対面初期診療ワン・メディカル(One Medical)の39億ドル買収、法人向け遠隔診療アマゾン・ケア(Amazon Care)の年末撤退決定、そして次に来るアマゾンのチャレンジは……。
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アマゾン(Amazon)が「カタラ(Katara)」なるコードネームで呼ばれる新たなバーチャル・ケアプロジェクトをスタートさせた。現役従業員への取材を通じて明らかになった。
2022年末でのサービス終了が決定した「アマゾン・ケア(Amazon Care)」は、大企業を中心とする法人会員向けのオンライン診療サービスだが、カタラは法人契約を介さず一般消費者に直接医療サービスを提供するとみられる。
医療分野の「創造的破壊者」を目指すアマゾンは、法人向けサービスの失敗に懲りることなく、今後も破壊的イノベーションを追求していく模様だ。
アマゾンは7月下旬、対面プライマリ・ケア(初期診療)サービスを提供するワン・メディカル(One Medical)を、39億ドル(約5400億円)で買収すると発表。
それ以前も、オンライン薬局のピルパック(PillPack)を10億ドルで買収、PCR検査を含む臨床検査施設を社内に開設するなど、ヘルスケア事業の拡大に向けて野心的な動きを見せてきた。
今回判明したカタラもまた、アメリカだけで4兆1000億ドル(約590兆円)の市場規模を誇るヘルスケア市場を開拓するための新たな一手と位置づけられる。
カタラについてInsiderはアマゾンにコメントを求めたが、広報担当は「噂や憶測にはコメントしません」と回答した。
アマゾン・ケアが立ち上げ当初、同社従業員向けのサービスだったのと同じく、カタラも現時点では社内限定で試験運用されている。
ある現役従業員によれば、このプロジェクトは、ニキビや抜け毛・薄毛といった多くの人が悩む一般的な症状に対する診療をオンラインで提供する。
アプローチとしては、薄毛や勃起不全(ED)など男性の悩みに応える治療プランや処方せんをオンラインで提供するヒムズ・アンド・ハーズ(Hims & Hers)やロー(Ro)のようなD2C(消費者直販)型のヘルスケア企業に似ており、将来的には両社のような新興勢力にとって強力なライバルとなる可能性がある。
ヒムズやロー、あるいは慢性疾患を対象とする同じD2C型ヘルスケア企業のサーティ・マディソン(Thirty Madison)はいずれも、それほど深刻ではない疾患の診療からサービスをスタートさせ、現在はうつ病などの精神疾患、偏頭痛、不妊治療などにもカバー範囲を広げている。
例えば、「患者を中心とするヘルスケアシステムを構築している」(ブルームバーグ)ローは、2022年2月に既存投資家から1億5000万ドル(約210億円)を追加調達、評価額は70億ドル(約1兆100億円)に達した。
ローの提供する治療プランの多くは月払いの定額制で、オンライン診療後に処方薬が宅配される仕組みだ。
「アマゾン・ヘルス・サービス(AHS)」の動向
カタラのサービス内容やビジネスモデルは、すでに撤退を決めたアマゾン・ケアとは対照的だ。
アマゾン・ケアでは、アプリを通じて患者を診察する医療チームがあり、状況に応じて患者の自宅を訪問して直接診察することもあった。
法人会員の内訳は主に大企業。雇用主の企業が月額料金を支払うことで、その従業員はオンライン診療を利用できるようになる。
個人が加入する医療保険と提携することで、会員企業を通さず消費者に直接サービスを提供する事業展開を計画していたが、医療保険会社との交渉が難航し、結局は2022年いっぱいでサービスから撤退することになった。
現役従業員2人の情報提供によれば、新たなカタラプロジェクトを統括するのは、バイスプレジデント(ヘルスケア担当)のアーロン・マーティンだ。直属の上司はシニアバイスプレジデント(ヘルスサービス担当)のニール・リンゼイ。
なお、リンゼイはアマゾンのヘルスケア関連事業すべてをひとまとめにしたブランド「アマゾン・ヘルス・サービス(Amazon Health Services)」の総責任者で、7月下旬に買収した対面初期診療サービスのワン・メディカルもその傘下に入る。
バイスプレジデント(ヘルスケア担当)のアーロン・マーティン。全米最大級の医療グループ・プロビデンス(Providence)を経て、アマゾンに再入社した。
Providence
マーティンは2013年末まで8年以上にわたってアマゾンに勤務し、最後は電子書籍サービスのキンドル(Amazon Kindle)を担当するディレクターだったが、全米最大級の医療グループ・プロビデンス(Providence)に転籍。今年3月にアマゾンに復帰し、デジタルヘルス分野の取り組みをけん引してきた。
アマゾン・ケアからの撤退に関する取材の中で、同社の広報担当は「私たちの長期的なビジョンは、人々が健康を手に入れ、維持するために必要なヘルスケア製品やサービスへのアクセスを容易にすることです」と語った。
その「長期的なビジョン」達成に向けた具体策の一つが、マーティン率いるD2C型バーチャル・ケアということだろう。
「ヘルスケアの未来とアマゾンが果たすべき役割を再構築するため、今後も顧客や業界のパートナーから学び、さらなるイノベーションを追求し、業界最高水準のプレーヤーを目指していく考えです」(アマゾン広報担当)
Eコマースで培ってきた消費者直販の強みをヘルスケアサービスでも生かせるか。アマゾン・ケアと同じ轍を踏まないためには、そこがカギになりそうだ。
(翻訳:田原寛、編集:川村力)