のイベントに登壇するなど、よりソーシャルな役割も担ってきた。2021年は米ウォールストリートジャーナル主催の大型カンファレンス「テックヘルス(Tech Health)2021」でも講演している。
アマゾンの広報担当はInsiderのメール取材に対し、パルヴィズの退任を認めた。ただし、サバティカル(長期有給休暇)に入るものの退社はしないという。
後任はパルヴィズ直下のディレクターで、ウィスコンシン大学マディソン校の教授(生化学)から転身したダグラス・ワイベルが務める。
パルヴィズの退任が注目されるのは、アマゾンがいままさにグランドチャレンジから生まれたヘルスケア関連プロジェクトのレビューを進めている最中のできごとだからだ。
その最たる例が、8月末に(2022年末までの)事業終了が判明した会員制の法人向けプライマリ・ケア(初期診療)サービス「アマゾン・ケア(Amazon Care)」。
2020年に開設した新型コロナウイルス感染症の社内検査施設も同じくグランドチャレンジから生まれたプロジェクトで、2021年には毎日2万件超を処理していたが、2022年7月初旬の検査を最後に閉鎖された。
Insiderが独自に報じた(邦訳は7月21日付)がんワクチン開発プロジェクトも、やはりグランドチャレンジ発のプロジェクト。米医療研究機関「フレッド・ハッチンソンがん研究センター(Fred Hutchison Cancer Center)」と共同で初期段階の臨床検査に取り組んでいる。
ブルームバーグの報道(8月12日付)によれば、パルヴィズ直下のゼネラルマネージャーとしてアマゾン・ケアを率いてきたクリステン・ヘルトンも初夏から長期休暇に入り、復帰の予定は明らかになっていない。
アマゾンはパンデミック下の行動制限を追い風に事業拡大を進めてきたが、ここに来て労働力と倉庫スペースに過剰感が生まれ、コスト圧縮のためにいくつかの部門で事業縮小を迫られている。
グランドチャレンジは長期視点で破壊的イノベーションの創出を目指す研究機関で、取り組みがすぐに収益に結びつくケースはそう多くない。現時点では、事業として軌道に乗りそうなプロジェクトはほとんどない。
パルヴィズの離脱は、アマゾンで昨今相次ぐ有力経営幹部の退社の最新事例だ。
Insiderの独自集計によると、アマゾンでは2021年にバイスプレジデントもしくはそれ以上の経営幹部50人超が退社し、2022年も同じペースで推移している。
過去記事(邦訳は5月25日付)でも指摘したことだが、アマゾンはかつて管理職はじめ優秀で忠誠度の高い人材ほど退職率が低く会社に長くとどまる社内状況を自画自賛してきただけに、現役あるいは元従業員に取材すると、最近の(同社が辞めてほしくないと評価する従業員の)離職率の高さを「異常事態」とする声は多く聞かれる。
(翻訳・編集:川村力)