ジェームズ・ウェッブ望遠鏡の近赤外線カメラで撮影されたタランチュラ星雲。
NASA, ESA, CSA, STScI, Webb ERO Production Team
- ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)でタランチュラ星雲の新しい画像が撮影された。
- この星雲は「かじき座30」とも呼ばれ、地球から約16万光年の距離にある。
- JWSTの観測装置によって、宇宙のちりに包まれてこれまで見えなかった何千個もの若い星が捉えられた。
天文学者がジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を天の川銀河の「裏庭」で最も明るく活発な星形成領域の1つである「タランチュラ星雲」に向けたところ、これまでに観測されたことのない何千もの若い星が発見された。アメリカ航空宇宙局(NASA)がその画像を2022年9月6日に公開した。
タランチュラ星雲は「かじき座30」とも呼ばれ、天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲の中にある。地球から約16万光年の距離にあり、巨大なガスとちりからなる星雲だ。ここでは観測史上最も高温で巨大な星が誕生しており、その中には太陽の150倍以上の質量を持つ星もある。
この星形成領域をより詳しく知るために、JWSTに搭載された3つの高解像度赤外線観測装置が用いられた。100億ドルを投じて開発されたJWSTは宇宙のガスやちりを通り抜ける赤外線を用いることで、可視光を使う望遠鏡よりも宇宙の奥深くまで観測することができる。
JWSTが近赤外線カメラ(NIRCam)で撮影した星雲の新たな画像は、クモの巣のように見えるガスの束を映し出しており、「タランチュラが吐き出した糸でできた巣」のようだとNASAは声明で述べている。
340光年にわたる宇宙空間を捉えた画像には、背景にぼんやりとした白い点のように見える遠方銀河が写っている。中央には青く輝く若い星の集団が見える。その周囲には、星が発した強い放射線や星風によってガスが取り除かれた空間が広がっている。
タランチュラ星雲の同じ領域を、JWSTの近赤外線カメラ(NIRCam)で捉えた画像(左)と中間赤外線観測装置(MIRI)で捉えた画像(右)。それぞれの違いがよく分かる。
NASA, ESA, CSA, and STScI
天文学者はNIRCamよりも波長の長い赤外線を用いた中間赤外線観測装置(MIRI)でも同じ領域を撮影している。上のMIRIの画像では「高温の星が消えてゆき、低温のガスやちりが光っている」とNASAは述べている。MIRIのレンズは小さな光の点を捉えており、それは完全に形成された星ではなく、ちりの繭の中で形成過程にある原始星だという。
JWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)を用いて星雲の中の泡のように見えるものを分析したところ、まだガスの雲に包まれている若い星が発見された。
NASA, ESA, CSA, STScI
天文学者は、JWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)を用いて、ちりの向こう側の星の姿も捉えた。星雲の中で形成過程にある星は、ガスやちりでできた繭のようなものに囲まれ、可視光が遮られる。
天文学者はタランチュラ星雲の歴史は宇宙の遠い過去に遡ると考えている。この星雲は、宇宙の誕生からおよそ30億年後、星の形成がピークに達していた「宇宙の正午」と呼ばれる時期に観測される巨大な星形成領域と化学組成が似ているという。JWSTの新たな観測で確認されたように、この星雲では今も活発に星が生まれ続けている。
宇宙で星がどのように形成されてきたかについては、まだ解明されていない部分が多いことから、今回の観測によってさらに理解が深まることが期待されている。
「ウェッブは、タランチュラ星雲での星形成の観測と、宇宙の正午の時代の遠方銀河の観測を比較対照する機会を天文学者に提供していく」とJWSTを管理する宇宙望遠鏡科学研究所は声明で述べている。
[原文:Webb telescope's new photo of the Tarantula Nebula caught thousands of never-before-seen baby stars]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)