スナップ社のエヴァン・シュピーゲルCEOは9月1日、「Zenly」のサービス終了を発表した。
Photo by Snap, Inc./Getty Images for Snap, Inc.
2022年8月31日、パリのオフィスに集まったフランスの位置情報・ソーシャルメッセージアプリ「Zenly(ゼンリー)」のスタッフたちに告げられたのは、もう仕事はないこと、そして彼らが何年もかけて開発したアプリのサービスを終了するということだった。
Zenlyは、スナップチャット(Snapchat)の親会社であるスナップ社(Snap Inc.)によって2017年に2億1300万ドルで買収された。現在、スナップは20%以上(1200人以上)の人員削減を含む集中的なコスト削減を計画しており、Zenlyはその巻き添えを食らった形だ。
Zenly社員の1人はInsiderに対し、「我々はいま、『死の受容のプロセス』を経ているところです」と語る。
「皆、怒りと混乱を感じていますよ。そう、実際とても混乱しているんです。スナップへの統合とかマネタイズの話ではなく、サービス終了という決定はただただ驚きでした。普通の対処法じゃないですよ」
人員削減の詳細は、Zenly終了のニュースがTwitterにリークされた45分後に、スナップCEOのエヴァン・シュピーゲル(Evan Spiegel)が送ったメールに書かれていた。
「全くもって理不尽だ」と先ほどの社員は言う。
「本当にひどい対応です。経営陣からのコミュニケーションが絶望的に欠けていると言わざるを得ません」
買収後も独立チームとして運営
Zenlyのスタッフたちが混乱するのも無理はない。Zenlyの「成長、業績、未来への方向性」は堅調に推移していると信じていたからだ。スナップが突然の終了を発表するまでは、Zenlyアプリは最も成長の速いソーシャルプラットフォームの一つで、ユーザー数は約4000万人にまで成長し、Google Playストアでは1億ダウンロードを超えていた。
Zenlyのこの決定について、多くの社員やユーザーがTwitterに「ショックだ」「馬鹿げている」「悲しい」などと投稿したため、「Zenly」という単語がフランスと日本のTwitterでトレンド入りした。特に、日本には大きなユーザー基盤があり、かなりの損失だという指摘が多かった。
Zenlyは2011年にアレクシス・ボニーロ(Alexis Bonillo)とアントワーヌ・マルタン(Antoine Martin)によって共同創業され、6年後にスナップに買収された。買収は、スナップが友だちの居場所を調べることができるスナップマップ機能を導入したのと同時期だった。
Zenlyも同様の機能を売りにしているが、他にも友だちの居場所を通知する機能や、バーやレストランなどの場所を検索できる機能、さらにユーザー同士が近くにいる場合にメッセージを交わしてリアルで会いやすくする機能もある。
だが、Zenlyは買収後もスナップチャットに統合されることはなく、独立したチームとして運営を続けた。それによって「自分たちはスナップチャットとは全く違うやり方で戦うんだということがはっきりした」と社員は評価していた。CEOのマルタンは2022年4月に退いたが、マーケティング責任者だったマイケル・ゴールデンスタイン(Michael Goldenstein)がその後を継いだ。
Zenlyは、東アジアや東ヨーロッパでユーザーの支持を獲得するにつれ、アプリの世界展開にも注力した。テッククランチ(TechCrunch)のユーザーデータ分析によると、特に日本、タイ、ロシア、ベラルーシで人気があった。
Zenlyが買収された翌年には、クレア・バロティ(Claire Valoti)がスナップのグローバル展開の責任者に就任し、同社はイギリスの音楽アプリ「ボイジー(Voisey)」や、同じくイギリスのAIスタートアップ「エアリアルAI(Ariel AI)」など、数多くの買収を行ってきた。
それゆえに、今回のZenly終了のニュースをきっかけに、カリフォルニアを拠点とするスナップは数年前までのアメリカ中心主義的で近視眼的なスタンスに逆戻りしつつあるとの批判も出ている。
ボイジーやZenlyなどのヨーロッパの子会社は、スナップの飛行ドローンカメラ「ピクシー(Pixy)」とともにリストラの餌食となった。スナップは今年の収益減を受け、Zenlyだけでなくこれらのプロジェクトも「終了する」と発表したのだ。
一部のZenly社員は、他社がZenlyを買収してくれないかと今でも期待している。スタッフの1人によると、今年マルタンCEOが退任する前にその可能性が議論されていたという。
しかし、スナップの広報担当者はInsiderに対し、Zenlyは独立して営業するために必要な知的財産権(IP)を持っていないため、それは不可能だと語った。このIPはスナップチャット自体のプロダクトにも必要なのだ。
スナップは、Zenlyの成長鈍化や採算性の悪さも終了の理由だとしているが、Zenly社員はアプリのマネタイズを提案してもスナップに却下されたと主張している。
9月1日の全社会議に出席したスタッフによると、シュピーゲルは全社員に向けたスライドでZenlyの終了に簡単に触れただけだったという。
「このアプリを世界で最も急速に成長するソーシャルアプリの一つにするために血と汗と涙を流してきた私たちに対して、あまりにもひどい仕打ちです」と社員の1人は言う。
別の社員は、スナップがZenly社員に付与したストックオプションは人員削減後に権利確定しないと主張したが、スナップはこの件に関してコメントしていない。
(編集・野田翔)