フィデリティ投信が調査を開始した2010年以来、初めて「投資をする人」の割合が50%を突破した。
出所:フィデリティ投信、Shutterstock.com
投資に対する警戒心が強いとされてきた日本で、コロナ禍をきっかけに投資を始める人が急増している。
フィデリティ投信は9月20日、会社員・公務員などフルタイムワーカー約1万人を対象に実施したアンケート調査で、コロナ禍で「投資を開始した」「投資額を増やした」を含め、投資を行っている「投資家」が全体の54%に上ったと発表した。
同社は2010年から、退職準備や資産形成に関する調査(ビジネスパーソン1万人アンケート)を実施。投資家の比率が50%を超えたのは今回初めてだという。
「投資家比率」コロナ以前から13ポイント増
54%の内訳は、「コロナ禍でも変化なく、投資を継続」との回答が29%でトップ。コロナ禍で「投資を始めた」が11%、「投資額を増やした」が8%と続いた。
【図1】コロナ禍を経た投資行動の変化。
出典:フィデリティ投信「ビジネスパーソン1万人アンケート 2022年」
2010年以降の投資家比率を見ると、2015年に一旦30%に減った後、徐々に上昇。今回公表した2022年の調査では、コロナ禍が始まった2020年の41%から一気に13ポイント上昇した(【図2】)。
【図 2】投資家比率の推移(2010〜2022年)。
出典:フィデリティ投信「ビジネスパーソン1万人アンケート 2022年」
投資家のうち、投資額を増やした回答者にその理由を尋ねたところ、「コロナ禍で時間ができ、投資の知識が増えたから」が最多で38%(【図3】)。
【図 3】投資を増やした理由と減らした理由。コロナ禍による収入減、株式・為替相場の変動という同じ理由であっても、それを好機と捉える否かで、投資をするしないの判断が真っ二つに分かれた。
出典:フィデリティ投信「ビジネスパーソン1万人アンケート 2022年」
投資をする目的については「老後の資金形成」「資金を増やすには投資するしかないから」「預貯金ではインフレに勝てないから」が引き続き、安定のトップ3を占めた(【図4】)。ただ 「預貯金ではインフレに勝てないから」が前回の調査から3ポイント上昇しており、「インフレ対策としての投資」側面にも注目が集まっているようだ。
【図4】「投資をする目的」の経年変化(2014〜2022年)。
出典:フィデリティ投信「ビジネスパーソン1万人アンケート 2022年」
ミレニアル世代も投資を増やす傾向
また、前出の【図3】にもあるように、投資を増やした回答者を年齢層別で見ると、20〜39歳のミレニアル世代が最も多く、39%を占めている。
ミレニアル世代が投資を増やしている要因について、フィデリティ投信の浦田春河フィデリティ・インスティテュート主席研究員は次のように語った。
「コロナ禍で時間的余裕ができて、投資について勉強する時間ができたこと。また、YouTubeなどSNSの普及もあって、それまで縁遠かった投資の知識を手軽に入手できるようになったことが考えられる」(浦田氏)
また、コロナ禍でお金の使い道が減ったことが投資を始めるきっかけにつながっている面もあるのではないかとした上で、
「投資を始める年齢層が確実に下がっているように思う」(浦田氏)
との見方を示した。
投資をしない理由「トップ4」
一方、前出【図1】のように、投資を行っていない人も46%は存在する。
なぜ投資をしないのか。理由のトップはこれまでの調査と同じく「資金が減るのが嫌だから」だが、その割合は過去最高の42%となった(【図5】)。
【図5】「投資をしない理由」の経年変化(2014〜2022年)。
出典:フィデリティ投信「ビジネスパーソン1万人アンケート 2022年」
この点について、浦田氏は
「相場変動を嫌った人もそれなりにいたのではないか。実際、非投資家層の中には『これまで投資をしてきたがコロナ禍で投資を止めた』人が3%いた(前出【図1】)。その点は『投資を減らした理由』(前出【図3】)にも表れている」(浦田氏)
と分析した。
また、投資をしない理由トップ2〜4の「何をすればいいか分からない」「いろいろ勉強しなければならない」「手続きが面倒」について、浦田氏は「運用先を決める手間や手続きに関する負担を軽減するサービスをパッケージ化して提供すれば、投資に踏み出す人が増える可能性がある」と指摘。
「恐らく今後インフレはかなり進む」との認識を示した上で、
「日本は金利を上げない(政策をとっている)ため、インフレの進行に伴い、預貯金として滞留しているお金の価値が実質的に目減りすることになる。それによって、投資のほうへ向かわざるを得ない環境が訪れるかもしれない」(浦田氏)
と述べ、個人の投資を活発化させる方法として次のように語った。
「(金融リテラシー)教育をする。インフレの力を借りる。また、中間所得層が投資をする気になるようなお得な仕掛けを設けるなど、さまざまな政策を総動員して初めて投資しない“岩盤層”を突き動かせるのではないか」(浦田氏)
(文・湯田陽子)