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旧来のテレビのキー局は、テレビCMを流して高額の広告料を請求するというビジネスモデルを失いかけている。
視聴者が広告なしのストリーミングサービスに移行し始めた際、テレビ局やケーブルテレビ局は、広告主がこれほど多くの視聴者にアプローチできる手段は他にまず見当たらないと主張し、広告にかける予算を毎年積み上げてきた。
しかし、バリー・ディラーのIT持ち株会社で「デイリー・ビースト」などのメディアを所有するIACのジョーイ・レビン(Joey Levin)CEOは、テレビ局の希少性は失われつつあると見ている。
レビンはInsiderの取材に対し、ネットフリックス(Netflix)が2022年に広告付きストリーミングサービスを開始することで、巨額の利益を生み出すテレビ広告業界全体が大きな影響を受けるだろう、との予測を語る。
「これはオンラインビデオ市場における最大の確変でしょうね。そこには膨大なコンテンツが存在し、そのすべてのコンテンツがのんびりリラックスしながら消費されることになるでしょう」(レビン)
これまでテレビ局は、視聴者がのんびりリラックスしながらコンテンツを視聴できるという特性から、視聴率が低下している時期でも継続して広告費を稼ぐことができた。
「テレビは無数の視聴者がのんびりくつろぎながらコンテンツ消費をできる、数少ない媒体でした。テレビ視聴者数が減少するほど、テレビにとって視聴者の存在は希少性が高まります」(レビン)
なぜならテレビ視聴者数が減少すれば、その分コンテンツ消費を求める人たちは広告なしのストリーミングプラットフォームへと移行するからだ。よってテレビ局は、広告主がアプローチできる視聴者は供給不足で、需要は高いのだと主張できた。
「しかし今やストリーミング各社も広告を入れようとしているわけですから、じきにテレビ局は視聴者を失い、その希少性も失うことになるでしょう」(レビン)
アップル、アマゾン、ウォルマートはすでに自社のストリーミングサービスでテレビ局から広告収入を奪おうと狙っている。HBOマックスは2022年6月に広告を開放し、ディズニープラス(Disney+)は2022年後半に広告付きベーシックプランを開始予定だ。
レビンの見解には、「ネットフリックスは行く手を遮るすべてのものを破壊している」と長年主張してきたIAC会長バリー・ディラーの影響が垣間見える。ディラーは2021年、ネットフリックスは映画産業を抹殺しようとしていると発言している。
ウォール街のアナリストの中には、ネットフリックスが広告業界に進出することで広告・メディア業界の再編につながると見る者もいる。BofA証券のネットフリックス担当アナリストであるナット・シンドラー(Nat Schindler)は、最近のレポートで次のように記している。
「ネットフリックスのAVOD(広告付きの動画配信)進出は広告市場に劇的なショックを与え、現在の広告市場のぬるま湯的体質が事態を助長し、あらゆる広告企業のCPM(インプレッション単価)の大幅な低下が予想される」
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ネットフリックスは視聴者1000人にアプローチするために広告費用を約60~65ドルに設定することを目指しており、これは同分野の競合他社より高額である。
バンク・オブ・アメリカでメディア企業を担当するジェシカ・リーフ・エーリック(Jessica Reif Erhlich)はInsiderの取材に対し、ネットフリックスへの広告出稿に関しては広告主から強い引き合いがあると聞いているが、ストリーミング企業が生む広告収入が、旧来メディアやデジタル、ソーシャル企業が生む広告収入を上回るのかを見極めたいとしている。
一方で、ネットフリックスが広告市場を一変させるという考えに懐疑的な声もある。あるテレビ業界コンサルタントは、他のメディア企業はストリーミング界の巨人とも言うべきネットフリックスからコンテンツを引き揚げており、今では多くのテレビ局も広告付きストリーミングサービスを提供している、と指摘する。加えて、動画広告枠を提供できる会社はどこも本質的に同じサービスを提供していると主張する。
「コンテンツを提供するメディア企業がもっと低額な[広告付き]サブスクリプションモデルに移行して、ネットフリックスを買収しようとしたら? どうなるか予測もつきませんよ」
(編集・常盤亜由子)