ワークマン専務の土屋哲雄氏。ワークマン躍進の立役者として知られる。
撮影:横山耕太郎
プライベートブランド(PB)の主力製品を2023年8月まで値上げしないことを発表したワークマン。
一部商品については来春値上げするが、新商品発表会の会場には「価格据え置き。ただホントはつらい…(やせガマン)」と掲示し、値上げではなく「低価格帯の維持した」姿勢を強くアピールした。
ただ円安・原料高・輸送コスト増という「3重苦」は、新店舗の出店を積極的に続けるワークマンにとっては最悪のタイミングとも言える。
これまで快進撃を続けてきたワークマンは、この3重苦とどう戦っていくのか?
三井物産出身で、ワークマン再建の指揮をとったことで知られる土屋哲雄氏に直撃した。
ワークマン新作発表会とインタビューはこちらの動画でも紹介しています。
撮影:山﨑拓実
一番の課題は「女性商品で勝つ仕組み作り」
秋冬新商品の発表会では、ワークマンの「カリスマ店員」によるコーデバトルの結果発表もあった。
撮影:横山耕太郎
── 現在の店舗数は956ですが、中期目標では1500店鋪まで増やすとしています。円安や原料高・輸送費は新規出店の計画に影響しますか?
3重苦で出店の勢いを止めるかっていうと、そんなことはない。原料費と輸送費に関しましては、頭打ち感がある。為替の最近の動きはちょっとひどくて、相当苦しいところです。
しかし新店舗を開店した時の売り上げは相当大きい。
今一番の課題は、「女性のフォーマット」をちゃんと作ることです。
実は従来型の「ワークマン」と「WORKMAN Plus」(アパレルなどの品揃えが多い業態)というフォーマットは、何もしなくても成長するメカニズムが埋め込まれています。何もしなくてもと言うと、営業などが怒るんですけど(笑)。
「#ワークマン女子」(女性向けの商品が多い業態)の店舗は今、めちゃめちゃ出店して売れていますけど、それが5年10年続くかはわからない。勝つための方程式、ビルトインされた仕掛けはまだ見えていないんです。
おそらく、今はウェアの比率が高すぎるんじゃないかと考えています。ウェアの比率をもうちょっと落として、安定的な成長ができる商品構成にしたいと思っています。
「#ワークマン女子」の売り上げは、靴が約30%、キャンプなどのギアが約6%で、アパレル以外で計約35%をしめていいます。これを45%くらいにしたい。カバンも意外と競争が少ない分野だと思っています。
「男性向け商品がうまくいくのは5年売れるから」
女性用商品の新作を続々と投入する。
撮影:横山耕太郎
── なぜ女性向けの市場は難しいのでしょうか?
特に女性向け商品には流行があり、男性ものと違って5年もちません。(同じ商品が売れる期間が)5年もてば簡単なんです。
男性ものがうまくいっているのは5年間もつから。女性ものはもって2年、本当に我慢して3年という感じです。
お客さんに商品を届けつつ、かつ在庫としては残さないためには、どうやって商品を作ればいいのか、そのバランスが、まだよくわかっていません。
ただあと1年、2年で、その仕組みはできると思っています。
利益より「100年優位に立つこと」
税込み980円という安さのシューズも販売する。
撮影:横山耕太郎
── 各社値上げに動いています。ワークマンの値上げについては?
ワークマンはリーマンショックのときに値上げして、当時908円だった作業用ズボンを1108円で売りました。そしたら売り上げが3割ぐらい減り、客数の減少は3年続きました。
当時は一般客向けの商品は少なくて、作業関係のお客ばっかり。今のアパレルなど不要不急なものじゃなくて、必需品であっても値上げはかなり影響があるんです。
価格を据え置くのは苦しいことは確かですが、私どもはどちらかというとかなり長期的な視野を持っています。「100年の競争優位が続くこと」を目指しているんですよ。
ワークマンは過去42年間、作業服では競争優位は断トツ1位です。ですからそれと同じようにアパレルもやりたい。
撮影:横山耕太郎
となると、今やるべきことはひたすら売り上げを増やすことです。利益を上げることよりも、とりあえず売り上げでシェアを取る。
「100年競争優位に立つ」という視点から見ると、あんまり儲け(もうけ)すぎちゃいけない。儲けると競合が増えて、我々の付加価値が減ってしまう。今はそこそこの儲けで、できるだけシェアを取っておきたい。
だから、今は値上げをしたくないんです。作業服のような優位な状況になれば、(値上げも)ワークマンだからもうしょうがないかと許してもらえる。
だけどアパレルはそんなことないですから。あとアウトドアもそう。だから戦うときは思いっきり戦います。
「GUさんあたりが競合かもしれませんが……」
女性用のパンプス。土屋氏は「機能性が第1でデザインは第2」と言い切る。
撮影:横山耕太郎
── 競合企業についてどのように捉えていますか?
今のところ「WORKMAN Shoes」(ワークマンのシューズ専門店)も「#ワークマン女子」もそれほど競合がいません。GUさんあたりが競合かもしれませんが、GUさんは機能性を強くは打ち出してはいません。
我々にとっては、デザインとかシルエットではなく、カッパの防水性とか機能が大事。まずは機能性、服にポケット作る方が重要です。
「シルエットが悪くなるからポケットは浅くする」とか、他社とはそのあたりの姿勢が全く違います。
データ経営で「脱・アパレル依存」進める
ワークマンの新作テント「耐久撥水 3ルームシェルター」。税込み2万7800円。
撮影:横山耕太郎
── テントやシューズなどで次々と新商品を発表しました。「脱・アパレル依存」とも言える戦略は、どのように決めたのでしょうか?
我々はデータ経営を行なっています。もともとは作業服なので、アパレル全く知らない人、キャンプをやったことない人が商品を開発しているので、データを見ながら判断しています。
── 前回発表した1人用テントは税込み4900円という安さでした。今回はもっとも高い4人用の大型テントは1万7800円です。値段設定はどのように決めていますか?
前回はソロキャンプ向けだったので、今度はファミリー狙ったテントを作って全部カバーできるようになりました。
うちとしては、あんまり価格を高くはしたくないんですけど、キャンプに関しては100%アンバサダー(※)の意見をもとに作っている。アンバサダーさんが言っていることは99%ぐらい当たるんです。
でも前回テント(2022年春に発表した4900円の1人用テント)で失敗したのは、女性のアンバサダーさんが多くて、黄色や赤のテント作りすぎました。
実際にキャンプするのは男性が多いから、男性のアンバサダーの比率が間違っていたんです。でも赤のテントも全部売れましたけど(笑)。
自社開発素材を持つ強み
記者会見で「価格据え置き」をアピールする土屋氏。
撮影:横山耕太郎
── 記者会見では「低価格の維持はワークマンの存在理由」との発言もありました。このまま低価格を維持できますか?
独自の素材を作ればいけます。ワークマンには火の粉が飛んでも燃えにくい素材とか、あと虫よけ機能のある素材があります。
例えば虫よけ機能のある独自素材で全部のテントを作るなど、同じ素材をいろいろな商品に横展開することでコストを抑えられます。ほどんどの女性は虫が嫌いだと思うので、商品の競争力にもなります。
素材の開発には数千万とかかりますから、素材を自社開発するメリットを価格の維持にもいかせると思っています。
(文・横山耕太郎)