キャリアチェンジをしようと思うなら慎重に進めよう。
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仕事があまりにもマンネリ化してくると、新しい業界を知り、新しいスキルを磨き、新しい同僚と出会い、さらには収入アップの可能性もある転職という選択肢が魅力的に映るものだ。
コロナ禍が始まってから、世界中で何百万もの人たちが大きなキャリアチェンジをした。米国労働統計局は転職についての統計はとっていないが、2022年7月に発表されたマッキンゼーのレポートからは、この「大退職時代」が新たな人生のスタートになった人たちもいることが分かる。
6カ国1万3000人の労働者を対象に行われた調査をもとにしたこのレポートによれば、過去2年間にフルタイムの仕事を辞めた2800人の回答者のうち約半数が、異業種にキャリアシフトしている(ただし、異業種への転職割合は2019年から変わっていないとする別の調査もある)。
「コロナ禍でさまざまなことが激変し、人々の人生観が大きく変わりました。『どんな仕事をしたいのか』ではなく、『どんな人生を送りたいのか』という、より広い視野からの疑問を持つようになったのです」と言うのは、『The Long Game』の著者であり、戦略コンサルタント・エグゼクティブコーチのドリー・クラーク(Dorie Clark)だ。
もしあなたもそんなふうにキャリアチェンジを考えているなら、転職によってどんな変化が起こりうるのか知りたいと思うだろう。異業種についてしっかり調べる、キャリアカウンセラーや知人と話してみる、債務を整理しておくなど、転職するための有益な情報は巷にあふれているものの、転職によってどんな問題が生じやすいかというリアルな情報にはあまり出くわさない。
そこで4人の専門家に、キャリアチェンジに適切な精神状態であるかの判断や、現職で昇進を打診されたときにどうするべきかなど、大きなキャリアチェンジをしようと考えている人が知っておくべきことを聞いた。
1. 現職に不満なら、昇進のオファーは受けないで
上司が細かすぎる、延々と終わらないプロジェクトに従事しているなど、仕事に不満を感じる理由はたくさんあるだろう。ただ、そういったことがキャリアを大転換させる理由になるとは限らない。部署異動や別の業務の担当に替えてもらうことで状況が好転する場合もある(この点についてはさらに後述する)。
新しい肩書と昇給につられて自分に向いていないキャリアパスにとらわれないようにしよう。
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専門家によれば、すぐに転職を考えるべき状況があるとすれば、日常的に自分の仕事にかなり不満を感じている場合だ。その場合は、大きなキャリアチェンジをしたいという自分の中の小さな心の声を無視しないようにしよう。
また、現職で昇進をオファーされたからといって、本来歩むべき道から外れたりしないよう注意すべきだと、キャリアチェンジについての研究を最近行ったラトガース大学の人事マネジメントの教授であるマリア・クレイマー(Maria Kraimer)は言う。
彼女の研究では、大学などで学び直しをして新たな職種のキャリアを築きたいと思っている人でも、現在の職場で昇進すると転職を選ばないことが多いという。
「通常より近道で昇進・昇給して満足することで、その仕事やキャリアパスから離れられなくなるのです。ただそれから10年、15年経って、『やりたいことはやっぱりこれじゃなかった』と気づくのです」
昇進すれば短期的には満足するかもしれないが、新たな肩書と昇給につられて自分に合っていないキャリアパスに縛られるのは避けるべきだ。
2. 転職についての自分の考えを認識する
仕事を変えることにはリスクが伴うため、スキルを身に付けるための時間とお金をかける余裕のない中堅社員は軽く考えるべきではない。
時間とお金の問題以外にも、仕事を覚えるのには精神的にかなりのエネルギーを要する。思うようにいかなかったり、自信が持てないことも出てくる。
もちろんそれは必ずしも悪いことではないし、実際、居心地の悪い状態は学習意欲や個人の成長につながることを示唆する研究もある。ただ、人生のどのステージにいるかによって、そういう環境に対処できる余裕がない場合もあるのだ。
「私たちのやれることは限られていて、気を配れる事柄も有限です」と言うのは、『Choke: What the Secrets of the Brain Reveal About Getting It Right When You Have To(未訳:ここぞという時の失敗——問題を解決するヒントをくれる脳の秘密)』の著者であり、バーナード大学の学長を務める認知科学者のシアン・ベイロック(Sian Beilock)だ。
新しい仕事に飛び込む前に、転職することで自分の私生活や家族と過ごす時間にどんな影響があるかを考えよう。
「自分にとっていいタイミングではないという結論になるかもしれません」
それでもベイロックは、変化が怖いという理由で転職をやめることは避けるべきだと言う。ベイロックの研究によれば、困難な状況に対する視点を変えることで、事態を乗り越えやすくなり、それによりパフォーマンスが改善することがあるという。
「動機が激しくなったり手汗をかいたりという生理学的覚醒は重要なタスクに備えるための身体の反応であり、それによりパフォーマンスが高まる場合がある」ということを説明した文章を高校生のグループに読ませたところ、その後に受けたテストの点が改善し、不安度も低くなることが分かったという。
「一番大切な相談相手は自分です。成功者も失敗者も生まれつきそうだったわけではありません。自分の内面のレジリエンス(回復力)を鍛えることで、キャリアチェンジについて恐れるのではなく、楽しみに感じるような視点も持つこともできるのです」
3. 辞めたい要因を分析する
なぜ今の職場を去ろうとしているのか?
マーケティング代理店Women Online創業者で「Anxious Achiever」というポッドキャストを配信しているモラ・アーロンズ・メレ(Morra Aarons-Mele)は、なぜ今の仕事を辞めるのかを立ち止まってよく考えるべきだと主張する。
職場や仕事で何か嫌なことがあるから逃げたいのか。新たな仕事のチャンスに惹かれ、それをやってみたいからなのか。転職理由として間違ったものがあるわけではないが、転職したい理由を紐解いてみることが重要だとアーロンズ・メレは言う。
今の仕事から離れたくなる原因があるのなら、なんとかそれを解決する方法はないかを考えてみよう。今の仕事から逃げたいのは、上司が嫌い、または動画チャットが多すぎるなどの理由ではないのだろうか?
「そういった理由であれば、退職しなくても解決できる可能性があります」
会社側に部署やプロジェクトの異動希望を伝えたり、特定の定例会議は不参加にすることを提案してみるのもいいだろう。
4. 焦らず、新人になることをポジティブにとらえる
「コロナ禍は激動のときでした」と話すドリー・クラーク。
Dorie Clark
転職先ですぐに成功することはあまりない。経験が乏しく人脈もあまりない異業種転職ならなおさらだ。
ベストなアプローチは、まずは今の仕事を続けながら、平日の夜や週末の時間を使い、行きたい業界の仕事に就きやすくするための副業を始めることだ。そうすることで、今より不安定になるかもしれない分野に飛び込む前に、少なくとも安定した収入は確保しておける。
戦略コンサルタントのクラークは「しっかり準備する必要があるなら、自分が思っている転職タイミングよりももう少し時間をかけた方がいいでしょう」と言う。
また、新しい仕事に就くのは怖いと思うかもしれないが、新人というステータスをポジティブに捉えるべきだという。
「新しい仕事では、最初は往々にして一歩を踏み出すどころか一歩二歩の後退を余儀なくされるものです。ただ、それも必要なプロセスなのです」
[原文:Thinking of making a career change? Here are 4 things no one tells you about taking the plunge]
(翻訳・田原真梨子、編集・大門小百合)