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仮想通貨業界にとって節目となる出来事が間近に迫っている。
9月中旬、イーサリアムは「マージ」と呼ばれる待望のアップグレードを行う。この切り替えにより、仮想通貨のブロックチェーンはプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へと移行し、エネルギー使用量が99%以上削減されると見込まれている。
採掘者(マイナー)を排除することで運営費も削減できる。手数料から生じる額は、採掘者ではなく、自身で保有するイーサリアムをステーク(賭け金)として拠出する人々に分配される。残りは焼却(バーン)されるので、仮想通貨のデフレを招く可能性がある。
イーサリアムは6月中旬に年初来安値を更新し、1000ドル(約14万4000円、1ドル=144円換算)を割り込んだ。史上最高値から約80%の下落だ。しかし8月中旬には2000ドル(約28万8000円)を突破し、その後また下落に転じている。相場の乱高下は仮想通貨ならではのことで、十分に予想されることだ。
「今は買い時ではない」
「今回のアップグレードは実はイーサリアムにとって好材料です。長期的にはイーサリアムの価格を安定させ、上昇させます。運用コストを賄うために採掘報酬を換金している採掘者による売り圧力がなくなりますからね」
そう話すのは、イーサリアムのネットワーク上でローンチしたERC20トークン、ヘックス(HEX)の開発者であるリチャード・ハート(Richard Heart)だ。ただし、手数料が減るわけでないということを投資家は理解しておくべきだ。
HEXの開発者、リチャード・ハート。
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今イーサリアムを買うのはよくない戦略だとハートは言う。短期的には、イーサリアムの値動きに不利に働く可能性のある変動要因が多すぎるのだ。
ハートが開発したHEXは高金利の貯蓄口座を代替し、価値を貯蔵する手段となるよう設計されている。ハートはまた、パルスチェイン(PulseChain)と呼ばれる新たなレイヤー1にも取り組んでいる。これはイーサリアムの複製フォークになるもので、保有者のイーサリアムをコピーするという波紋を呼んでいるプロジェクトだ。
イーサリアムのアップグレードに不具合があればHEXにも問題が生じる、とハートは警戒する。どんなソフトウェアのアップデートにも、うまくいかない原因が潜んでいる可能性はある。これがマージ開始前の投機的な賭けをハートが推奨しない理由の一つだ。
リスクは価格の急落だけにとどまらない。昔からある株式投資では、投資家は常に投機をしている。ある企業が失敗すると思えば株の空売りさえ可能だ。ただし、ブロックチェーンのアップグレード失敗は価格の下落などではすまないおそれがある。取引が凍結される可能性すらあるとハートは指摘する。
慎重になるべき4つの理由
また、ビットコインの価格がさらに急落する可能性も高く、過去そうした場合にはイーサリアムの価格も引きずられて下落している。コインメトリクス(Coin Metrics)のデータによれば、ビットコインとイーサリアムは2017年後半から一貫して正の相関関係にあり、0.83という係数で、両者はともに上昇・下落する傾向にある。
まず、ビットコインはまだ史上最高値から最大下落幅の85%に達してしていない。これは仮想通貨の“冬の時代”に見られるパターンだ。以前、Insiderの取材に応じたハートは、ビットコインの底値は1万350〜1万600ドル(約149〜152万円)の間に落ち着かざるをえなくなると述べている。これはつまり、イーサリアムの底値は750ドル前後だということだ。
次に、過去に仮想通貨が“冬の時代”を迎えた際は、経済環境は全般的に安定していたとハートは指摘する。しかし今回はFRBがまだインフレとの戦いの最中であり、したがって金利は今後も上昇し続ける。金利が上がり続けるかぎり、株式市場や仮想通貨の市況は下落方向に向かう一方だという。
ハートは3点目として、「グレースケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)」がビットコインの約33%のディスカウントで取引されていることを指摘する。GBTCはビットコインに連動する小口の受益証券だ。これがビットコインの実需を吸収しているとハートは見ている。
「FRBの利上げが止まるといいんですが。そうすればビットコイン価格は85%下落し、グレースケールの割引も終わりますから」(ハート)
最後に、日米両政府が闇サイト「シルクロード(Silk Road)」を運営していたロス・ウルブリヒト(Ross Ulbrich)と東京のビットコイン取引所マウントゴックスから押収した大量のビットコインがまだビットコイン市場に放出されていない。
ある時点でビットコイン相場が株式相場から乖離したり、イーサリアム相場がビットコイン相場から乖離する可能性もあるとハートは指摘する。ただし、そうなるのは誰もが売りの局面を終えてからになるだろう。
(編集・常盤亜由子)