Ramin Talaie/Getty Images; Mike Blake/Reuters; Savanna Durr/Alyssa Powell/Insider
元アマゾン社員は、最大の競争相手であるグーグルに転職すると、驚くと同時に安堵することがあるという。
これは、アマゾンからグーグルへの転職組20人以上による「worked_at_amazon(アマゾンで働いていた)」と呼ばれる社内メールスレッドに書かれていたものだ。スレッドには、かのEコマース大手でのひどい体験や、グーグルへの感謝の気持ちが共有されている。
Insiderは、この議論のスクリーンショットを確認した。2400人近くがフォローしているこのスレッドは当初、アマゾン出身者同士がつながるために使われていたが、今では古巣に向けた愚痴であふれ返っていると関係者は語る。なお、アマゾンとグーグルの担当者にもコメントを求めたが回答はなかった。
少なくとも一部の元アマゾン社員によると、グーグルの寛大でチーム指向のカルチャーに比べて、アマゾンはケチで共感を欠いているという。この差は2社の違いを端的に表している。
「両社のカルチャーは180度違います。アマゾンは完全に、殺すか殺されるかの環境です」と、このメールスレッドに参加している人物は匿名を条件にInsiderに語った。
「グーグルでは、探究し、質問することが奨励されています。温かい雰囲気で、リーダーは意見に耳を傾け、サポートしようとしてくれます」
アマゾンの「Frupidity」とは?
ここ数週間、議論によく取り上げられているのは、アマゾンの「Frupidity(愚かな倹約志向)」についてだ。これは「Frugality(倹約)」と「Stupidity(愚かさ)」を合わせた造語である。
アマゾンの企業文化において「倹約」は長いこと中心的な価値観となっているが、議論に参加している彼らによると、この考えは今や全くプラスに機能していないのだという。
例えば社員が、性能がアップしたデバイスの購入申請をするとFrupidityにぶつかることになる。2020年に退職したプロダクトマネジャーによると、標準以下のスペックのWindowsラップトップが与えられ、AppleのMacBookを購入するためには正当な理由を述べなければならなかったという。メールのスレッドには以下のように書き込まれていた。
「Windowsのラップトップには面白みがなく、面白みがなければ創造性も発揮されない。創造性がなければプロダクトマネジャーの価値なんてないだろう? 本当にばかばかしいと思ったよ」
同じく2020年に退職した別のエンジニアは、自分のチームはシングルモニターしか使わせてもらえなかったと語る。それでもどうにかしてダブルモニター環境を手に入れようと、夏の間インターンを雇ってモニターを与え、インターンシップが終わった後に残ったデバイスを使用したのだという。
「10万ドル(約1440万円、1ドル=144円換算)の報酬を支払っているエンジニアの生産性を上げるために200ドルを惜しむなんて、かなり『Frupid』だ」とこの人物は書いている。
また、事務用品を管理する同僚と親しくしなければならないこともあったという。ノートパソコンの充電器は1人1個という決まりがあったが、事務用品担当者と親しければ追加で貸し出しを受けることができ、退職の日まで返却しなくても問題はなかったという。
なお、アマゾンよりはるかに収益性の高いアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、経費に関してはもっと自由裁量があると語っている人物もいた。この人物によると、AWSでは全員に2台のモニターかDELLの大型曲面モニターのどちらかが与えられ、その他にもいろいろと必要経費とすることができたという。
「AWSは他より少し合理的で、小さなことではあまり『Frupid』ではなかった気がする」と、この人物は語っている。
なお、グーグルではエンジニアであろうとなかろうと、すべての社員がよりハイスペックなMacBookを与えられ、開発担当者は別途「専用ワークステーション」も使用できる。
倹約がエスカレートした結果、アマゾンでは時に惨めなことも起きた。倹約的ではないという理由で給湯室からシリアルの箱が取り上げられた、との書き込みも2名から寄せられていた。
「しまいには『シリアルに年間数百ドル使うのは倹約的ではない。君たちが寄付金を集めて続けられるかどうか試してみることは自由だが』と言われた」と、メールスレッドに書かれていた。
この他にも、アマゾンがインスタントラーメンを向かいのスーパーより高い値段で売っていたと言う者、社内会議で予算がなかったからとベーグルを2人で分けるように言われたとこぼす者もいた。
なお、アマゾンに15年以上勤めた元副社長のイーサン・エヴァンス(Ethan Evans)は最近更新した自身のブログで、Frupidityはアマゾンの公式のリーダーシップ・プリンシプルの中で最も「退化」していったものだと書いている。
アマゾンの競争主義は「意識的に忘れる」べし
だがそれ以上に、グーグルとアマゾンでは従業員が互いに助け合おうとする姿勢に大きな違いがある、とメールスレッドには綴られている。
アマゾンで15年働いた後、最近グーグルに転職したある人物は、新しい職場の時間の流れ方の違いや、全体に漂う親切さや敬意は「本当に新鮮」だったと述べている。
「最初の1週間で全部頭に叩き込まなくてもいいんだ、って。アマゾンではそれを強いられたから」
同様に、最初の数カ月間は新人の顔をして働けることが「カルチャーショック」だったという人物もいた。
それはまた、アマゾンで働いている間に身につけていった競争主義的な姿勢を、アンラーン(意識的に忘れる)しなければならないということでもある。
ある人は、グーグルの新しい同僚から、「アマゾンのカルチャーはすべて忘れるべきだ」とアドバイスされたという。そんなものは「グーグルでは役に立たない」からだ。グーグルでは「感じがいい人であれば」物事は良い方向へ進んでいき、「チームの効率性を高める秘訣は共感」だと考えられているのだという。
ただし、すべての人がグーグルのそういったカルチャーに肯定的な訳ではない。別の人物はこう書いている。
「私はグーグルよりもアマゾンのカルチャーの方が好きだったな。従業員の扱いという一点を除けば(笑)」
※この記事は2022年9月28日初出です。