イーサリアムの共同創設者、ヴィタリック・ブテリン。
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- イーサリアム財団によると、イーサリアムのいわゆる「マージ」は9月15日ごろに行われるようだ。
- ブロックチェーンのアルゴリズムをプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に切り替えることは、エネルギー効率の改善によって過密なトラフィックと高い取引手数料の問題を解決することを意味する。
- 専門家がこのアップデートの意味と今後に期待することについてInsiderに語った。
イーサリアム財団によると、待ち望まれていたイーサリアムの大型アップデート「マージ」は2022年9月15日ごろに行われる予定だ。これによってブロックチェーンのエネルギー消費が99%削減されると専門家は述べている。
6年前から始まったこのアップデートにより、イーサリアムはプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)という合意形成メカニズムに移行する。「ガス代」と呼ばれる取引コストが下がり、ネットワークはより速くトランザクション(取引)を処理できるようになる。
ブロックチェーンには数千億ドルの価値があるとされ、今回のマージはイーサ(ETH:イーサリアムの内部通貨)とビットコイン(BTC)の誕生以来、最も重要な暗号資産(仮想通貨)のイベントだと言う人もいる。イーサリアムは、NFTやスマートコントラクトといった暗号関連のいくつかの重要なアプリケーションの基盤となっている。
イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)は、2022年7月にPoSプロトコルへの支持をTwitterで表明し、99.95%のエネルギー消費を削減することが目標だと述べている。
暗号資産取引に関するセキュリティツールを提供するTRMの法務・政府関連責任者であるアリ・レッドボード(Ari Redbord)によると「マージとは、単にイーサリアム上でトランザクションを検証する方法が変わるということだ」とInsiderに述べている。
PoWはマイニングによってトランザクションを検証するが、それには大量のエネルギーが必要だ。PoSの場合、ブロックチェーンにおける資産の保有量(ステーク)が多いほど、あるいは保有期間が長いほど、検証する権限が与えられる確率が高まり、その報酬として利益を得られる(ステーキング)。
イーサリアムブロックチェーン上のデータベースを小さく分割(シャーディング)すると、より高速な処理が可能となり、いわゆる「イーサリアム2.0」が実現する。現在のイーサリアムでは毎秒約30件のトランザクションが処理できるが、イーサリアム2.0ではそれを毎秒10万件にすることを目指している。
「新たなパラダイムの下では、分散型ネットワークは固定費を抑えて運用でき、通貨や金融用途だけでなくより大規模な問題への解決策にもなるだろう」と、分散型金融(DeFi)企業、Koii Networkの共同創業者、アル・モリス(Al Morris)はInsiderに述べている。
潜在的なリスク
専門家はInsiderに語ったところによると、マージの余波がポジティブなものになるとは限らないし、不確実性も残るという。
トランザクションの安全性
PoWの支持者は少数のイーサ保有者がやがて過大な支配力を持つようになると警告しているが、PoS支持者はネットワークへの投資者による支配力が高まれば、より安全なシステムにつながると主張している。
デジタル資産分野の違法行為の監視を専門とするレッドボードは、今回のアップデートでチェーンの安全性が向上するかどうかは分からないという。
ステーキングへの疑問
「新しいステークベースのモデルが多くのノードオペレーターを惹きつけるのだろうかという疑問が残る。というのもPoWでは単純に(マイニングのために)エネルギーを燃焼させるのが普通のことだったが、PoSではステーキングの前に担保としてトークンを買わなくてはならないからだ」とモリスは述べている。
彼は、ステーキングの必要性が最終的にはより長期的な価格の安定につながる可能性があると主張している。
他のブロックチェーンとの競争
専門家は、イーサリアムのブロックチェーンでのトランザクションは確かに速く、安くなるだろうが、他のより小さなチェーンと比較するとそれほどでもない可能性があると警告している。
Web3のゲーミングコミュニティFITCHINのサンティアゴ・ポルテラ(Santiago Portela)CEOは「調べていておもしろいのは、新興のブロックチェーンが市場でのシェアをいかにイーサリアムから奪っているのかということだ」とInsiderに語っている。
「ソラナを見れば分かる。すでに超高速で超安価だ。かなりのユーザーが利用している。実際、NFTの売上と取引は、ソラナがイーサリアムを超え始めている」
機関投資家による投資
バンク・オブ・アメリカ(BofA)は9月9日に発表したノートで、マージが機関投資家による幅広い投資を促す可能性があると述べている。
同行のアナリストによると、エネルギー使用量の「大幅な削減」によって、これまでPoWの枠組みに基づいて構築されたトークンへの投資を禁じられていたトレーダーからの買い付けが増える可能性があるという。
イーサリアムブロックチェーンでは段階的なアップグレードが予定されており、最初に行われるマージは、次の「サージ(Surge)」につながるものだとBofAは説明している。サージはスケーラビリティ(データの処理能力)の向上とガス料金の最小化を目的としている。
アナリストは、このイベントがWeb3エコシステムの普及の先駆けとなる可能性があると述べている。
「保険会社は一般的に、企業や政府の金融商品に投資する。デジタル資産のエコシステムでは、同様のリスクとリターンの特性を持つ商品はなかなか見つからない。あるいは存在していない。その代わりになり得るものとして最も近いのが、イーサリアムでステーキングをすることかもしれない」
[原文:Ethereum Merge Explained: Experts break down the risks of the long-awaited crypto update]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)