記者会見するアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長。2022年9月21日、ワシントンで。
REUTERS/Kevin Lamarque
- アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は2023年まで利上げを続ける構えで、すでに減速し始めている経済にさらに圧力をかけている。
- FRBのパウエル議長は、アメリカが成長トレンドを下回る時期に直面する可能性が「非常に高い」と述べた。
- 同議長は、経済的な痛手はあるがインフレを40年来の高水準にとどまらせるよりはよい、とも述べた。
アメリカ経済はインフレとの戦いに勝つことができるだろうが、労働者はおそらくその過程で大きな打撃を受けるだろう。
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は2022年9月21日、6月以来3回目となる基準金利の0.75ポイント引き上げを行った。今回の利上げは、需要を冷やしてインフレ率を下げるためのFRBの積極的な取り組みを拡大するもので、政策立案者による最新の経済予測では、このような通常より大幅な利上げが2023年以降も続くとしている。
しかし、これらの予測はまさにアメリカ経済の将来を悲観しており、それによると2023年には「成長率鈍化(growth recession)」がやってくる可能性がある。連邦公開市場委員会(FOMC)関係者は、2022年の経済成長率をわずか0.2%と見ており、6月の予測値である1.7%増から低下している。2023年と2024年の成長率も低く修正された。
一方、FRBの失業率予測は、2022年が3.8%、その後2年間は4.4%に引き上げられた。もしこの予測が正しければ、今後15カ月でおよそ130万人の雇用が失われることになる。
FRBのジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長は同日の記者会見で、アメリカの経済成長がトレンドを下回る時期に直面する可能性が「非常に高い」と述べた。同議長は「金利の上昇、成長率の鈍化、労働市場の軟化」はすべて、FRBがインフレ抑制に動く中でアメリカ人が感じるであろう経済的苦痛の一部だと付け加えた。
プリンシパル・グローバル・インベスターズのチーフ・グローバル・ストラテジスト、シーマ・シャー(Seema Shah)は、パウエル議長の言葉は「中央銀行が『景気後退』に言及したと訳すべきだろう」と述べた。FRBの最新の予測は、数年にわたる経済低迷を示唆している。金利の上昇は労働者の需要を抑制し、広範囲に及ぶ解雇と昇給の鈍化につながる。経済成長率が低ければ、企業の成長予測や株価にも悪影響が出る。そして、金利が2007年以来の高水準に達することで、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードの価格は高騰する。
「新しい金利政策によって、FRBはハードランディングを図ろうとしている。ソフトランディングはほとんど不可能だ」とシャーは言う。
「これからは、ますます厳しい時代になるだろう」
いわゆるソフトランディングは、インフレの終焉として理想的なものだ。失業率の上昇や全体的な成長の大幅な減速を伴わずに物価上昇が収まっていく。しかし、インフレは予想以上に冷え込みにくいことが判明したため、現在ではハードランディングが最も可能性の高いシナリオになった。
労働市場の軟化は、FRBが金融引き締めを行う目的の一つだ。労働力人口は極めて不均衡な状態が続いており、現在では求人数が就業可能人数の2倍になっている。このギャップが記録的な数の退職者を後押しし、以来、この傾向は「大退職(Great Resignation)」と呼ばれている。
高い金利は労働需要を抑制する傾向にあり、求人が減ると、労働者は離職して他の場所で仕事を見つけることが難しくなる可能性が高い。
労働市場が均衡しているというには「わずかな証拠」しかないと議長は述べた。そして、インフレ率が非常に高く、労働市場が非常に逼迫しているため、制限的な金利を「しばらく」維持する必要があると付け加えた。
確かに、高止まりするインフレはアメリカ経済にとって大きなリスクだ。2022年、ほとんどの労働者が歴史的な賃金上昇を経験したにもかかわらず、物価の高騰はすでに労働者の賃金上昇を食いつぶしている。パウエル議長は、インフレが40年来の高水準にとどまることは「後々、はるかに大きな痛みをもたらす」ことを意味すると述べた。
FRB の最近の記者会見からのメッセージは明確だ。 インフレとの闘いは困難なものであり、前進する道はアメリカ経済を自ら景気後退の瀬戸際に追いやるものになるだろう。
(翻訳・編集:Toshihiko Inoue)