Carles Navarro Parcerisas/Getty Images
- 全米経済研究所の最新調査によると、世界中の豊かな国で「中年の危機」 が生じている。
- それは45歳ごろに「深刻な仕事のストレス」などのさまざまな症状が現れることを指す。
- 中年期は多くの人にとって収入のピークであるにもかかわらず、危機が訪れているという。
「中年の危機」という現象に注目した新しい研究が発表された。その結果はあなたの父親がスポーツカーを衝動買いすることよりも深刻なものだ。
これは全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)が発表した新たな論文によるもので、豊かな国々における 「中年の危機」 について記している。研究者たちは、基本的な生活満足度の低下に加え、中年期には深刻な仕事のストレス、自殺、睡眠障害、アルコール依存、極度のうつ病などが増加することを発見した。
この危機は、多くの中高年者が所得のピークを迎え、健康上の問題もほとんど抱えず、安全で豊かな地域に住んでいるにもかかわらず続いているという。研究チームはこの発見を「逆説的で厄介なもの」だとしている。
彼らは「この社会問題の深刻さは、豊かな国々の政策担当者には把握されていないと我々は考えている」としている。
研究チームは、「仕事のストレスの最高レベル」に達するのは45歳前後であることが分かったとし、このストレスが血圧の上昇、うつ病、メンタルヘルス不調の予測因子となり得るという先に行われた研究を引用している。
この研究は、アメリカ、カナダ、イギリスを含む約50万人のデータを調査したもので、論文審査を受けてはいないが、その結果は、多くの中年期にあるアメリカ人が仕事で経験する不満を浮き彫りにしている。
ギャラップ(Gallup)が2022年に実施した「職場の状況(State of the Workplace)調査」によると、アメリカとカナダの従業員の50%が勤務前日に「大きな」ストレスを経験しており、これより高いストレスレベルを感じていたのは東アジアの従業員だけだったと報告されている。
また、「大退職(The Great Resignation)」は当初は若い労働者が拍車をかけたかもしれないが、高齢労働者もそれに参加しているという証拠も出ている。Voxの分析によると、50歳から60歳の世代の退職者数は、2022年第1四半期に同期前年比で34%増加したという。
ストレスの多い仕事に就くアメリカ人は「静かな退職」をするか、より良い環境に移る
職場のストレスに対応するため、一部のアメリカ人は仕事と生活に境界線を引き、仕事一辺倒ではない考えを意味する「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉を新たに使っている。
「あきらめて辞める必要はない。ただ、自分の責任や存在、頑張る気持ちを小さくするのだ」と、2018年に「静かな退職」を実践した元教師のマギー・パーキンス(Maggie Perkins)が以前Insiderに語っている。
また他には、より良い賃金やワークライフバランスを求めたり、起業するためにキャリアの途中で仕事を辞めた人もいる。Voxの同分析によると10年から15年勤務した従業員の退職が57%も増加していることが分かっている。
39歳のアンティシャ・ウォリー(Antisha Walley)は、10年以上人事の仕事に携わった後、上司の決定に納得がいかなかったため、2020年に独立したと以前Insiderに語っている。
研究チームは、カナダの精神分析医、エリオット・ジャック(Elliot Jacques)が「中年の危機」という言葉を生み出したと言われる1965年以降のデータを使用している。つまり、パンデミックの間に報告された転職、うつ病、ストレス、アルコール摂取の増加は、研究者たちが過去数十年にわたり立証してきた中年期の苦痛を説明するものではない。
論文の研究チームは、中年期にこのような「極度の苦痛」を引き起こす原因について結論を出していないが、もっともらしい説明として、子育てのストレス、他人への妬み、満たされない願望などを挙げている。一方、「知恵」や「分別」の高まりは、多くの人が後年経験するストレスレベルの低下に一役買う可能性があるとも彼らは指摘している。
研究チームは「中年の危機」が「豊かな現代社会の副産物」なのか、それとも人類の初期の祖先にルーツを持つ「時代を超越した」現象なのかについても結論を出していない。例えば、チンパンジーとオランウータンは人生の半ばで 「心理的な落ち込み」 を経験するという研究結果もあり、「中年の危機」は生物学的なものなのかもしれない。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)
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