9月12日、米サンフランシスコでゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)が主催した「コミュナコピア+テクノロジーカンファレンス(Communacopia + Technology Conference)2022」初日の様子。
Alistair Barr/Insider
米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)主催「コミュナコピア+テクノロジーカンファレンス(Communacopia + Technology Conference)2022」の初日(9月12日)終了後、サンフランシスコのパレスホテルのバーで長いこと関係を築いてきた情報源の1人と話した。
「本当にひどい年だよ」。テック分野に長年投資を続けてきたその男性は、オールドファッションド(ウイスキーベースのカクテル)をちびちびやりながらそうこぼした。
株式市場は年初来、多少の回復期を挟みつつも下落を続け、ハイテク株とりわけ彼が好んで支援する長期保有型のグロース株は大きな痛手を受けた。新規株式公開(IPO)件数は激減し、2023年まで回復は見込めそうにない。M&A(合併・買収)市場も厳しいだろう。
奇しくもカンファレンス初日早々、ゴールドマン・サックスが数百人規模のレイオフを実施するとのニュースが飛び込んできて、まさにダメ押しじゃないか。彼の愚痴はそんな具合だった。
それでも、カンファレンスは多くの参加者で賑わい、あるゴールドマンのバンカーは過去の同カンファレンスで一番の盛況ぶりだと語っていた。
登壇したテック企業の経営幹部たちは大半がネガティブな見通しを口にしたものの、だからと言って不安におびえるような様子はなく、2023年については慎重ながら楽観視する向きも見られた。
テック企業、とりわけ半導体メーカーとその顧客企業の動向は、注目すべき最重要の経済指標の1つ。半導体チップはいまやあらゆる製品に組み込まれており、それゆえ需要が減退する際にその影響を真っ先に体感することになるのは、半導体メーカーやそれを必要とする企業というわけだ。
カンファレンスの参加者たちにその場で共有されたのは、端的に言えば、次のようなメッセージだった。
近頃の記憶の限りでは最も奇妙に感じられる景気減速が、いま目の前にある。金利は上昇を続け、インフレはしぶとく高止まりしたままで、本当の痛みがやって来るのはこれからだと多くの人々が感じている。しかし、そんな中でもテクノロジー業界は一定の持続力を発揮しながら前進を続けている——。
しかし、私の情報源の投資家は、そんなメッセージを身も蓋もない表現に翻訳した。彼はテスラ(Tesla)やアマゾン(Amazon)を引き合いに出してこう言った。
「要するに、誰もが(前進を続けるその)車輪が外れる日がいつ来るのかと待ち受けているわけだが、いまのところ何とかまだ回っているということだ」
「きわめて急激な需要の減退」
PCおよびサーバー大手、米デル・テクノロジーズ(Dell Technologies)共同最高執行責任者(Co-COO)のチャック・ウィッテンは9月12日午後に登壇し、やはり(先述のメッセージ同様に)警戒感の中に静かな自信を感じるプレゼンを行った。
法人・コンシューマー向けにノートパソコンや周辺機器を販売する同社のクライアントソリューショングループ(CSG)は、2020会計年度第2四半期(5〜7月)に「きわめて急激な需要の減退」が見られたという。
法人顧客については、(景気減速で)従業員の採用を手控える傾向にあり、新規のコンピュータ購入への需要が減った。コンシューマー向けも、第2四半期についてはあらかじめ厳しい数字を予想していたが、予想を上回る勢いで減速が進んだという。
足元では「中小企業より大企業のほうが深刻な業績低迷に直面」しており、その点では、これまでの景気後退とは逆の現象が起きていると言える。
ウィッテンCOOは「この状況をどう解釈すればいいのか。はっきりと言えることはありません」としながらも、現在の経済状況がこれまでとあまりに異なるため、過去の景気後退時に使った戦略をあらためて適用しても事態を打破できない可能性があると指摘した。
一方、大手クラウドプロバイダーや他の大企業にサーバーやストレージを販売するデルのインフラストラクチャーソリューショングループ(ISG)は、相対的にCSGを上回るパフォーマンスを発揮している。
サーバーの(納品前の)受注残は良好で、注文のキャンセルも増えていない。クラウドサービスを必要とする顧客の旺盛な需要に、現時点で世界は十分応えられていないとウィッテンCOOは強気の見方を示した。
なお同日は、データインフラ向けファブレス半導体メーカーの米マーベル・テクノロジー(Marvell Technology)経営幹部も登壇し、クラウド企業からの同社製品に対する需要の大きさに自信を示す発言をしている。
「非常に厳しい環境」
ここまでデルが示した将来見通しを多少詳しく紹介したが、他のテック企業からも楽観視する発言は聞かれなかった。
マイクロソフト(Microsoft)エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフコマーシャルオフィサー(CMO、販売戦略策定責任者)のジャドソン・アルソフは、「間違いなくここ数十年で最も不確実性が高い経済環境」と表現した。
NAND型フラッシュメモリやDRAMチップなどデータストレージソリューションを提供するウェスタンデジタル(Western Digital)のデービット・ゲックラー最高経営責任者(CEO)は、「非常に厳しい環境」にあると嘆息した。
特に「NAND業界は長いこと見たことのない勢いで収縮している」状況で、需要と価格が低下していることから、次の生産拠点立ち上げも後ろ倒しになる見込みという。
競合企業の韓国・SKハイニックス(SK hynix)の匿名従業員は、ウエスタンデジタルのゲックラーCEOのネガティブ発言を聞いても特段驚かなかったと語る。
同従業員によれば、NAND市場はいまDRAM市場以上の苦境にある。現在、DRAM業界の主要プレーヤーはわずか3社で、バーゲニングパワー(交渉上の優位性)を発揮できるため、利益率も高い。一方、NAND業界は主要プレーヤーが5社いて競争環境がより厳しいのだという。
また、移動体通信向け半導体メーカーの米クアルコム(Qualcomm)からはクリスティアーノ・アモンCEOが登壇し、消費者需要の減退、特にローエンドスマートフォン市場の低迷に触れた。
「この需要の弱さは今後2四半期にわたって広がり続けると予測しています。2023年のどの時点かで元に戻るとは思いますが、それでも消費者をめぐる動向は弱気を想定しています」
(翻訳・編集:川村力)