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アルファベット(グーグル親会社)、ディズニー、デルタ航空。これらはみな、二酸化炭素排出ネットゼロ目標を達成するためにカーボンクレジットを購入してきた企業だ。
セールスフォースのサステナビリティ担当シニアバイスプレジデント、パトリック・フリン。
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カーボンクレジット市場は大きく成長してきた。非営利団体のエコシステム・マーケットプレイス(Ecosystem Marketplace)が2022年8月に発表した報告書によると、一定の炭素量の排出権を認める許可証を売買する市場は2022年、2005年以来の高値となる20億ドル(約2900億円、1ドル=145円換算)のバリュエーションに達したという。コンサルティング会社のマッキンゼーは2021年、同市場が2030年までに500億ドル(約7兆2500億円)規模に成長すると予想している。
今、時価総額1500億ドル(約21兆7000億円)の巨大クラウド企業であるセールスフォース(Salesforce)が、この市場に参入しようとしている。カーボンクレジットの取引プラットフォームを2022年10月に立ち上げると発表したのだ。
同社のサステナビリティ担当シニアバイスプレジデント、パトリック・フリン(Patrick Flynn)はInsiderの取材に応じ、事業者間で取引する民間主導のクレジット「ボランタリークレジット」の世界的な需要増からの利益を見込むと狙いを語る。さらにセールスフォースは、プラットフォームで取引されるプロジェクトの妥当性を確認する第三者審査システムを提供することにもなるという。
「カーボンクレジットの市場は大きく成長しなければなりません。それが、当社の取り組みの大きな理由です」とフリンは言う。
政府に規制されるカーボンクレジット市場と異なり、ボランタリークレジット市場では企業は自ら選択してクレジットを購入することでサステナビリティプロジェクトに資金を提供すると、その分だけCO2を多く排出する権利が得られる。しかしこれらの資金がどこに流れるかが明確でない場合もあり、カーボンクレジットの有効性を疑問視する企業もある。
カリックス・グローバル(Calyx Global)やシルベラ(Sylvera)といった確立されたカーボンクレジット認証機関がセールスフォースのプラットフォームで格付けを表示することで、プロジェクトに関する数字が明らかになり、透明性が増すとフリンは言う。
しかし、大気中の炭素を相当量減らすためには、多数のユーザーがこのプラットフォーム上でクレジット取引を行う必要がある。したがってサステナビリティ目標に真剣に取り組む企業が増えることが条件になるとフリンは語る。
「地球の要請に応えるためには、途方もないスピードと規模感で気候変動対策に取り組まなければならないのが難しいところです。ですから我々もアジャイルに動く必要があります」
セールスフォースは3年前、企業が環境データを追跡・分析・報告できる製品、「Net Zero Cloud(ネット・ゼロ・クラウド)」をリリースした。マスターカード(Mastercard)や海運業のクローリー(Crowley)等の企業が同プラットフォームを採用している。しかし一部からは、炭素会計では複雑な測定が数多く必要となるため、単一の製品や企業による独占には懸念が残るとの声も上がっている。
カーボンクレジット市場を作ろうという案は2017年に始まったが、セールスフォースは自社のネットゼロ排出計画策定を優先させたため、このプロジェクトはしばらく保留になっていた。フリンによると、セールスフォースは2021年にカーボンクレジット市場のあり方についてステークホルダーのヒアリングを始めたことがこのプロジェクトのきっかけになったという。
セールスフォースは業界に特化したフィードバックを得るために海洋学者、環境専門の弁護士、エンジニア、その他のサステナビリティ専門家を雇っている。
また、炭素削減プロジェクトの質を精査するため、クライメイト・インパクト・パートナーズ(Climate Impact Partners)、クローバリー(Cloverly)、パチャマ(Pachama)等のカーボンクレジットプロバイダーと共に取り組みを進めている。これらの企業は機械学習と衛星データを用いて、一つひとつのプロジェクトがどれくらいの炭素除去につながるかを特定している。
「何かを初めて作るというのは、一大プロジェクトなのです」(フリン)
(編集・大門小百合)