ファイナンシャルアドバイザーは顧客が感情的な決定を下さないようサポートする(画像はイメージ)。
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- 資産管理の専門家として20年以上のキャリアを持つ筆者は、これまで複数の金融危機を顧客に乗り越えさせてきた。
- そんななか、投資家たちが共通の過ちを犯すのを繰り返し目にする。それは、感情にまかせて戦略を立てることだ。
- 感情とお金を切り離すのは難しい。しかし、それができないとのちに後悔する決断を下してしまいかねない。筆者からの最大のアドバイスは、感情を捨てて投資計画を貫くことだ。
これまで20年以上にわたり資産管理の専門家として働く中で、私は顧客たちの手を引いて3度の株式市場の危機を乗り越えてきた。
この経験を基盤に私が投資に関してできる最高のアドバイスは、投資計画をしっかりと貫き、意思決定のプロセスに感情を持ち込まないことだ。
確かにこれは極めて難しいことかもしれない。結局のところ私たちは人間であり、深い感情を抱くのが自然なのだから。
しかし、意識していないと自信、楽観、恐怖、欲などの強力な感情は私たちの客観性を曇らせ、のちに後悔するような決断を下すことになりかねない。
一時の感情を持ち込んではいけない
3月中旬、ある30歳のクライアントは人生最高額のボーナスを受け取ったばかりだった。前年に一緒に決めた資産運用計画は、ボーナスのできるだけ多くをアメリカの個人年金プランRoth 401(k)への掛金拠出に回すことで将来の受給額を最大限増やし、残りを課税対象口座で運用するというものだった。
このクライアントは、最低1年分の生活費と、源泉徴収でカバーできなかったボーナスの残りの税金を支払える健全な現金を用意できていた。そして、ボーナスで受け取ったお金にはこの先何年も手をつけずに済むと本人も確信していた。
これだけの余裕はあったが、そのボーナスが入ったのはコロナ禍で人々が外出を控え始めたばかりで、感染拡大の懸念から株式市場が暴落していた時期だった。
自分が仕事を失うことは心配していなかったクライアントだが、友人の多くが解雇されたり自宅待機になったりしていたことに不安をあおられた。将来についてひどく危惧し、株式市場の暴落は彼女をさらなる恐怖に陥れた。近いうちに市場が回復することはまずないと考えた彼女は、投資環境が上向くまでボーナスのお金を運用に回すのは控えたいと考えた。
このような精神状態から、投資家は金融商品を最も高いときに買って最も低いときに売ってしまうのだ。私の役目は、社会や経済の行く末が短期的にも長期的にもわからない時期に彼女の判断がこの種の感情に左右されるのを防ぐことだった。
データをよく見て、自分の計画を貫く
私はこのクライアントと、長期の資産運用をするなら市場の底や最高値を狙うべきではないということについて長時間話し合った。重要なのは、過去の市場の動きを長い視点で見て、長期にわたり投資を続けることが常に正しい判断だとされてきた理由を理解することだ。
2019年12月31日までの30年間でS&P500は年率10%のリターンを記録していることを私は彼女に説明した。この期間中、最も価格の高かった25日間を逃していればリターンは年率5%になる。一方、この期間に株式をまったく購入せず短期国債のみに投資した場合には複利で2.7%のリターンを得ることになる。
最終的に、クライアントは当初の計画を貫くことにしてボーナスを投資した。もしこのとき計画に従っていなかったら、3月の底値からの短期的だが大幅な市場回復による恩恵を逃すところだった。
(翻訳・長尾莉紗/LIBER、編集・長田真)