6月に米医療情報技術サーナー(Cerner)の280億ドル買収手続きを完了させた米ソフトウェア大手オラクル(Oracle)の最新決算に、市場の注目が集まっていた。
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米ソフトウェア大手オラクル(Oracle)は9月12日、2023会計年度第1四半期(6〜8月)決算を発表。コア事業化を目指すクラウドビジネスの堅調な成長により、売上高がアナリスト予想を上回った。
総売上高は市場予想と一致する前年同期比17.7%増の113.5億ドル、クラウド部門の売上高は45%増と大幅に伸びて36億ドルだった。
オラクルが2021年末に「ヘルスケア業界を革新する」第一歩として約280億ドルを投じた米医療情報技術大手サーナー(Cerner)が売上高の積み増しに貢献した。
買収手続きは6月に完了したばかりで、今回の決算では同社史上最大規模の買収が財務や業績にもたらす影響に市場の注目が集まっていた。
サーナーに帰属する売上高14億ドルを除いたオーガニックグロース(買収などを除いた既存事業の売上高の伸び)は前年同期比8%増で、総売上高の30%超を占める新たなコア事業、すなわちクラウド部門(アプリケーション+クラウドインフラ)の成長力が示された形だ。
なお、オラクルのラリー・エリソン共同創業者兼最高技術責任者(CTO)は決算説明会で、12カ月以内に「買収後初となるサーナーのヘルスマネジメント製品」をリリースする計画を発表している。
オラクルはクラウドコンピューティングに事業の重心をシフトし、最近ではマイクロソフト(Microsoft)とのパートナーシップを強化。データベースとクラウドサービスの相互接続により柔軟かつ円滑なマルチクラウド環境を提供している。
それでも、クラウド市場シェアでは依然としてアマゾン(Amazon)、マイクロソフト、グーグル(Google)のトップ3社に大きく離されており、オラクルとしては現状に満足せずクラウドプラットフォームへの投資を続ける必要がある。
同社のサフラ・カッツ最高経営責任者(CEO)は決算発表会で、クラウド部門のさらなる成長に向けた重要なテコ入れとして、顧客企業がデータやアプリケーションを「オラクル・クラウド・インフラストラクチャ(OCI)」に移行するのをより強力に支援するため、エンジニアを増員したことを明らかにした。
また、オラクルは最近(9月12日)、同社のフルマネージド・データベースサービス「MySQL HeatWave」をアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)で利用できるようにしたと発表した。
同社チーフコーポレートアーキテクトのエドワード・スクリーベンによれば、AWSの顧客企業がデータを移動させることなく、また新たなプラットフォームについて学習する必要なく、オラクルのデータベースサービスを利用できる「選択肢を提供」したという。
エリソンはこの動きについて、データベースを利用する顧客を満足させるための取り組みであり、ITインフラを強化するため複数のクラウドプロバイダーを並行利用するマルチクラウド環境を希望する企業が増えていることへの対応でもあると位置づける。
「オラクルは今後もデータベース事業でトップシェアを維持できるのか、懸念する声が以前から数多く出ていることはよく承知しています。
その点についてはっきりと言えるのは、当社のデータベースを(他社運営を含む)複数のクラウド上で利用できるのであれば、その答えは間違いなくイエスだということです」
しかし、米ウォール街の専門家たちからは、クラウド市場の競合企業とパートナーシップを構築したりコラボレーションしたりすることでオラクルの抱えるあらゆる問題が解決するわけではない、との声も上がっている。
米大手投資銀行ウィリアム・ブレア(William Blair)のアナリスト、ジェイソン・アデルは最近の調査レポートで次のように指摘する。
「オラクルのパートナーシップが今後どんな展開を生み出すのか、現時点では判断がつきません。特に、アマゾンとマイクロソフトはクラウドインフラ、データベース、アプリケーションと最前線で競合関係にあり、悩ましいところです」
データベース製品市場で長いことシェア首位を守ってきたオラクルの優位性は、ドキュメント指向データベースのモンゴ(MongoDB)やAWS、グーグルクラウドら強力な競合が出現する中で揺らぎつつある。
前出のアデルによれば、オラクルが今後もデータベース製品市場のシェアを失い続けた場合、全体収益の成長見通しも限定的になってくる可能性があるという。
手元のキャッシュが不足
とは言え、同社の徹底した事業再編の取り組みが奏功し始めている面があるのも確かだ。
オラクルは第1四半期(6〜8月)だけで1億4400万ドルのリストラ費用を計上しているが、これは1年前に比べて約3800万ドルも多い。2022会計年度(2021年6月〜22年5月)は通期で1億9100万ドル、さらにその前会計年度は通期で4億3100万ドルを使った。
内情に詳しい関係者によれば、6月に約280億ドルを全額キャッシュで支払うサーナーの買収手続きが完了し、穴埋めとしてのコスト削減を進めてきたオラクルは、その延長にある取り組みとして、8月にマーケティング部門とカスタマーエクスペリエンス部門を中心に大規模なレイオフを実施した。
なお、それほど厳しい財務状況においても、同社がコア事業と位置づけるクラウド部門は人員削減の影響をほとんど受けなかった模様だ。
それでもやはりサーナーの買収コストは膨大で、オラクルが新たなヘルスケア関連プロダクトを生み出し、それを絡めてクラウドビジネスで強力極まりない競合に追いつくことができるかどうかはまだ分からない。
同社はクラウドサービスでデータセンターを置くリージョンを増設する計画を打ち出しているが、それも大きなコストを伴う取り組みだ。
そのように出ていく金が多くて手元のキャッシュが少ないから、株価の上昇や安定に寄与する自社株買いに動くこともできない。
米投資銀行ジェフリーズ(Jefferies)のアナリスト、ブレント・ティルは最近の調査レポートで、920億ドルに及ぶオラクルの「積み重なる負債」に懸念を示した上で、「当社はオラクルのキャッシュの使い途、ひいては企業買収および自社株買いの資金確保に対する負債圧縮の進捗を注視していく考えです」と述べている。
(翻訳・編集:川村力)