BMWの電気自動車SUV「iX3」。人気車種X3をベースにEV化したモデルになる。
撮影:山﨑拓実
テスラの新型SUV「Model Y」が日本に上陸し、EV(電気自動車)への熱が高まるなかで、伝統的な自動車メーカーはどんなクルマづくりで勝負しているのか。
今回、BMWの人気車種である“SUV(スポーツ用多目的車)スタイル”のEV「iX3」、そして同じくEVではあるが背の低いクーペボディーを採用する「i4」を立て続けに試乗した。
その感触を、Model Yなどと比べながら、動画も交えてレポートしていきたい。
「iX3」の存在感。プレミアムクラスの「SUV」をEV化するとこうなる
iX3の室内。ごく一般的な自動車っぽいという点では、テスラModel Yや日産アリア、ヒョンデIONIQ5などとは立ち位置の違いを感じる。
撮影:山﨑拓実
BMWは言わずとしれた、ドイツのプレミアムセグメントの自動車メーカー。
その車種の中でも、ミドルクラスSUVにあたる「X3」シリーズをベースにEV化したのが「iX3」だ。国内では2021年11月から販売が始まっている。
乗車してすぐに気づくのは、SUVらしい車高の高さと、それによる目線(アイポイント)の高さだ。これは、ベースになったBMWの人気車種「X3」ゆずりのポジションだ。
目線が高いおかげで、公道に出て走り始めた瞬間から、前走車がいても圧迫感をあまり感じない、気持ちの余裕があるような印象がある。
ただし、モーターは後輪のみを駆動するので、いわゆるクロスカントリー的な悪路走行はそこまで想定していないとも言える。あくまで、よくできた「都市向けSUVのパッケージをEV化した」ということになる。
背後から。人と対比すると、車両のボリューム感がわかりやすい。
撮影:山﨑拓実
トランクルーム。SUVだけに収納スペースはかなり大きく、シートを立てた状態で510Lの容量がある。
撮影:山﨑拓実
ちなみに、カタログ上は、全高1670mm。このサイズは、Model Yと比べて46mm、つまり5センチほど高い。
ボディー側面の力強いラインを描く曲面などから、大きなクルマの印象があるが、全幅は意外やModel Yよりやや小さい1890mm(Model Yはミラー含まずで1921mm)だ。
BMWのなかでは、中級の「ミドルクラス」とはいえ、価格は862万円。上級グレードにあたる「M Sport」1モデルのみでの展開になる。
車内の室内空間のあしらいは、シンプルを追求したModel Yは当然として、日産アリアなどと比べても、明らかに1つ上のクラスという印象がある。おもてなし感の上質さは一枚上手だ。
シフトレバーの側面がブルーになっているのがEVの証。
撮影:山﨑拓実
EVとはいえ、ベース車両が売れ筋の「X3」ということで、内装の雰囲気は過剰にハイテク感を強調した印象はない。
撮影:山﨑拓実
定番のQi対応充電器をカップホルダーの前側に搭載。iPhoneなどを充電しながら置いておける。
撮影:山﨑拓実
例えば、段差を乗り越えた時の心地よい揺れ方、ハンドルを切ったときの精密機械のような感触など、細部までイイもの感を演出する神経が行き届いている感覚がある。
1充電あたりの走行可能距離は460km(WLTP)と、必要十分な実用性も確保している。
同じSUVタイプとはいえ、Model Yとはかなり性格が違う車両というのが、高速道路を中心に乗った印象だ。
iX3は、普通の流れに合わせて走っている限りは、ゆったりと重厚な感触で走る。心地よくドライビングしながらも、どこか移動のなかにリラックス感がある。
常に、ハイテクさを感じながら運転する(これはこれで楽しい)Model Yとは対照的で、エンジン音が聞こえないという点以外は、EVであることをまったく意識させない。
後席の広さは、セダン(クーペ)タイプと比べると圧倒的に広く、ゆとりがある。
撮影:山﨑拓実
グラスルーフは前半分を開くこともできる。開放感はなかなかのものだった。
撮影:山﨑拓実
ただ1点、EVのメリットを強く感じたのは、追い越し加速のためにアクセルを踏み込んだときだ。
通常なら、エンジンがある程度うなりをあげて加速していくところだが、EVなので無音のまま、3リッター程度のガソリン車相当かという400Nmのトルクが瞬時に立ち上がってくる。
2.2トンの車重が、アクセルを深く踏んだ時だけ、1〜2割軽くなったかのような、軽やかな加速と俊敏な動きをするのは、試乗のなかでも非常に印象的なことだった。
ゆったりした乗り味と、ある種のスポーティーさ、そして行き届いたおもてなし感を兼ね備えているのが、iX3の独特の個性だと感じる。
クーペの「i4」はまったく違う性格
BMWのクーペ型のEV「i4」。
撮影:山﨑拓実
一方のEVクーペである「i4」は、SUVとクーペという設計の違い以上に、まったく異なった世界観を持っている。
Mスポーツモデルのため、BMWロゴ部分が特殊なあしらいになっている。
撮影:山﨑拓実
撮影:山﨑拓実
SUVとクーペが違うのは当たり前でしょ?とツッコむ人は多いと思うが、例えば、Model 3とModel Yは、ここまで差がない印象がある。3とYの世界観はかなり似通ったものがある。
一方のi4は、「駆けぬける歓び」をうたうブランドイメージで知られるBMWらしい、スポーティーさを意識的に強調したEVというのが、試乗した印象だ。
大きく左右にのびたディスプレイが、最近のEVっぽさを強く感じる。シンセサイザーでつくったかのような未来的な走行音を鳴らす「アイコニック・サウンド・エレクトリック」も印象的だった。
撮影:山﨑拓実
モーターの回転に合わせて、走行音を鳴らす「アイコニック・サウンド・エレクトリック」の演出もEVっぽさを強調する(音を作ったのは映画音楽で知られるハンス・ジマー氏だ)。iX3がもっていたゆったり感はほぼ姿を消して、アクセルを踏んだ分だけパワーを絞りだし、ハンドルを操舵した分だけ容赦なくコーナリングするようなセッティングがなされている。
クーペタイプのため、足下はさほど広くはない。
撮影:山﨑拓実
人によっては過剰と感じる人もいるかもしれないが、「こういうクルマが好きな人」向けを狙ったのは間違いないんじゃないか、と試乗している間中感じていたところだ。
ちなみに試乗したi4は「i4 eDrive40 Mスポーツ」というモデルで、i4のエントリーモデルにスポーティーなオプションを追加した仕様あたる。全幅は機械式駐車場に対応しやすい1850mm、車重2080kg。パワーは250kW(340馬力)/トルク430Nmという数値は、いずれもiX3を上回っている。1充電あたりの走行可能距離は604km(WLTCモード)と、iX3より大幅に長い。価格は788万8000円〜(スタンダードは748万8000円)だ。
(文・伊藤有)