定収入のない若者たちは、高騰する生活費に不安を抱えている。
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- インフレとエネルギー費の高騰が続き、今や経済アナリストが「生計費危機」と定義するような状況が出現している。
- 特に定収入のない若者たちの被っている打撃は大きい。
- 3人の学生と1人の理学療法士研修生に、物価高騰に苦しめられる現状をきいた。
本記事は2022年8月20日にドイツ版ビジネス・インサイダーに掲載された記事を翻訳編集したものである。
西洋諸国は「生計費危機」の真っ只中だ。エネルギー費は天井知らずの高騰を見せ、インフレ率はここ40年間の最高値を更新している。
英国のシンクタンクであるインスティテュート・フォー・ガヴァメント(Institute for Government)によると、経済危機そのものは2021年中頃から出現しはじめていたが、2月のロシアによるウクライナ侵攻がさらに大きく拍車をかけることになったという。
これにより、特に定収入のない若者たちが大きな打撃を受けている。物価高騰が実生活にどんな影響を与えているか、3人の学生と1人の研修生にその実情をきいた。
ヨナス、21歳。ベルリン在住のビジネス心理学を専攻する学生。
僕はまだ21歳です。将来が怖いなんて言うには若すぎる年齢ですよね。でも、卒業したあとどうすれば安定した将来を手に入れられるだろうかと、すでに今から不安で仕方がないんです。経済的に安定した収入を得られるだろうかという不安は、去年よりもずっと強くなっています。
エネルギー危機は、僕のような若い世代にものすごく大きなプレッシャーを与えています。政府には、本気でこの不安を取り除き、経済的な安心を与えてくれるような政策を実現してほしいと思っています。
エネルギー危機のせいで、家主から毎月のガス代を2倍にすると言われました。僕は幸いアパートをシェアしているので、毎月の光熱費を2人のフラットメイトと分担することができますが、それでも家賃の500ユーロ(約7万2000円)に加えて30ユーロ(約4300円)余計に支払うことになります。
ありがたいことに両親からも金銭的な援助をしてもらっているので、家賃を払ってもまだ手元に500ユーロ(約7万2000円)は残りますが、この大部分は食費に消えます。スーパーで買う食品の値段も、ものすごく高くなっています。最近は、スーパーで週末にどかっとまとめ買いはしなくなりました。
その代わりに、毎日ちょこちょこ買い物をするんです。まとめて買ってその金額にぎょっとするのを避けたいというのもあるんですが、ムダ買いを防ぐためでもあるし、実際まとめて支払う余裕もないんです。高いブランド品を買うこともしませんし、肉もできるだけ減らしています。とにかく高いですから。
また、外食は避けて、ほぼ自炊です。自由に使えるお金がないと、人間いろいろ工夫するようになりますね。
ソフィア、26歳。東ドイツ、ライプツィヒ在住の理学療法士研修生。
私は週40時間働いています。体力的にかなりきつい仕事ですが、両親からの金銭的援助がなければとてもやっていけない状況です。いま住んでいる狭いワンルームのアパートの家賃は400ユーロ(約5万7000円)で、それを支払うと手元に残るお金は300ユーロ(約4万3000円)。それで残りのすべてを賄わなければなりません。
節約のためほとんど毎日自炊で、夜遊びに出かける余裕なんてまずありません。どのみち仕事のあとには、飲みに行く時間もエネルギーもほぼ残っていない状態ですけど。
研修生になる前から、理学療法士じゃとてもリッチにはなれないだろうとわかっていましたが、それでもいつかバルコニーのあるもうちょっと広い部屋に住めるかな、と思っていました。そのうち週4日勤務にできたらいいな、なんて考えたこともあります。でも、現状を見ると、そんなのは夢のまた夢です。
それどころか、もっと長時間働かないといけなくなるかも。病院はどこも人手不足で、その穴はなかなか埋まりそうにありません。政府には、もっと手をさしのべてほしいと思います。
死ぬ間際まで働いても、小さくても庭つきの家どころか、ささやかなマンションさえ買えないなんて悲しすぎる。まだ正規の職についてもいないのに、引退するまでお金の心配がついてまわる人生かも、と思うと不安でたまりません。
イヘブ、25歳。ベルリン在住の電気工学科学生。
僕は自分で自分の人生を切り開こうと、チュニジアからドイツへ移住してきました。勉強のかたわら研修生として週20時間働き、それで食費と家賃を稼いでいます。
現在、家賃としてほぼ月500ユーロ(約7万2000円)払っていますが、このまま物価が上がり続けると、生活はかなり苦しくなるでしょうね。雇い主は最近時給を2ユーロ(約290円)上げてくれましたが、どうせすぐにインフレでその分は打ち消されてしまう気がします。
今年はパンデミックが始まって以来、久々に旅行に出かけたいと考えていたのですが、とても無理でしょう。なにせ飛行機代が高すぎる。お金を少しでも貯めるためには、学期間の休みの間も全部仕事を入れないと間に合いません。
政治家には、学生が勉強に集中できるような環境づくりに本腰を入れて取り組んでもらいたい。試験や講義をこなしながら、週20時間も働くような状況はおかしいと思います。
アントニア、25歳。西ドイツ、ミュンスター在住の法学生。
1カ月前、ガス料金の追徴分として314ユーロ(約4万5000円)を請求する通知が届きました。そもそも、毎月ガス・電気代として35ユーロ(約5000円)払っているんですよ。ミュンスターで家賃460ユーロ(約6万6000円)のワンルームの部屋に住めるのはラッキーだし、だからこそ35ユーロの光熱費もなんとか払えていますが、今後光熱費はもっと上がるんじゃないかと心配しています。
大学を卒業するまでに、家賃を支払うほかにいくらかお金を貯めておいて、将来のもっと大きな出費に備えようと考えていました。でも今はそれどころか、ガス代の追徴分を払うために旅行をキャンセルしなければならないような状態です。
とはいえ、ほかの学生に比べて、私は恵まれていると思います。10月には司法研修生としての生活が始まるので、定収入を得ることができますし、健康保険を払う必要もなくなる。それで多少は重圧から逃れられます。
物価がこんなに高騰する前は、司法研修生のスタートは12月にしよう、それまでの2カ月間は旅行でもして、試験のプレッシャーから解放された喜びに浸ろう、と考えていました。でも今は、できるだけ早く働き始めたほうがいいと思っています。勉強を始めたばかりのころには、こんなことになるなんて思いもしませんでしたね。
政府は、現状の問題に対し、バンドエイドを貼りつけるような、通り一遍の財政支援しかしていないという印象を受けることがままあります。そうではなくて、誰がどんな支援を必要としているのか、もっとケースバイケースで判断していったほうがずっといいのではないでしょうか。
[原文:4 Young People on How the Rising Cost of Living Is Affecting Them (businessinsider.com)]
(翻訳・加藤輝美/LIBER、編集・長田真)