スペインにあるナイキのショップ。
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ナイキ(Nike)のジョン・ドナホーCEOは9月9日に行われた年次株主総会で、D2C(Direct to Consumer:ダイレクト販売)へのシフトを進めている同社の動きに自信をのぞかせた。
ナイキは過去何十年もの間、百貨店やスポーツ用品店、小さなスニーカーショップなどの卸を通じて事業を展開してきた。
だが2017年には「コンシューマー・ダイレクト・オフェンス」なる戦略を発表。これを転機としてナイキは卸売アカウントを順次閉鎖し、アプリやウェブサイトなど自前のD2Cチャネルの優先度を上げるようになった。
2020年には事業計画を「コンシューマー・ダイレクト・アクセラレーション」と改名してこの取り組みを強化。D2Cとデジタル販売を促進するため、さまざまな新しい店舗コンセプトとEコマース体験を導入した。ナイキは現在、消費者に製品をより早く届けるため店舗や倉庫を増やしている。
このように卸への依存を減らしつつあるナイキは、直近の四半期においてD2Cの売上高を7%増の48億ドル(約6900億円、1ドル=144円換算)計上している。ドナホーCEOは事業の振り返りの中で、我々の戦略は順調だと強調した。
D2Cシフトにアナリストは懐疑的
しかしあるアナリストは、ナイキのドラスティックなD2Cシフトに疑問を呈している。
バークレイズ(Barclays)の主席アナリストであるエイドリアン・イー(Adrienne Yih)は、たしかにD2Cシフトによってナイキの利益率とブランド力が高まるであろうことは認めつつも、次のように記している。
「卸売パートナーシップから上がる経常収益とは異なり、D2Cは需要の変動や不確実性が大きく、移り気な最終消費者に振り回されることになる。D2Cの世界では、個々の消費者を取り込むべく毎日が戦いなのだ」
イーはこれに加え、ナイキが卸売アカウントを閉鎖することで、ホカ(Hoka)、オン(On)、アディダス(Adidas)、アンダーアーマー(Under Armour)といった競合他社に小売店舗の棚スペースと機会を奪われることになるとも指摘し、ナイキの株式をオーバーウエイトからイコールウエイトへと格下げした。
BMOキャピタル・マーケッツ(BMO Capital Markets)の株式調査担当マネージングディレクター、シメオン・シーゲル(Simeon Siegel)もかねてよりナイキのD2Cシフトに疑問を呈していた。
シーゲルは以前発表した投資家向けメモの中で、「ナイキの規模とスケールには長期的な競争優位性があると見ているが、同社がD2Cシフトを進めることで得られる利益については、依然として警戒している」と書いている。
すでに卸売アカウントの50%を閉鎖
一方で、コロンビア・スポーツウェア(Columbia Sportswear)などナイキの競合他社は卸売の規模を倍増させている。この戦略ならば、小売業者が在庫を持つため予測が立てやすくリスクも低い。
「当社は卸売会社として設立されました。これが私たちの伝統であり、今後も優先事項であり続けるでしょう」
コロンビア・スポーツウェアのティム・ボイル(Tim Boyle)CEOは、先ごろ開催された投資家向け説明会でそう語っている。
ナイキのマット・フレンド(Matt Friend)CFOは先の年次株主総会で、D2C戦略により粗利益率はこの2年間で2.6%ポイント上昇したと述べた。
「コンシューマー・ダイレクト・アクセラレーション戦略は当社の財務および営業モデルを根本的に変え、ナイキに健全な利益成長をもたらしています」(フレンド)
フレンドは今年3月、ナイキは2018年以降すでに卸売アカウントの50%を閉鎖しており、残る卸売パートナーについても推し進める「ゴー・フォワード・プラン」を発表している。
「卸売パートナーは私たちの今後の市場において、ナイキブランドの認知を広め、大規模な小売スペースで一貫した消費者体験を通じて流通の規模を拡大するうえで不可欠な役割を担っています」(フレンド)
(編集・常盤 亜由子)