激戦フードデリバリー「日本の独自需要」見えたか、Wolt日本の女性トップに聞く…買収、ダークストア撤退も

Woltマスコットキャラクター

DoorDashに買収されたWoltだが、日本ではWoltブランドで統一されることになった。

撮影:小林優多郎

日本におけるデリバリー業界は短期間でめまぐるしく情勢が変化している。

2021年11月9日の米DoorDashによるWolt(ウォルト)買収発表から10カ月が経過した。

国内では、出前館やUber Eatsが先行する中、独Delivery Heroブランドのfoodpandaが2021年12月に突然の日本市場撤退を発表した。

さらに、DoorDashによるWolt買収によって、9月1日からは「Woltを日本国内での存続ブランドとする」新体制がスタートした。

Wolt Japanの代表は、女性トップの野地春菜氏が務めている。野地氏はUber Eatsの日本立ち上げに参画し、Woltに入社する直前にはUber Eatsで6部門を統括する要職を務めていた人物だ。

取材からは、激動の日本のデリバリー業界のなかで、Woltが日本独特の「需要」を見つけ出しつつある様子が見えてきた。

Woltが見据える今後の日本のデリバリー事業についてまとめたい。

アメリカの「人口シェア94%」並みの拡大を目指す

ヘルシンキの街並み

クリスマスシーズンにライトアップするフィンランドの首都ヘルシンキの街並み。

撮影:鈴木淳也

「加盟店と利用者、配達パートナーにWoltブランド1本化のご案内をお送りしましたが、混乱もなく当初の想定を上回って統合が実施できました。

加盟店のみなさまにはこうした経済状況のなか、初期投資もできるだけ少なくなるように、Woltに載っていただいて稼働していただけるよう務めています。

反響としては、Woltが新生DoorDashグループとしてスタートするということで、期待の声をいただいています」(野地氏)

DoorDashによる買収以降、Woltの課題はブランド統合の部分にあったが、今後は事業統合を踏まえてどのように日本市場での展開を見据えているのか?

今後1年以上先の数値目標などについて野地氏は次のようにコメントする。

「具体的な数字を出すのは難しいですが、日本は引き続きDoorDashとWoltグループにとって最重要市場の1つであることは変わらず、継続的投資を行っていきます。

シェアの面で言えば、DoorDashはアメリカ市場において後発でありながらシェアトップを獲得しており、われわれはこうしたノウハウを持っています。

例えば、同国におけるDoorDashの人口カバー率は最新データで94%であり、これは郵便事業よりもはるかに高いカバー率となります。

このようなスケールできるセールスオペレーションのノウハウをもって、日本市場のシェアを獲得していきます」(野地氏)

野地春菜氏

Wolt Japan代表の野地春菜氏。

画像:筆者によるスクリーンショット

現在のところ、Woltは戦略的にエリアを絞って展開している。ただし、中長期的にはアメリカでやっているような人口カバレッジを目標とした戦略に切り替え、「社会インフラ」として機能するようになることを目指すと野地氏は説明する。

アメリカでは人口1万人を切る場所でもデリバリーサービスを提供できている。日本でも同様の社会インフラを目指すのであれば、こうした展開を視野に入れる必要がある —— というのが野地氏の考えだ。

また単純なエリア展開のみならず、ブランド投資も継続する。

例えば、Woltでは女優の水川あさみ氏と俳優の田中圭氏をアンバサダーに起用したTV CMを北海道、岩手、広島の展開エリア限定で放映しつつ、北海道の日本ハムファイターズとのスポンサー契約も結ぶなど、地域コミュニティの応援や活性化に寄与している。

事業移管したDoorDashも最初の展開エリアである仙台を拠点とするベガルタ仙台とのスポンサー契約をしており、Woltにおいてもこの契約を継続しているという。

コロナ禍で急伸した「医薬品」配達の需要

コストコの商品

一部地域ではコストコの商品もWoltで注文できるようになった。

撮影:小林優多郎

前述の社会インフラを目指すうえで重要なのが取り扱い範囲の拡大だ。

Wolt発足時はレストランのデリバリー事業がスタートだったが、現在では料理のみならず、日用品、食料品、医薬品までデリバリーの対象が拡大している。

Woltではこれを「ポケットの中のショッピングモール」と銘打っているが、商業活動をデリバリーという軸で自社のビジネスに取り込んでいくことになる。

ポケットの中のショッピングモール

Woltがうたうコンセプトの1つが「ポケットの中のショッピングモール」。

出典:Wolt

「我々のレストランの食事以外の小売りへのアプローチとしては2つあり、1つは自社のダークストアでの運営、2つめがパートナーシップによるデリバリーの請け負いです。

2021年から2つを走らせた結果、パートナーシップが非常に好調であることがわかり、7月時点でダークストアの運営を終了し、リテールパートナーに事業の集中を行っているところです。

業種は多岐にわたりますが、メインがスーパーマーケット、ドラッグストア、そしてコストコのような専門店、百貨店といったところが多く、それにコンビニが続きます」(野地氏)

医薬品など

食料品だけではなく、医薬品や日用品まで取り扱うWolt。

撮影:小林優多郎

野地氏によれば当初想定していなかったものの、このクイックコマースでここ最近利用が急増したものが「医薬品」だという。

医薬品の売り上げは約1カ月前と比べて倍増、特に風邪薬や解熱剤、鎮痛剤の需要が多く、風邪薬はカテゴリー単体でいえば5倍近くまで急増した。

加えて、スポーツ飲料や経口補水液、冷却ジェルシートなどの冷却用品の売上も倍増、コロナ第7波の拡大で需要が急拡大した形だ。

早い段階で医薬品の取り扱いを開始した福岡では、7月は前月比で解熱剤や保存の利く即席麺の売上が2倍、スポーツドリンクは3倍の売上となった。

医薬品が目立つ形となったが、Woltのリテールデリバリー事業全体をみても食料品だけで27%、日用品26%の増加となっており、自宅療養中、あるいは体調不良で動けない状況での医薬品や日用品のデリバリー需要は拡大しつつあるようだ。

Wolt App

フードデリバリーのみならずクイックコマースで日用品や医薬品などの即時配達サービスを受けられるのもWoltの特徴の1つ。

画像:筆者によるスクリーンショット

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