米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)は、今後の展開を2つのシナリオに分け、両方について具体的な推奨銘柄を挙げている。
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年初来、幾度かの回復局面を挟みつつ下落基調が続いてきた2022年の株式市場も、早いもので最後の四半期を迎えようとしている。
足元では、強気センチメントと弱気相場を見通すネガティブなシナリオの間で微妙な均衡状態が続く。
強気シナリオは、大まかに言って、インフレとその抑制を目的とする米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに対する市場の懸念がピークに達した6月、S&P500種株価指数は3667で底入れしたとみる。
実際、米消費者物価指数(CPI)は7月に前年同期比8.5%、8月が同8.3%。6月の同9.1%をピークに2カ月連続で伸びが鈍化しており、弱気相場の終わりは近いと考えるだけの根拠はある。
一方、弱気シナリオは、長期化する高インフレに投資家がパニックを起こし、FRBも当初の想定以上に積極的な利上げを行うため、株式相場はもう一段の下落を経験するとみる。
ここまでよく持ちこたえてきた労働市場が悪化に転じ、株価下落に拍車をかける可能性も想定されている。
このように、180度異なるがいずれも説得力のある2つのシナリオが併存する今日、アナリストやストラテジストが株式市場の予測を行うに際しては、状況ごとに異なるモデルを用意して臨むのが理にかなっている。
米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)米国株チーフストラテジストのデービッド・コスティン率いるチームはまさにその手法を採用。
基本シナリオおよび景気後退入りを想定した弱気シナリオの両方をもとに、S&P500種株価指数と企業の業績について新たな予測を行った。
留意すべき重要なポイントとして、ゴールドマンは基本シナリオを辿る可能性が高いと分析しており、深刻な景気後退は回避され、今後数カ月スパンで市場関係者が期待するソフトランディングに至るほうが現実味があると読んでいる。
下の【図表1】を見ると分かるように、同社の基本シナリオだとS&P500種指数の年末予測は4300で、景気後退入りを想定した弱気シナリオの場合は底値が更新されて3150まで下落することになる。
【図表1】ゴールドマン・サックスによるS&P500種株価指数のここまでの推移と年末予測。右側に基本シナリオの数値と現在からの変化率(濃紺)と、弱気シナリオの数値と変化率(薄青)。
Goldman Sachs
企業業績はシナリオ間でより大きなギャップが予測されている。2023年のS&P500種構成銘柄の1株当たり利益は、基本シナリオの場合に3%増加するのに対し、弱気シナリオでは11%という劇的な減少が見込まれる。
経済成長の見通しもシナリオ次第で大きく異なる。2023年、基本シナリオでは米国内総生産(GDP)伸び率は前年通期比1.2%増、弱気シナリオの場合は同1%減と極端だ。
また、米10年債利回りの年末見通しは、基本シナリオだと名目3.3%、実質0.5%。弱気シナリオでは名目2%、実質マイナス0.5%と読む。
実際にこうしたシナリオのどちらを辿るのかによって、投資家が取るべき行動がまったく異なってくるのは明らかだ。
ソフトランディングに至る基本シナリオ向けに、ゴールドマンは投資家が採用すべき3つの大まかな投資方針を挙げている。
第1に、株式市場の中でもクオリティ寄りの銘柄をターゲットにすること。すなわち、極めて堅実なバランスシート、安定的な売上高成長率、高い自己資本利益率(ROE)、低い収益率の偏差(変動リスク)を備えた企業に投資することだ。
アルファベット(Alphabet)やコムキャスト(Comcast)、ティーモバイル(T-Mobile)がその例と言える。
第2に、ゴールドマンは過小評価されているバリュー(割安)株を有力な投資候補とする。
同社の分析によれば、ミューチュアルファンド(アメリカで最も一般的なオープンエンド型投資信託)の資産配分比率がベンチマークを最も下回っているのが、S&P500種銘柄のうちバリュー株。ファイザー(Pfizer)やAT&T、フォード・モーター(Ford Motor)がその例だ。
第3の投資方針は、「ヘッジファンドVIPリスト」に含まれる銘柄を選ぶこと。ロングショート戦略を採るヘッジファンドのパフォーマンスを左右する「最も重要な」銘柄ばかりだからだ。
例としては、アマゾン(Amazon)、メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)、ビザ(Visa)などが挙げられる。
景気後退入り含めた弱気シナリオの場合
一方、弱気シナリオの場合、ゴールドマンの推奨銘柄は上記とまったく異なる。
景気後退入りが想定される中で、投資家が第1に注目すべきは「安定成長株」に区分される銘柄となる。
言い換えれば、時価総額などに基づき大型株の動向を示すラッセル(Russell)1000指数構成銘柄のうち、この10年間の売上高成長率が最も安定的に推移してきたものがそれに当たる。
シリウスXM(Sirius XM)、オムニコムグループ(Omnicom Group)、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(Warner Bros Discovery)、ドミノ・ピザ(Domino's Pizza)、オートゾーン(AutoZone)、ホームデポ(Home Depot)などが例に挙がる。
ゴールドマンは第2に、景気後退時に貴重な利益をもたらす高配当の銘柄をターゲットとして挙げる。
ゴールドマンは、ルーメン・テクノロジーズ(Lumen Technologies)、ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications)、インターパブリック・グループ(Interpublic Group)、ベスト・バイ(Best Buy)、ワールプール(Whirlpool)、タペストリー(Tapestry)がその例だ。
第3の有望な選択肢は、キャッシュが枯渇して間もなく追加の資金調達が必要になりそうな銘柄を売る、あるいは空売りする戦略。
製薬・バイオテクノロジーセクターの銘柄に多く、ゴールドマンが例に挙げるのは、ファントム・ファーマシューティカルズ(Phathom Pharmaceuticals)、アジオス・ファーマシューティカルズ(Agios Pharmaceuticals)、TGセラピューティクス(Therapeutics)の3銘柄だ。
(翻訳・編集:川村力)