米投資信託評価機関モーニングスター(Morningstar)は最近の調整局面、見通しの不透明さにも「まったく絶望の必要はない」と断言する。
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「安値で買い、高値で売る」は長く言い伝えられてきた相場格言であり、ルールブックにも定着したあまりに基本的な自明の理であって、もはや陳腐な表現と言うべきかもしれない。
足元のように弱気相場がこの後どう動くか見えてこない状況では、安値に釣られて押し目買いに手を出したくなるものだ。
もちろん、運良く株価が上昇すれば、その波に乗ってリターンを手にすることができる。けれども、株価上昇に至らずそのままずるずると下落…という展開になったらどうだろう?
米資産運用大手リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズ(Richard Bernstein Advisors)最高投資責任者(CIO)補佐のダン・スズキによれば、こうした拙速な安値拾いはよくある誤謬(ごびゅう、誤った考え)の代表格で、最終的に投資家に損失をもたらす可能性が高いという。
過去10度の弱気相場を振り返ると、うち7度では、早期に安値拾いに動いた投資家より遅れて動き出した投資家のほうが確実にリターンを上げているとスズキは指摘する。
スズキは先月公開したコメンタリー(8月16日付)でこう述べている。
「買いは(相場の底値に対して)早めよりも遅めのほうが良いことを歴史が示唆しています。
そうすることで、ダウンサイド(下振れ)の可能性を劇的に減らしてリターンを向上させるだけでなく、最新のファンダメンタルズに関するデータを吟味するもう一段の時間の猶予を得られるからです。ファンダメンタルズを無視するのでは、ただの当てずっぽうになります」
スズキは、1982年、1990年、2020年という3度の弱気相場を、早めの買いが有利となった例外的事例と説明する【図表1】。いずれも、米連邦準備制度理事会(FRB)がハト派転換した(利下げに転じた)後の相場だったからだ。
【図表1】リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズ(Richard Bernstein Advisors)による過去の弱気相場の底打ち前後6カ月のトータルリターン比較。赤枠内は「遅め投資(青)」が「早め投資(橙)」を上回った実績。
Richard Bernstein Advisors LLC
足元の状況と比較すると、8月末のジャクソンホール会議(米カンザスシティー地区連銀主催の国際経済政策シンポジウム)でパウエルFRB議長からタカ派的発言があり、9月下旬の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.75ポイントの利上げが予想され、ハト派転換への道筋はまだ不透明。
したがって、慎重な銘柄選別を抜きにして株式へのエクスポージャー(資産を特定のリスクにさらす割合)を大幅に増やすのは「時期尚早」と、スズキは投資家に警鐘を鳴らす。
2つの長期投資テーマに基づく推奨9銘柄
スズキが指摘するような弱気相場のわなが張り巡らされた状況で、投資家はどう動くべきだろうか。
米投資信託評価機関モーニングスター(Morningstar)米国株チーフストラテジストのデイブ・セケラは「ファンダメンタルズ分析を通じて、競争上の優位性を長期持続できる銘柄をごく慎重な姿勢で選ぶ」スタンスを前提とした上で、「絶望する必要はまったくない」と断言する。
同社が毎週更新するポッドキャスト「インベスティング・インサイツ(Investing Insights)」の最近のエピソード(9月2日配信)で、セケラは次のように語った。
「現在の株式市場には実際に多くの投資機会があると私たちは考えています。足元の調整局面をベースにさまざまな視点から市場を分析すると、当社がカバーする米国株をひとかたまりとした場合、適正価格に対して約15%割安で取引されていると考えられます」
セケラによれば、2022年下半期は長期的な成長が予想される2つのテーマ、すなわち「電気自動車(EV)」と「サイバーセキュリティ」への投資に大きなチャンスが眠っているという。
最初に挙がる注目サブセクターは「リチウム」だ。電気自動車の継続的な普及に合わせて、長期的な成長が見込まれる。
「当社は2030年までにグローバル新車生産台数の3分の2をバッテリー電気自動車(BEV)もしくはハイブリッド車が占めるようになると予想しています」
リチウムは今後10年間の生産増が予想されているものの、圧倒的な需要集中により市場は供給不足に陥り、価格上昇が進むとセケラは指摘する。
具体的な推奨銘柄としてセケラが挙げるのは、リチウム・アメリカズ(Lithium Americas)、アルベマール(Albemarle)、ライベント(Livent)というリチウム専業3社だ。前者は長期適正価値の半分以下、後二者は20%のディスカウントで取引されているという。
電気自動車は内燃機関車に比べて2~3倍の特殊化学品を必要とするため、電気自動車という長期テーマには、サブテーマ「スペシャルティケミカル」をカバーするデュポン(DuPont)やイーストマンケミカル(Eastman Chemical)など化学メーカーへの投資も含まれる。
さらに、ボルグワーナー(BorgWarner)のような「自動車部品サプライヤー」も選択肢となるサブテーマだ。同社は電気自動車市場の成長拡大を支える堅固な製品ラインナップを取り揃えているにもかかわらず、現在(モーニングスターによる)予想適正価値のおよそ半値で取引されている。
さて、セケラが注目するもう一方の長期投資テーマは「サイバーセキュリティ」だった。
「目の前の地政学的な情勢、ランサムウェア攻撃の増加を考慮すると、企業にとってサイバーセキュリティの重要性はかつてないほど高まっていると言わざるを得ません。
サイバーセキュリティ市場は長期的な成長が予想され、実に魅力的なダイナミクスが作用する際立ったセクターだと考えています」
このセクターでセケラが推奨銘柄として挙げるのは、クラウド型ID管理・統合認証サービスのオクタ(Okta)、統合型脅威管理プラットフォームのフォーティネット(Fortinet)、クラウドセキュリティプラットフォームのゼットスケーラー(ZSZscaler)。
3社はそれぞれ適正価値に対して50%、25%、25%のディスカウント価格で取引されているという。
モーニングスターの推奨9銘柄を時価総額、サブセクターとともに以下にまとめた。
[推奨1]リチウム・アメリカズ(Lithium Americas)
Markets Insider
[時価総額]39億ドル[サブセクター]リチウム
[推奨2]アルベマール(Albemarle)
Markets Insider
[時価総額]320億ドル[サブセクター]リチウム
[推奨3]ライベント(Livent)
Markets Insider
[時価総額]59億ドル[サブセクター]リチウム
[推奨4]デュポン(DuPont)
Markets Insider
[時価総額]280億ドル[サブセクター]スペシャルティケミカルズ
[推奨5]イーストマンケミカル(Eastman Chemical)
Markets Insider
[時価総額]110億ドル[サブセクター]スペシャルティケミカルズ
[推奨6]ボルグワーナー(BorgWarner)
Markets Insider
[時価総額]89億ドル[サブセクター]自動車部品サプライヤー
[推奨7]オクタ(Okta)
Markets Insider
[時価総額]96億ドル[サブセクター]サイバーセキュリティ
[推奨8]フォーティネット(Fortinet)
Markets Insider
[時価総額]400億ドル[サブセクター]サイバーセキュリティ
[推奨9]ゼットスケーラー(Zscaler)
Markets Insider
[時価総額]210億ドル[サブセクター]サイバーセキュリティ
(翻訳・編集:川村力)