約30億ドルの価値があるパタゴニアの全株式を非営利団体に移管すると発表した、創業者のイヴォン・シュイナード。
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- パタゴニアの創業者、イヴォン・シュイナードは携帯電話もコンピューターも持っていないとニューヨーク・タイムズが報じている。
- シュイナードは1960年代、プロのロッククライマーとして車中生活を送り、キャットフードを食べていたという。
- 83歳のシュイナードは約30億ドルの価値があるパタゴニアをトラストと非営利団体に譲渡しようとしている。
パタゴニア(Patagonia)の創業者はこのアウトドア・アパレルの小売企業をトラストと非営利団体に譲渡する予定だ。彼はかつて車で生活したことがあり、今も携帯電話を持っていないとニューヨーク・タイムズ(NYT)は報じている。
イヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)は、1973年にパタゴニアを創業する前はカリフォルニア州ヨセミテ渓谷でプロのロッククライマーとして活動していたという。NYTによると、彼はかつて車で生活しており、1個0.05ドルの缶入りキャットフードを食べていたという。
83歳のシュイナードは、「ごみ箱に潜り込み、炭酸飲料の瓶を換金することでガソリン代をまかなっていた」と、2005年に出版した著書『社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論(原題:Let My People Go Surfing)』(日本語版は2007年刊行)の中で書いている。
フォーブス(Forbes)によると、シュイナードは1年のうち6カ月以上は北米やヨーロッパのアルプス地方を旅し、ジリス(地上で生活するリス)を捕まえて食べ、時には1日わずか0.5ドルで生活していたと書いている。
フォーブスによると、彼はこの間、自分の車でクライミング・ギアを売って生計を立てていた。その後、ジャージや手袋、帽子、短パンなどの輸入販売を開始したという。
現在のパタゴニアの年間売上高は10億ドル(約1432億円)以上、利益は約1億ドル(143億円)とNYTは報じている。同社の評価額は約30億ドル(約4300億円) だ。
NYTによると、シュイナードは今でも古着を身に着け、古いスバルを運転し、カリフォルニアとワイオミングに質素な家を2軒所有しているだけで、コンピューターも携帯電話も持っていないという。
「フォーブスに億万長者として掲載され、本当に、本当に腹が立った」とシュイナードはNYTに語っている。
「私は銀行に10億ドル(約1432億円)も預けていない。レクサスにも乗っていない」
2022年9月14日、シュイナードはパタゴニアを新設するトラストと非営利団体に譲渡し、同社の利益を気候危機対策に役立てると発表した。
「会社の価値を維持したまま、より多くの資金を危機との戦いに投入する方法を見つける必要があった」と彼は書いている。
「もしパタゴニアを売却してその資金を寄付していたら、新しいオーナーがパタゴニアの価値と従業員を維持できるかどうかは保証できなかった」とシュイナードは話している。また、会社が上場すれば「大惨事」になるとも付け加えた。
熱心な環境保護主義者であるシュイナードは、その価値観を会社にも持ち込んでいる。アメリカの非営利団体「B Lab」による国際認証制度「Bコーポレーション(B Corporation)」の認定を受けているパタゴニアは、オーガニックコットンをいち早く取り入れた企業であり、売り上げの1%を寄付し、その多くは環境保護活動に使われている。また2016年には、ブラックフライデー(Black Friday)の売り上げすべてを草の根の環境保護団体に寄付している。
フォーブスは、シュイナードが経営権を手放す前の資産を約12億ドル(1715億円)と推定し、今回の動きで同誌の億万長者番付から彼が外れたと報じている。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)