REUTERS/Benoit Tessier
景気低迷が続く中、あらゆる規模の企業が経営資源を絞り込んでいる。その結果、広告予算やIT予算が縮小し、顧客との取引が成立しにくくなるなど、ハイテク業界にとって悪いニュースが相次いでいる。
それでも、セールスフォースの共同CEOであるマーク・ベニオフとブレット・テイラー(Bret Taylor)は先ごろ開催された同社の年次イベント「Dreamforce」で、引き続き例の前向きな見方を示した。
レニー・クラビッツがオープニングの基調講演で短い演奏を披露するなか、Notion(ノーション)に似たSlack Canvas(スラックキャンバス)やセールスフォースのデータクラウドプラットフォーム「Genie(ジニー)」などのアップデートが発表された。
「これからも買収を続ける」
ベニオフはこのイベントで、2025年年度までに年間売上高500億ドル(約7.2兆円、1ドル=144円換算)を達成するという長年の目標も改めて表明した。これは2022年度に見込む売上高310億ドル(約4.4兆円)を上回る数字だ。
またベニオフはヤフーファイナンスの取材に対し、営業利益率は2022年の目標20.4%から、2025年までには25.0%に乗せるとの見通しを示している。
スイスの金融機関ミラボー(Mirabaud)のアナリストは、ベニオフが目標とする500億ドルの売上高達成に向けて成長を加速させるためには、買収が最も賢明な方法だろうと指摘する。
セールスフォースは2021年にSlack(スラック)を277億ドル(買収当時のレートで約2.9兆円)で買収して以来、2年近く大型M&A案件の検討から遠ざかっている。しかしDreamforceに登壇したベニオフは、再びM&A戦線に復帰する用意ができたことを示唆した。
ベニオフはこのイベントで「我々は60社を買収してきた。これからも買収を続ける」と語った、とブルームバーグ(Bloomberg)は報じている。
Slack、Tableau(タブロー)、MuleSoft(ミュールソフト)といった企業が大型買収でセールスフォースの傘下に入り、経済が不透明な中でテック企業のバリュエーションが下がっている今こそベニオフとテイラーが動くタイミングかもしれない、とミラボーのアナリストは見る。
次の買収候補は?
ミラボーのリサーチャーは、セールスフォースにとって格好の買収先となりそうな企業も挙げている。
挙がった社名は、クラウドストレージベンダーのBox(ボックス)、プロジェクト管理ソフトウェアのSmartsheet(スマートシート)、サイバーセキュリティのOkta(オクタ)、ヘルスケアに特化したセールスフォースパートナーであるVeeva(ヴィーヴァ)、支出管理のCoupa(クーパ)などだ。
「M&Aはセールスフォースにとって重要な成長要因であり、オーガニック成長の鈍化を隠すためにも必要なものだった」とアナリストは指摘する。
しかし金融関係者の間では、少なくとも短期的にはセールスフォースの将来性を危惧する声も聞かれる。
RBCキャピタルマーケッツ(RBC Capital Markets)は、Dreamforce後の顧客向けメモで次のように指摘している。いわく、Dreamforceでの発言を聞くかぎり、クラウド支配がますます進む世界でセールスフォースの存在はひきつづき重要度を増すとパートナー企業たちは前向きに捉えている。だが経済状況は長い影を落としており、顧客が支出を控えるようになったため、これらのパートナー企業の販売サイクルは長くなっているという。
最大の懸念は、セールスフォースのパートナー企業が同じ顧客に複数の製品を販売する際の問題点を報告していることだとアナリストは述べ、次のようにメモに記しつつ「短期的には若干の注意が必要」と警戒している。
「ある大手パートナー企業は、顧客はより少ない負担でより多くのことを行おうとしており、既存顧客にクラウドを追加販売することがいかに難しいかを訴えていたという。
この先セールスフォースが成長と利益率を高められるかどうかは、どれだけマルチクラウドの導入を増やせるかにかかっている」
(編集・常盤亜由子)