イーロン・マスクに買収提案を持ちかけられて以来、Twitterは御難続きだ。
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億万長者のイーロン・マスク(Elon Musk)が、440億ドル(発表当時のレートで約5兆6000億円)でTwitterを買収する意向を表明した2カ月後の2022年6月、マスクはTwitterの従業員たちとバーチャルミーティングで対話をした。しかしマスクが何を言おうと、従業員の間にある不安は払拭できなかったようで、その後同社では数多くの離職者が出ている。
マスクは、バーチャルミーティングの場で従業員たちに、宇宙人の話からTwitterの経営健全化に必要なリストラにいたるまで、さまざまなトピックについて話をした。しかし、すでにその時点で従業員の間からは、2022年4月の買収合意に対する苛立ちや失望の声が上がっていた。Twitterの事業運営および離職率に詳しい2人の関係者によると、そのミーティング後3週間で約100人の離職者が出たという。
さらに、マスクが買収を取りやめると発表してからは、マスクと同社の間で法廷闘争が始まり、離職者の増加傾向は続いている。この法廷闘争はまだ決着を見ていない。匿名を条件に取材に応じた関係者は、2022年9月末時点で、世界で700人を超えるTwitterのフルタイム従業員が離職していると語る。関係者の一人は、マスクや買収をめぐる「不安定な状況」が離職の理由として頻繁に挙げられているという。
一方、Twitterの広報担当者は、マスクとの間で買収合意がなされる前から離職者の増加を見込んでおり、マクロ経済的な要因が同社の採用と従業員の定着率に影響していると語っている。
Twitterの社員数は2022年2月時点で約7500人だった。上半期を通じて採用を続け、6月には社員数約8200人にまで増えていたというが、これまでのところ今年の採用数とほぼ同数の離職が発生しており、従業員数が9%純減したことになる。
ある現役社員は「今、その影響を痛感しています」と言い、多くのスタッフの退職により個々のチームに影響が生じていると語る。中にはスタッフの3分の1が退職したチームもあるという。
これまでに離職した従業員の数は極めて多く、Twitterはマスクとの訴訟の中で、マスクが買収の合意を破棄しようとしたことによって生じた損害の1つとして、この大量離職を挙げているほどだ。
8月上旬には離職者の数がさらに増えた。従業員の保有する譲渡制限株式の制限期間が終了し、多くの従業員が株式を現金化できるようになったタイミングで退職を決めたからだ、と2人の関係者は説明する。7月末から8月第2週にかけて約300人が離職しており、その後さらに200人が退職しているという。
リンクトイン(LinkedIn)のデータを見ると、Twitterは2022年5月から会社全体の採用を控え始め、7月には数十人の従業員をリストラしたが、6月以降は約280人の従業員を採用したことが分かる。関係者の一人によると、Twitterでは2022年も依願退職者が一定数続くだろうと見通しており、マスクによる影響を追跡しやすいように離職理由を記載する書類の分類変更まで行っている。ただ、同社の幹部らもここまで多くの離職者が出るとは予想していなかったようだ。
ある従業員によると、現在社内には、正式には採用抑制を維持しつつも、離職で空席となったポジションを埋めるために採用を進めるべきだとの議論があるという。過去1週間で、Twitterはリンクトインに多数の採用情報を投稿している。求人のあるポジションは、ブランド・ストラテジスト、エンジニアリング・マネジャー、プライバシーの専門家などさまざまだ。
とはいえ複数の従業員が、離職する同僚からの挨拶メールやメモが1週間に何通も届く状況が続いていると漏らす。
最近Twitterを退職した従業員も、以前こんなふうに明かしていた。
「社内の士気はダダ下がりですよ。離職の波を巻き起こしたのは間違いなくイーロンですね」
(編集・大門小百合)