シードフェーズのスタートアップを中心に投資をするVC、プライマリーのブラッド・スヴルガCEO。
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2022年夏、ベンチャーキャピタル(VC)市場は2年ぶりの減速に見舞われた。だが秋の訪れとともに、全米のスタートアップ企業のファウンダーとVCたちは復活の兆しを見出している。
シードフェーズのスタートアップに特化したVC、プライマリー(Primary)は先ごろ、ニューヨーク・マンハッタン中心部で毎年恒例のテック系カンファレンス「NYCサミット」を開催した。同カンファレンスは、スタートアップ界の復活の起爆剤として実にふさわしいものとなった。
プライマリーがNYCサミットを対面式で開催したのは2019年以来3年ぶりのことだ。2000人以上の投資家や起業家が参加登録し、そのほぼ半数は州外からの参加だった。フォーランナー(Forerunner)のカーステン・グリーン(Kirsten Green)やエンジェル投資家のアンディ・ダン(Andy Dunn)など著名な投資家が登壇した。
「行き場のなかったエネルギーが、オフィスに戻ってまた活発な動きをみせようとしている手応えを感じた」と、プライマリーのブラッド・スヴルガ(Brad Svrluga)CEOは言う。
しかし、ディールメイキングやベンチャー向けイベントが本格的に再開したからといって、スタートアップに注入されたVCマネーが記録的な額に達した2021年の「常態」が完全に戻ってきたわけではない。
2021年とは大きく様相が異なり、2022年はスタートアップのバリュエーションが大きく下がり、大小さまざまなテック企業がレイオフを迫られている。
だがスヴルガは、それはいいことだと考えている。
「2020年と2021年の熱狂のさなかに私が一番不満に思っていたのは、ディールの進むペースでした。月曜日にある会社に会うと、水曜日か木曜日の終業時刻までにはタームシート(投資の主な条件をまとめた文書)が欲しいと言われるようなペースでした」(スヴルガ)
最近では、タームシートがメールで起業家のもとに送られてくるまでには数日どころか数週間はかかると思ったほうがいい。
また、公開市場と非公開市場の間の流動性が高まったおかげで、プライマリーのパートナーたちは適切な時間をかけてデューディリジェンスを行ったうえで投資の可否を判断できるようになった。2021年当時は市場が過当競争状態で、VCがものの数分でスタートアップ企業にタームシートを提示するようなケースもあった。
「われわれはシード投資家なので、5年、6年、7年と続くパートナーシップを結びたいんです。結婚のようなものですね。ただ結婚と違って、このビジネスでは離婚はできません。株を持ったら手放すことはできないんです」(スヴルガ)
それでも現在、資金調達を考えているアーリーステージの起業家にとっては、簡単に資金が集まり、VCが競ってタームシートを提示してくれる時代は終わった。スヴルガは起業家へのアドバイスとして、いまは無駄を省き、事業継続のために本当に必要な資金調達額を「合理的に予測」するとともに、売り込み先のVCと自身のスタートアップ企業との相性を真剣に検討することが重要だと語る。
「今日シリーズAの資金調達を行うなら、どんなビジネスモデルで、なぜそれがうまくいくのか、少なくともよほど優れた証拠が示せなければ相当に難しいでしょうね。500万ドルの資金調達に成功したシード期の企業が、毎月40万ドルも資金をバーンさせていたんじゃ意味がありませんから。
われわれが求めているのは、積極果敢でありつつも責任を持って行動するファウンダーです」(スヴルガ)
市場の調整局面はいまだ続いており、起業家たちがこうした変化を完全に受け止めるにはあと数カ月はかかりそうだ。
「成功するはずだったどこかの企業が、キャップテーブル(資本政策)を見誤って非現実的な経営をしたせいで倒産し、夢が砕け散る。そうなるまでは、その境地にたどり着けないでしょうね」(スヴルガ)
(編集・常盤 亜由子)