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- インターネットやビジネスの世界では「静かな退職(quiet quitting)」という概念が話題になっている。
- これはいわば、労働者が賃金と引き換えに契約通りの仕事だけをするということだ。
- 一部の労働者は、この概念を「給料に応じた労働(acting your wage)」と言い換えている。
アイルランドに暮らす30代のビリーは、新型コロナのパンデミック時に倉庫の夜勤をしていたため、自由な時間が多くあった。仕事は単純で、基本的にはすべてが正常に稼働しているかを確認することだった。
彼は退屈だった。
そこで、仕事中にぼんやりすることをやめようと決心し、夜中にオーディオブックを聞くようになった。
「私は給料をもらっているし、職場にも来ている。与えられたわずかな責任を果たしながら、同時に何かを得ているんだ」とビリー(プライバシー保護のため苗字は非公開)はInsiderに語っている。
彼は「給料に応じた労働(acting his wage)」をしている。これは「働き方の大再考(Great Rethinking of work)」が叫ばれる中、話題になっている言葉だ。
似たような意味で「静かな退職(Quiet quitting)」という言葉も登場している。これは与えられた仕事だけを行い、それ以外は何もやらないという意味だ。惰性で仕事をする風潮について報じたInsiderの記事が元になっている。
しかし労働者たちの中は「給料に応じた労働」という言葉の方が、自分たちがしていることをよりうまく表現できるようだと主張している人もいる。
進歩的な政治団体Our Revolutionは「『静かな退職』ではない。『給料に応じた労働』だ」とツイートしている。
「給料に応じた労働」は、デイブ・ラムジー(ラジオ番組のパーソナリティ)が監修した家計管理について学べるボードゲームのことではない。これは「静かな退職」の「再ブランド化」であり、実際の仕事をしている人たちを中心に据えたものだ。労働者が「静かな退職」あるいは「給料に応じた労働」をするとき、彼らは契約と報酬に応じた仕事をしている。明快なコンセプトを持つこの言葉はインターネット上で炎上した。経営陣は苛立ち、「静かな退職」をする者は真っ先に首を切られる者だと述べている。
「基本的には勤務時間が終わったら仕事はおしまい。勤務時間中は、言われたことや報酬に応じたことをやっている」と企業のIT部門を担当する30代前半のケイトはInsiderに語っている。
「つまり、ただ自分の仕事をするだけ。自分の仕事ではない仕事を以前ほどやりたがらなくなったことに、みんなは憤慨しているようだ」
「静かな退職」を巡る騒動は、労働者よりもむしろ経営陣に影を落としている。多くの雇用主が長年にわたって労働者に対してより多くの働きを求めてきたが、労働者がそれにもう耐えられないということを浮き彫りにしているのだ。
「給料に応じた労働」をしながらも給料は高騰しているが、それでもインフレの上昇に追いついておらず、CEOの報酬が急騰しているのとは対照的だ。左派系シンクタンクの政策研究所(Institute for Policy Studies)のレポートによると、低賃金の企業300社でCEOは労働者の670倍もの報酬を得ていることが明らかになった。そのうち106社では、労働者の給与の中央値がインフレに追いついていない。
物価が上昇する中、労働者は仕事に対してより多くのものを求めている。ニューヨーク連邦準備銀行が行った2022年7月の調査によると、調査対象者が新しい職務に就くために受け入れられる最低賃金(留保賃金)の平均額は年収7万2873ドル(約1000万円)に達し、過去最高だった7万3283ドルからわずかに減少した。
しかし、労働者は新しい職務に就いても、実際にはそれほど多くの報酬を得ていない。過去4カ月間の平均的なフルタイム雇用者に提示される年収は6万764ドル(約880万円)だった。つまり、雇用主がより多くの働きを望む一方で、労働者は自身にふさわしいと思える報酬を得られていないのだ。
ビリーによると、「静かな退職」や「給料に応じた労働」に対する雇用主の反発は「おかしなこと」であり、ソーシャルメディアなどによって、労働者はそのような反発を見透かし、より批判的に捉えられるようになったという。
「職場で働くということは、箱の中に入れられるようなものだ。それは他人の箱なんだ」とビリーは言う。
「しかし職場をコントロールする方法はある。小さなことだとしても、その方法は本当にたくさんあり、勝利をつかむことができるだろう」
彼に力を与えたのは、仕事中にオーディオブックで聞いたカール・マルクスの『資本論』だった。彼はこれをわずか4週間で聞き終えることができたという。
[原文:Forget quiet quitting: Workers say they're acting their wage]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)