写真左から、Salesforceの共同CEOであるBret Taylor(ブレット・テイラー)氏とMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏。新機能「Salesforce Genie」の新キャラクターをイメージしたウサギの耳をつけている。
撮影:小林優多郎
Salesforce(セールスフォース)は、パンデミック後初、3年ぶりのリアル開催となる自社イベント「Dreamforce」を開催した。
9月20日〜22日(現地時間)に実施されている各セッションはオンラインでも配信されたが、会場となるアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ市内には世界各国から約4万人(事前登録者数)が集まった。
1日目となる20日の基調講演では、共同CEOであるMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏と、Bret Taylor(ブレット・テイラー)氏が登壇し、同社の最新の取り組みや新機能を紹介した。
また、新機能の中には、2021年7月に買収が完了したビジネスチャットの「Slack」に関するものも含まれる。
リアルタイムにデータ収集・分析し「魔法」のようなサービス体験をもたらす
Salesforce Genieの特徴。
撮影:小林優多郎
テイラー氏が「私たちのプラットフォームの新しい時代に突入した。ここ20年間で最も基礎的な変化」と称したのが、Salesforceの新機能「Salesforce Genie(ジーニー)」だ。
Genieは正確には一つの機能というより、Salesforceの提供するさまざまなクラウドサービスに対する複数の新機能やアップグレードされた機能を総称する言葉だ。
キーワードとなるのは「リアルタイム性」だ。各クラウドで「ミリ秒(1000分の1秒)単位」での、データの収集・蓄積、分析、AI処理などが可能になる。
Salesforceのサービス群は基本的にはB2Bサービスのためピンとこないかもしれないが、Dreamforceで示されたジーニーに関する自動車メーカーのフォードと化粧品メーカーのロレアルの先行事例が分かりやすい。
フォードのSalesforceの利用概要。
撮影:小林優多郎
フォードの場合、同社の電気自動車を持つ顧客に対する営業活動にSalesforce製品並びにGenieで強化された機能が導入されている。
例えば、小さな電気サービス会社を経営する女性が、個人の電気自動車を長距離運転した結果、バッテリーの充電がなくなりカスタマーサービスへの問い合わせをしてきたとする。
顧客のプロフィールと行動の履歴。
撮影:小林優多郎
フォードはカスタマーサービスを司る「Service Cloud」などを導入しており、Genieによる機能強化によって、瞬時に問い合わせをしてきたオーナーが利用している電気自動車の状況などが把握できるため、適切な対応ができる。
さらに、登録されているプロフィールなどから熱心な見込み客と予測されると、例えばバッテリー交換の際に社用の電気自動車の営業をかけたり、購入のためのローン・キャンペーンをオファーしたりする。それも、リアルタイムでだ。
ロレアルの事例。ユーザーがリップシェードの色を選択するとそれに該当する製品とARでの「お試し」が促される。
撮影:小林優多郎
一方、ロレアルの事例では、新製品のマーケティングおよび実際のコマース体験にGenieの技術が使われている。
例えば、自分好みのリップシェードを生成できる「YSL ルージュ シュール ムジュール」の広告をSNSで見て問い合わせをしてきた顧客(インフルエンサー)に対し、AIチャットボットの対応、好みであるリップシェードの色のレコメンド、そして決済までの体験を迅速に行える。
これは絞ったターゲットに対して広告を打てる「Makerting Cloud」や、SalesfoceのAI「Einstein(アインシュタイン)」、ECサイトの構築・分析ができる「Commerce Cloud」それぞれで得られたデータを一元管理し、さらにGenieによってリアルタイムに連携・分析をした結果になる。
連携という意味では、Genie登場前でもSalesforceの各サービスの肝は連携にあったが、そこに「ミリ秒」級のスピードを持つことで、より効率的な営業活動が可能になると言える。
Slackはドキュメンテーションツールを発表
「音声ファースト」だったSlackハドルは、ビデオ会議機能をサポートする。
撮影:小林優多郎
ただし、実際の現場(ユーザーから見ればバックヤード)では、単にAIが判断してキャンペーンや営業内容を実行するのではなく、人がアイデアを出し合って実行に移すものだ。
その際に重要になってくるのが、コミュニケーション・インターフェイスとしての「Slack」だ。
Slackでは新機能として「Slack Canvas」と、既に予告済みの「ハドルのビデオ会議機能」の提供開始がアナウンスされた。
Slack Canvasはチャンネルにも紐づけられる。Wikiのように利用できる。
撮影:小林優多郎
Slack Canvasはノートのような、いわゆるドキュメンテーションツールだ。
既にSlackには「ポスト」と呼ばれる文章機能があるが、ポストはシンプルなメモに近く、Canvasの見た目はGoogleドキュメントやNotionに近い(CanvasはSalesforce傘下のQuipをベースにつくられている)。
チャンネル単位やCanvas招待した相手と情報をまとめて共有できるだけではなく、リアルタイムで編集しあうことができる。
Slack Canvas内からWorkflowが実行できる。
撮影:小林優多郎
また、画像などの挿入のほか、例えばTableauの分析・グラフ化機能を使って最新のデータのグラフを表示したり、Canvasを起点としたワークフローの実行が可能となる。
なお、ハドルのビデオ会議機能のサポートは20日より順次展開、Slack Canvasについては2023年にGA(一般提供開始)予定としている。
パンデミックの夜明けを感じさせるリアルイベント
3年ぶりのオフラインでの開催となったDreamforce。
撮影:小林優多郎
そのほかにも、さまざまな新機能、機能強化が発表されているが、基調講演では各サービスやパートナーなどにとってそれらの機能が「A new day(新たな1日)」であると、登壇者は共通して語っていた。
アメリカのバイデン大統領は9月18日にCBS Newsのインタビューで「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは終わった」と語っており、会場はまるでパンデミック前に戻ったような活気に包まれていた。
Marc Benioff(マーク・ベニオフ)氏。
撮影:小林優多郎
基調講演ではテイラー氏が「新しい1日が訪れている。まだパンデミックは終わっていないですが」と言うのに対し、ベニオフ氏が「大統領が終わったって言っていたけど?」とおどけるシーンもあった。
いずれにせよ、パンデミックによって変わったさまざまな働き方、営業方法、購入体験に対応するためのアップデートがSalesforceのクラウドにもSlackにも施された形になる。
その詳細は後日掲載予定だ。
(文、撮影・小林優多郎、取材協力・Salesforce)