iPhone 14 Pro Max。自前端末なので、カラーはディープパープルを選んだ。
撮影:林佑樹
iPhone 14 Proシリーズが発売された。この記事では、カメラ性能を特に掘り下げて、「iPhone 14 Pro Max」のインプレッションをお届けする。
ざっくりおさらいしておくと、iPhone 14 ProとiPhone 14 Pro Maxは、ボディー自体のサイズやバッテリー容量に違いはあれど、カメラについては同一仕様だ。また、スタンダードモデルの「iPhone 14」、「iPhone 14 Plus」と比べた場合、SoC(半導体)や画面上部のカメラの搭載方法の違いなどがあるほか、カメラ自体も異なる。
「iPhone 14 Pro」のカメラは、派手さよりは「ほぼ見たまま」路線の絵作りになっている。ただ、撮影した写真をスマホ自身が考えて「描く」ように補正する「Computational photography(コンピューテショナルフォトグラフィー)」への動きが目立ち始めた。イメージとして以前は絵作りの力点が光学7割、Computational photographyが3割程度だったとすると、それが光学5割、Computational photography5割程度になった印象がある。
例えば、上記の狛犬の写真で見てみよう。
光学性能を無視しすぎていると、撮影データの岩肌や輪郭がつぶれがちになり、機械学習などでフォローしてものっぺりするなど、あまり良い結果にならない。
また被写体のエッジの処理も感覚的な表現となるが「うねうね」した感じになり、少し拡大すると違和感が生じやすい。
こうしたComputational photographyっぽさを念頭に置き、上記の狛犬のような写真をいくつか撮るなかでの肌感覚として、光学5割、Computational photography5割程度だろうと感じたわけだ。
では、もっと光学性能のいいレンズを搭載すれば良いのではないか、と考える人もいるだろう。
ただ、性能のいいレンズは描写性能を求めるとどうしてもレンズが大きくなりがちだし、ソニーの「Xperia PRO-I」のようにガラスモールドレンズを採用するとアクチュエータの挙動が難しくなるなど、スマホという小さなパッケージならではの物理的な課題がある。
iPhone 14 Proも同様の制約があり、今回のComputational photographyへの力の入れようからすると、「これ以上は(レンズを)大きくしたくない」(もちろん、デザイン的にも)のではないかと推察している。
iPhone 14 Proのカメラ性能の基本編
そういったことを踏まえてカメラを見てこう。
背面にあるカメラモジュールは3基で、いずれも大きくなった。それぞれ、1200万画素超広角(13mm)、4800万画素メイン(24mm)、1200万画素3倍望遠(77mm)という仕様だ。
またメインカメラはクロップ(中心部周辺を切り取る)することで2倍相当のデジタルズームとしても振る舞う。
光学的に2倍になるわけではないが、元々画素数が大きなイメージセンサーを使っているため、デジタルズームをしても違和感がない。
また撮影した後の処理は、Neural engineとISP(Image Signal Processor)で4兆回も処理して、最終的な1枚にしているという。ただ、「4兆回」というのは、どんな処理を重ねているのかよく分からない数値だ。
純正カメラアプリを見ると、倍率表示の2倍には48mmの文字はない。光学ズームではないからだろうか。ただし、2倍にダイヤルを合わせた時のみ「48mm」と表示される。
筆者キャプチャー
撮影された色の表現を見てみると、有機ELで見る場合、ちゃんとリアルさのある色あいになる。逆に、液晶のIPSパネルやWindows PCのほとんどでは、地味な絵になりがちだ。もっとも写真的には本来、派手さの追求は本末転倒ではあるので、路線としては正しい(タップすると拡大表示します)。
撮影:林佑樹
iPhone 11やiPhone 12の世代では、あまり距離を意識せずとも料理や小物写真はほどよい被写界深度※になっていた。
被写界深度:ピントが合う領域の深さのこと。一眼カメラのように背景ボケした写真は「被写界深度が浅い」と表現する
一方、iPhone 14 Proシリーズのようにセンサーが巨大化し、レンズの明るさを示すF値も低く(明るく)なると、どうしても前後が派手にぼやけがちだ。
その点をiPhone 14 Proは「マクロ撮影」機能で代替することが多い。店頭などで70cmほど離れた状態から、被写体に近寄ってみるとカメラの切り替わりを確認できる。
おおよそ被写体まで25cmほどで切り替わることが多く、テーブルフォトのほとんどはメインではなく、「超広角」での撮影になる。
「勝手に切り替わるのが面倒」だという人もいるかもしれないが、アップルは明暗差のある状況でも綺麗に撮影できる「スマートHDR4」も、カメラの設定から消しているくらいだ。
設計思想として、「シャッターボタンを押すだけでOK」にしたいのだろう。ちなみに、設定からマクロ撮影モードスイッチをオンにして、切り替えを抑止することはできる。
窓に付着した水滴を撮影したもの。1倍、2倍、3倍のどのカメラを使っていても、近寄ってみると0.5倍に切り替わり、クロップした状態で表示される。2倍と3倍は相応に絵が荒くなるため、「マクロで使うなら1倍か0.5倍だけ」と割り切っておくといい。
撮影:林佑樹
背景ボケが使えるポートレートモードは、各段に自然さが向上した。細いものに対して強くなっているが、ポートレートモードを使わなくても、やや荒めだがある程度はボケるようだ。ポートレートモードは、人物撮影用と割り切ってもいいくらいだ(タップすると拡大表示します)。
撮影:林佑樹
ハイライトはあまり粘ってくれないが、シャドウ表現はかなり暗くても細部の表現が潰れない印象がある。意図的に露出を下げてみたり、フォトグラフスタイルで遊びやすい(タップすると拡大表示します)。
撮影:林佑樹
ナイトモードの描写を見る
ナイトモードを見ていこう。これも「見たままを撮る」という路線を維持している。興味深いのはメインカメラだ。これまでiPhone 12 ProやiPhone 13 Proのメインカメラは夜になったらだいたいナイトモードだったが、iPhone 14 Proの場合は都内をうろうろしてみた限りでは、ほとんどナイトモードに切り替わることがなかった。
秋葉原駅・電気街口周辺。こちらもソツなく夜の街中になっている。左のLEDスクリーンの白飛びが気になる。前述したように、どうもハイライト側が弱い印象がある。
撮影:林佑樹
一方で超広角カメラと3倍望遠カメラは、適宜、ナイトモードに切り替わる。とくに3倍望遠は昼間でもビル谷間や曇天ではナイトモードがオンになりやすかったほか、夜の場合はあまりエッジがキレイではなく、日中用の存在と割り切ってもいいくらいだ。
超広角カメラのナイトモード。Computational photographyが強めに効いているのか、被写体のエッジがやや「うねうね」しているが、雰囲気は十分だ(タップすると拡大表示します)。
撮影:林佑樹
フォトグラフスタイル
iPhone 13から搭載された「フォトグラフスタイル」というカメラの機能では、トーンと暖かみのパラメーターを4パターン登録でき、自分の好きな雰囲気で撮影できる。
シンプルなわりに好きな傾向をちゃんと作りやすく、印象は良い。ただ、現時点では、撮影の都度フォトグラフスタイルを変更する必要があるため、ちょっと手間だ。
フォトグラフスタイル。プレビューは「暖かい」の状態になるが、もう少し操作しやすいUIにできなかったものだろうか。
筆者キャプチャー
カメラ関連で気になるポイント
フロントカメラ周辺に新しい通知を表示させる、Proだけの新機能「Dynamic Island(ダイナミックアイランド)」は、14 Proシリーズの今回の目玉の1つだ。
この機能はハードとソフトの境界線をあいまいにする面白いUIで、カメラ機能との連携も期待したのだが、撮影時には特に気の利く挙動はなかった。
てっきり、露出補正やフォトグラフスタイルの設定操作ができるのかと思っていたのだが……。
最後に、撮り歩きでちょっと気になったことを2点挙げておく。
まず、ワイヤレス充電「Magsafe」対応バッテリーについてだ。
こんな感じに少し浮いてしまう。一応、充電はできるから良いとはいえ……。
撮影:林佑樹
iPhone 14 ProとiPhone 14 Pro Maxはカメラモジュールが大型化した。このため、保護ケースを装着すると、iPhone 13世代向けのMagsafe対応バッテリーと干渉する可能性が高い。手持ちの製品は、上の写真のように浮いてしまった。
もう1つは、iPhone 14 Proのディスプレイの強さだ。割れづらいセラミックシールド(Ceramic Shield)で保護されていることもウリになっている。
発表会ではガラスより頑丈などとアピールしていたが、1日撮り歩きの間に小さな傷ができていた。細かな傷が気になる人は、やはり保護フィルムやガラスフィルムを貼ったほうが良いかもしれない。
(文・林佑樹)