発売は2023年初頭となる「PlayStation VR2」。
撮影:西田宗千佳
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)が、2023年初頭に発売を予定しているVR用機器「PlayStation VR2」(以下、PS VR2)を、ひと足さきに体験取材してきた。
PS VR2はPlayStation 5(以下、PS5)に接続して使う周辺機器。前のモデルにあたる「PlayStation VR」発売は2016年11月なので、6年近くの時間を経ての新型となる。価格は未定。
6年の間に他のVR機器も進化したが、PS VR2の進化は他に勝るとも劣らない。初代モデルでの課題をほぼ解決し、今日的な品質で「ゲーム世界に没入できる」ものに仕上がっていた。
「視線」認識で設定が正確・かんたんに
HMDにはプレイステーション・ロゴも。表面の黒い点はセンサー。
撮影:西田宗千佳
まず製品の詳細を解説しておきたい。
PS VR2は、冒頭で述べたようにPS5の周辺機器だ。いわゆるヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)と左右の手につける専用コントローラーのセットで構成されている。
コントローラーは左右の手に持つ。○と×ボタンが右手に、△と□ボタンが左手に来る。
撮影:西田宗千佳
利用にはPS5が必須になる。PS5とはUSB Type-Cケーブルで接続して使うが、初代PS VRと異なり、接続は本当に「ケーブル1本だけ」。他にセンサーの設置もない。
今回はあくまで「ゲームの体験に付随する部分」だけの取材だったので、詳細な機能解説はなかった。
だが、セッティングをしながらのプレイ体験からは、非常に興味深い部分が見えてきた。
PS VR2の使用セッティング編
まずは、自分がプレイするためのセッティングから。
HMDをかぶるわけだが、これはHMD全体とバンドがスライドする構造になっていて、非常にかんたんだ。内部には十分な空間があり、メガネをつけたままでもまったく問題なく快適だ。
欧米人の鼻の高さに合わせてあるので下から光がもれてしまう……ということもない。プレイ中の蒸し暑さも、初代PS VRや他のHMDと違って感じにくかった。
HMDをかぶってみた。重さもうまく分散していてズレることもない。メガネをつけたままでも全く問題なし。
HMDをかぶると、次にやるのが「目の位置の設定」だ。
HMDではレンズの光軸と瞳の位置が合うよう、位置合わせをするのが一般的だ。
多くの場合には、瞳孔間距離(IPD)という数字を目安にレンズを手作業で動かしたりして位置を合わせるのだが、正確に合わせるのは難しい。
どのHMDでも、内側にある巨大なレンズと瞳の軸を合わせる必要がある。
撮影:西田宗千佳
そこで活用されるのが「視線認識機能」だ。
PS VR2には、ゲーム上の操作やCG描画の効率化に活用する目的から、瞳の位置と視線の方向を認識する機能が備わっている。
これを使うので、「目の位置」が正しいかを画面で見て把握できる。正しく位置は色と音で判断できるので、セッティングもかんたんだ。
瞳の位置を認識。写真のようになっていればOK。
瞳の間隔はこのダイヤルで調整する。
撮影:西田宗千佳
次に「視線認識」自体のキャリブレーション(基準調整、較正)もする。画面の中の点を目で追うだけ。見た方向をちゃんと認識してくれるのは、SF感があってかなりおもしろい。
視線方向をちゃんと認識。画面に表示されている目の方向をちゃんと見ている。
自分の周囲も映像で確認可能
VRの場合、HMDをかぶってしまうと手元が見えなくなる、という欠点がある。だからコントローラーに持ち替えるのが大変だった。
だがPS VR2では「シースルー機能」が使える。HMDの右下に設けられたファンクションボタンを押すと、周囲の様子がモノクロ映像で表示される。HMDの中ではちゃんと立体に見えていて、違和感も少ない。
HMDには、自分がいる場所やコントローラーの位置を認識するイメージセンサーが搭載されているのだが、それを「カメラ」として活用することで外部が見えるようになっている、という仕組みだ。
同じような機能は「Meta Quest2」にもあるのだが、PS VR2の方が映像のゆがみがずっと少なく、周囲がすっきりと見える。なお、周囲を見る際の映像はカラーではなくモノクロというところもQuest2と同じだ。
画面に映っている灰色の映像は、実際に自分から見えている「周囲の風景」。
SIE提供の「シースルー時の映像」。実機の中からはこのように見える。
出典:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
周囲にある障害物や段差などは事前にセンサーを使って認識しており、「安全なプレイエリア」は自動的に設定される。
安全なプレイエリアの端まで移動すると空間上に檻のような線が表示されるので、どこまで動けるかはHMDをかぶったままでわかるようになっている。
安全な領域は「白い枠線」で表示され、それを超えると赤くなる。
出典:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
プレイエリアはほぼ自動で設定される。
出典:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
これらのセッティングはPS5のシステムソフトウエアに組み込まれていて、難しい部分はほとんどない。このカンタンさこそがPS VR2の特徴である。
視線追尾で画質向上、ゲームの世界の中に
プレイする時はコントローラーを両手に持つ。
では、プレイしてみよう。
プレイできたのはPS VR2で発売が予定されている「Horizon Call of the Mountain」(開発元・ソニー・インタラクティブエンタテインメント PlayStation Studio Guerrilla)と、PS VR2版「バイオハザード ヴィレッジ」(開発元・カプコン)。ともに発売時期は非公表だ。
リアルな体験が楽しめる「Horizon Call of the Mountain」
Horizon Call of the Mountain。
開発元・ソニー・インタラクティブエンタテインメント PlayStation Studio Guerrilla
まずは「Horizon Call of the Mountain」から行こう。このゲームはSIEのヒットタイトル「Horizon」シリーズのスピンオフ作品だ。
映像を見ると、まずその鮮明さに驚く。
PS VR2は片目あたり2000×2040の解像度をもち、明暗差の表現にすぐれた「HDR」にも対応している。これは現行の個人向けHMDとしては「(解像度は)すこし高い」くらいだが、発色が良い上に見やすい。レンズとディスプレイをかなり入念にマッチングしているからだろう。
また、動いてみてもコマ落ちなどはなく、しっかりと精彩に見える。PS VR2では「フォービエイテッド・レンダリング」という技術が使われていて、それが有効に働いているためだ。
フォービエイテッド・レンダリングとは「視野の中心を精密に、それ以外はそれなりに」描く技術のこと。
人間の目は視野の中心は精度が高いが、周辺はそうでもない。だから、演算量を減らすには、中央だけしっかり描けばいい、ということになる。
ここで効いてくるのが、先ほどの視線認識技術だ。HMDの中でプレイヤーが見ている方向を認識し、それに合わせて「どこを中心として描くか」を決めるので、表示品質をチューニングしやすい。
VRだから画質が落ちる、ということもなく、非常にリアルな世界を体験できる。
しかも、ゲーム自体がかなり凝っている。
「Horizon Call of the Mountain」は山の中をロッククライミングしながら移動し、モンスターと戦う。
主観視点で岩を登っていくのはかなりリアルな体験で、世界の作り込みもすごい。時には視界を丸ごと覆ってしまうような敵とも戦うことになり、まさに「自分が主人公になって戦う」感覚に溢れている。
崖を登ったり。
弓で敵と戦ったりと、主人公になりきって楽しむ。
もう一つ大きいのは、いわゆる「VR酔い」をほとんど感じないことだ。
PS5+PS VR2の性能が良い、ということもあるが、ゲーム自体が「リアルさ」と「酔い」のバランスを慎重に見定めてつくられている。数十分プレイを続けても、酔いや疲れは感じなかった。
自分で「リロード」しながら戦う「バイオハザード・ビレッジ」
バイオハザード・ビレッジ VR版。
開発:カプコン
もう一つのタイトルが、カプコンのヒット作「バイオハザード・ビレッジ」のVR版。ヒット作なので、プレイしたことがある、という方もいそうだ。
あのゲームがほぼそのままVRになって再現されている。
洞窟を抜けると、吹雪の中を城に向かって歩くことになるが、立体的に「粉雪が吹きつけてくる」様子もはっきりわかる。吹雪の向こうに見える「ドミトレスク城」は、想像以上に巨大で迫力があった。
建物の中の調度品も非常にリアル。近寄って見てもかなり精細なものに感じられる。これは、元々の(VR版ではない)「バイオハザード・ビレッジ」をつくるために使われていたデータの質が高いからだろう。
今回の試遊で使えた武器は2つ。ナイフとハンドガンだ。
ナイフはもちろん切り付けて使うのだが、投げてもいい。どちらも手を自然に動かして攻撃する。
ハンドガンは利き腕で持って撃つ。
ハンドガンを構え、もう片手には替えの弾倉を持ってかっこよく戦っている……つもりに、VRの中では感じている。
弾が切れたらもう片方の腕で「替えの弾倉」を持ち、ボタンでハンドガンから空弾倉を落として、腕を動かして替え弾倉をハンドガンに入れる。そして、またその手でスライドを弾いてコッキング(薬室に弾丸を詰める動作)をして撃つ。
文章にすると長いが、要は「アクション映画でお馴染みのリロード操作を、自分の両手で素早くやる」のである。
ボタン1つでリロードできる通常のゲームより手間がかかるわけだが、この操作を「自分でやる」のがいいのだ。
リアルなアクションを楽しみつつ、一方で、ゲームはまさに「バイオハザード」。怖さや気持ち悪さなど、ホラーな要素満載。普通のゲームプレイよりもかなりリアリティが増している。
完成度は十分。課題は「PS5の入手性」か
2本のタイトルとも、「まさにVR体験」と言えるものだと思う。
初代PS VRの時代はPS4の性能が制約となり、ゲームの解像度がどうしても低くなってしまった。HMDの完成度もまだ研究途上という部分が否めなかった。
その後出てきた他社のHMDも、単体のものが性能面での制約が大きく、ゲーミングPC向けのものは設定の難易度とコストに問題があった。
PS VR2はゲーム向けとしてようやく「画質とコストと簡単さ」を併存させたものになった、と言えそうだ。
こうなると課題は、来年の発売までにPS5とPS VR2を十分な量用意し、市場に供給できるのか、という点になってくる。