ロシアのプーチン大統領(2022年9月21日、ロシア)。
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- ウクライナへの侵攻を開始してから約7カ月。ロシアのプーチン大統領は9月21日(現地時間)、軍の部分動員令に署名したと明らかにした。
- ただ、この動きがロシア軍の増強にはつながらないだろうと専門家は話している。
- 動員には時間がかかるし、訓練やインフラも足りない。
ロシアのプーチン大統領は9月21日、軍の部分動員令に署名したと明らかにした。ウクライナ侵攻で、明らかに不足しているマンパワーを増強するためだ。ただ、専門家によると、プーチン大統領の"決断"がすぐに戦局を変えることはないという。
2月にウクライナ侵攻を開始したものの、すでに7カ月かかっていること、最近ではウクライナ側の勝利が続いていることから、プーチン大統領は戦争をエスカレートさせた。
ロシアの専門家や西側諸国は、プーチン大統領の21日の演説 —— 核の脅しを含む —— はロシアのウクライナ侵攻がうまくいっておらず、プーチン大統領もそれを分かっていることの表れとの見解で一致している。
約30万人の予備役が召集される見込みだが、専門家によると、これだけの規模を動員するには数カ月かかるという。なお、ウクライナ側はロシアによる侵攻が始まった直後に総動員令を発令している。
「これが実際の戦場に大きなインパクトを与えることは非常に想像しがたい」とデューク大学サンフォード公共政策大学院の助教で、旧ソ連と米ソ関係に詳しい歴史学者のサイモン・マイルズ(Simon Miles)氏はInsiderに語った。
予備兵の配備には1カ月以上かかる
ロシアの部分動員にとって大きなハードルの1つは、軍事インフラの枯渇だ。
「予備役を召集するのも1つの方法だ。ただ、その戦闘力を高めるには少なくとも数週間はかかる、何らかの訓練過程を経なければならない」とマイルズ氏は話している。
「しかし、ロシアは基本的にそうした能力を低下させてしまった」
侵攻初期、兵員不足の問題に直面し始めると、ロシア軍のマンパワーが足りない師団は訓練部門に頼ったとマイルズ氏は指摘する。訓練施設で何年も働いてきた将校が突然、戦場に戻され、訓練装備も一緒に持ち込まされた。
「その結果、訓練資源が全て枯渇した」とマイルズ氏は言う。つまり、ロシアは「訓練の足りない」兵員を前線に送らざるを得なくなるということだ。
官僚的な後方支援もどうにかしなければならない。ただ、マイルズ氏は「彼らにそれができる形跡はここ半年、ほとんど見られていない」と話している。
ロシア軍が残していった弾薬などをチェックするウクライナ兵(2022年9月21日、イジューム近郊)。
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低下するロシア兵の士気、高まるウクライナ兵の士気
ただ、南カリフォルニア大学の教授でロシアや旧ソ連、東欧諸国を研究しているロバート・イングリッシュ(Robert English)氏によると、ロシアが今後数週間で数十万の兵員を訓練し、配備できたとしても、ロシア軍が抱える問題を解決するには不十分かもしれない。
「それは20万、30万の兵士でどうにかなる問題ではない。無駄な抵抗をするようなものだ」とイングリッシュ氏はInsiderに語った。ウクライナの反撃が再び成功すれば、ロシアの目標は崩れる可能性があるという。
人員不足に加え、ロシアは軍事技術的にも不利な状況にあると、イングリッシュ氏は指摘する。アメリカを含む西側諸国は武器、訓練、情報といった形でウクライナにさまざまな軍事支援を続けていて、いずれもロシアを苦しめている。ウクライナ軍の攻撃がロシア軍の指揮所や砲台を正確に狙う一方で、ロシア軍の攻撃は確実性に欠け、断片的だとイングリッシュ氏は言う。
同氏も予備役の配備には数週間から数カ月の準備を要すると見ていて、それだけの準備をしてもウクライナ兵には及ばないだろうと考えている。
「召集された人々も、応じたくないと思っている」とイングリッシュ氏は語った。新兵は侵攻開始直後から士気が低いと報じられてきた軍に入れられるのだ。
「ロシア兵の士気は、通常兵の間で低下している。ウクライナ兵の士気は非常に高い」とイングリッシュ氏は話していて、その士気と軍事力の差から、ウクライナ兵1人はロシア兵5人に匹敵するという。
プーチン大統領は今のところ数十万人を召集しただけだが、ロシアがウクライナとの差を埋めるにはさらなる強化が必要になるだろうと同氏は話している。
許可されていない抗議デモに参加する人々(2022年9月21日、モスクワ)。
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広がるロシア国民の抵抗
ロシアの部分動員に疑いを持っているのは、軍事専門家だけではない。警戒心を抱くロシア国民も増えている。
プーチン大統領はこれまで戦争の現実をウクライナ国内に留め、ロシアの一般市民には見せないことで恩恵を受けてきた。ただ、21日の演説が"警鐘"になったと、マイルズ氏は話している。
プーチン大統領の演説後、ロシア各地で「戦争反対」の抗議デモが起きた。首都モスクワを拠点とする人権監視団体OVD-Infoは、21日夜の時点で500人以上が身柄拘束されたと報告している。
また、演説の数時間後にはロシアを出る片道航空券が一部売り切れ、その他のチケットも価格が高騰している。
これらはいずれも、ロシア人の考えが変わりつつあることを示している。
マイルズ氏は言う。
「ウクライナの塹壕で砲撃を受けながら冬を過ごしたい人間などいない」
(翻訳、編集:山口佳美)