生産台数引き上げに向けて品質問題や物流障害に苦しむルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)で、生産部門の幹部6人が一斉に退職する事態に。
Lucid Motors
電気自動車(EV)スタートアップ各社が生産台数引き上げを目指して猛烈な競争を繰り広げるなか、最有望株の一角とされる米ルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)で、生産面の補強を企図して採用した有力経営幹部6人がわずか数週間のうちに同社を去る事態が起きた。
ルーシッドの複数の現役あるいは元従業員に対する取材から明らかになった。
退職した経営幹部には、独アウディ(Audi)で長年活躍し、移籍先の米テスラ(Tesla)でも経営幹部を務めたバイスプレジデントのピーター・ホーホルディンガーが含まれる。
ルーシッドは生産台数目標の達成に向け、米アリゾナ州カサグランデの生産拠点をフル回転させる必要に迫られており、重い足かせとなっている品質問題への対応強化を強化するため、5月時点でホーホルディンガーをグローバル生産担当から外すことを決めていた。
匿名を条件にInsiderの取材に応じた複数の現役従業員および元従業員によれば、今回退社した6人の経営幹部は全員が生産プロセスの強化に関わっていた。
この集団的戦線離脱が今後ルーシッドの経営にどんな影響を及ぼすか、関係者によって意見はさまざまだ。
入れ替わりに新たな人材と発想が流れ込めば状況の打開につながる可能性もあるが、人事刷新による混乱でむしろ事態が悪化する可能性も否定できない。
ルーシッドの広報担当にコメントを求めたが、記事公開までに返答は得られなかった。
退社した幹部6人
- ピーター・ホーホルディンガー:バイスプレジデント(グローバル生産担当) ※アウディ・テスラ出身
- ラルフ・ヤコブス:バイスプレジデント(生産計画担当) ※フォルクスワーゲン出身
- マイク・ボイケ:アリゾナオペレーション責任者 ※ゼネラル・モーターズ出身
- デイビッド・ピール:新製品開発・導入および生産計画マネジメント責任者 ※日産出身
- クリス・バーバー:シニアマネージャー(物流エンジニアリング担当) ※フィアット・クライスラー出身
- キース・チャンピオン:ディレクター(オペレーショナル・エクセレンス担当) ※テスラ出身
チャンピオンには直接取材で退社の事実を確認できたが、特段のコメントは得られなかった。
ピールはリンクトイン(LinkedIn)の記載によれば、すでにEVおよび燃料電池(FC)トラックスタートアップのニコラ(Nikola)に移籍した模様だ。
ヤコブス(ルーシッド公式サイトの経営チームページからはすでに削除)、ホーホルディンガー(こちらはまだ経営チームページに掲載中)、ボイケ、バーバーの4人にはコメントを求めたが返答を得られなかった。
Insiderがルーシッドの従業員向けメールを独自に確認した結果、上記のうちボイケとホーホルディンガーはすでに退社したことが分かった。
ルーシッドのピーター・ローリンソン最高経営責任者(CEO)は前出の第2四半期(4〜6月)決算説明会で生産目標を達成できなかったことを明らかにし、その理由を「物流制約により(目標達成に必要な)生産台数の引き上げに至らなかった」と説明した。
2022年上半期(1〜6月)の生産台数は1405台、納車台数は1039台で、当初の年間生産目標2万台に遠く及ばなかった。同社はすでに生産台数見通しを2度引き下げており、現時点では6000~7000台の生産を予定する。
第2四半期は「物流プロセスの未熟さを露呈した」というのがローリンソンCEOの見方で、問題の早期解決を目指し、同社は倉庫と物流センターをアリゾナ州テンペから同州カサグランデで稼働中の主力工場敷地内に移転させる計画を明らかにしている。
8月中に取材に応じたある現役従業員は、一連の改革で「社内のエネルギーの流れががらりと変わりました」と語った。
また、別の複数の現役従業員は「幹部交代で生産面の流れは良くなるんじゃないでしょうか」「今回の人事刷新のような全面的な見直しがどのみち必要だったんです」と語った。
(翻訳・編集:川村力)