私の肩書はファウンダー兼CEO。これまでに10代の若者にビジネスや起業について教えるスタートアップBeta Bowl、女性の起業家を支援するChicks Who Launchを立ち上げ、事業を成功させてきた。
レイチェル・グリーンバーグ(Rachel Greenberg)は、起業する前にもっと時間をかけてリサーチすることを勧めている。
Rachel Greenberg
しかし10年前、初めての起業は大失敗に終わった。
将来の起業に必要な経験と資金を得るために投資銀行に就職した私は、数年間働いてお金を貯めた後、あるアイデアを思いついた。ユーザー生成コンテンツ(UGC)と懸賞を融合させたアプリの開発という、実にユニークなものだった(少なくとも、当時の私はそう考えていた)。
昼は投資銀行で働き、夜にスタートアップの準備を進めた。しかし投資銀行の勤務時間に終わりはない。両立は大変だったが、私はこのアイデアを心から信じ、虎の子をこのプロジェクトにつぎ込んだ。
だが、同じような目標とアイデアを持ち、すでにユーザーを獲得している先行スタートアップたちが相次いで資金難に陥り倒産した。これは私にとっても危険信号だった。
リリース目前の段階まで来ていたのに、言い訳ばかりして計画を遅らせた。このままサービスを開始したところで、貯金をすべて使い果たすだけではないかと怖くなったのだ。結局、この計画は取りやめにした。
ホッとすると同時に自信喪失に陥った。10万ドル規模(2012年のレートで700万円強〜800万円弱)の自己資金と2年もの歳月を投資した末に失敗を認めるなんて、人生でこれほどつらい経験はそうそうない。
今思えば、もっと時間をかけて起業についてリサーチしておけばよかったと思う。以下では、最初の起業が失敗する前に私が誰かに教えてほしかった6つのことを紹介したい。
1. 参入したい分野の専門家たれ
自分で起業したスタートアップなのに、自分自身がそこに適した人材ではない——これを自覚したときほどつらいものはない。
私のバックグラウンドは銀行業であり、テクノロジーやアプリの世界を完全に理解していた訳ではなかった。いま私が成功したビジネスは、どれも私が専門としている分野だ。自分のビジネスについて誰かに聞かれたら、どんな質問にも答えられる。
だが最初の起業のときはそうではなかった。私からのアドバイスは、単に儲かると確信している事業アイデアではなく、自分が知識と情熱を持っていることを前提にしたアイデアを選ぶべきということだ。
あなただって、怖気づいたり理解に苦しんだりしながら起業なんてしたくないはずだ。
2. アウトソーシングは慎重に
私はコーディングができなかったので、アプリを開発するために外部のエンジニアに仕事を依頼した。だがこれは大きな間違いだった。
アプリは常に改修する必要があるものの、外注先にとって私の仕事の優先順位は高くない。2時間以内に返答が必要なのに、1週間も2週間も待たされることさえあった。
例えば人事など、事業の非中核機能の一部を外注するなら問題ないだろう。しかしテック系のスタートアップがエンジニアをアウトソーシングするのは絶対にご法度だ。もしもう一度やり直せるなら、創業メンバーにCTOとエンジニアチームを必ず迎え入れるだろう。
3. 管理画面とダッシュボードを開発してもらおう
もし私が別のテック系スタートアップを立ち上げていたら、バックエンドの管理画面を私でも操作できるくらいユーザーフレンドリーで機能的なものにするよう、開発チームに依頼するだろう。
もちろんリソースはかかる。しかし、バックエンドの小さな変更くらいは自分でできるようにしておけば、自分の手で事業の舵取りができる。
また、ユーザーデータやアプリの利用状況など、常に確認したい情報は多い。こちらからリクエストしないかぎり開発チームはこうした追加機能をつけてはくれない。必要な機能を組み込み、それにアクセスする方法を知っていれば、いちいちエンジニアにリソースを割いて助けてもらわなくてもよくなる。
4. 自分のアイデアの有効性は自分の資金で先に証明しよう
自己資金さえあれば、あなたのビジネスは成功するだろうか? もし自信を持って「YES」と言えないのなら、なぜ投資家がお金を出さなければならないのだろう?
ベンチャーキャピタル(VC)の資金はタダではない。もし資金を投じて成功するビジョンが持てないのなら、それ相応の扱いを受けるだろう。
シリコンバレーが狭い世界だとは言わない。ただ、VCから資金を調達して事業をするということは、あなたの名前が良くも悪くもスタートアップ界隈に知れ渡る可能性があるということだ。そうなれば、あなたは匿名のままではいられない。投資家にアプローチするのは、ある程度実績を積んでからにしたほうがいい。
5. お金を払ってくれるお客さんを優先しよう
起業家志望者はたいてい、無料ユーザーと有料ユーザーが天と地ほど違うことに気づいていないものだ。世の中には無数にアプリが存在し、それぞれがユーザーを抱えているが、その多くは10億ドルを稼ぎ出す人気アプリではないし、中には収益を生んでいないものさえある。
だからこそ、もしビジネスとして成立させたいなら、無料ユーザーではなく有料ユーザーを優先すべきだ。そのためには、有料ユーザーになってくれそうなオーディエンスやジャンル、業界を絞り、価値をキープすることが大切だ。現実的な有料ユーザーの獲得コストを把握し、価格設定とのバランスを見て、十分な利幅を確保するのだ。
その上で、重要でないオペレーションコストは削減・最小化する。自社でできることは外注せず、自分のチームでやる。そうすることで、資金は節約できるし、チームの自信と能力を高めることができる。
6. 焦り過ぎずにチャレンジしよう
起業に失敗したからといって、ショックを引きずり続ける訳にはいかない。私が一番恐れていたのは、起業への情熱を失い、投資銀行も辞めて9時5時の仕事に就くことだった。私にとってそれは敗北に等しい。
今思えば、それは何も悪いことではないし、負けを認めることでもない。とはいえ当時の私は、もっと低コストでチャレンジできる事業に仕切り直すことにした。
いろいろな意味で、最初の失敗があったからこそ私は強くなれた。お金の価値と、それがいかに早く枯渇してしまうかを学べた。
また、ひとたび起業すると、誰もが「今すぐにやらなければ」と考えがちで、焦りやプレッシャーに追い詰められることも学んだ。しかしアイデアさえ良ければ、そんなに焦らずとも事業はちゃんと続いていくものだ。
※この記事は2022年9月30日初出です。