クレアはレジ係として時給13ドルもらって働いている(写真はイメージ)。
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- 22歳のレジ係のクレアは雇われて仕事をこなしている。それ以上でもそれ以下でもない。
- 自分の担当以外の仕事はしない「自分の賃金を演じる」ことを受け入れる人が増えている。
- Z世代は、これまでとは違った働き方をしており、雇用主との距離も離れていっているという。
22歳のクレア(Claire)は、人手不足の対応には慣れている。
食料品店のレジ係を担当する彼女は、自分の働く店がフル稼働するためには、おそらく40人ほどのレジ係が必要だろうと見積もっている。しかし、彼女が2021年10月に入社したときは、レジ係は12人ほどしかいなかった。
「定着する人が少なかったから、私は数カ月間、週に6、7日勤務していた」とクレアは話す。彼女はInsiderにはフルネームを明かしているが、仕事上の問題を配慮してここでは伏せることにする。
「仕事は仕事と割り切ってやる。私は常にその気持ちで取り組んできた」
しかし、クレアは 「自分の賃金を演じること」に関しては譲らない。彼女は「この仕事以外の人生もある」と従業員が感じているのを何度も見てきている。経営陣が従業員の勤務時間を変更したり、特にクレームの厳しい顧客が現れるなど、何かバランスを崩すようなことが起こると同僚たちは次々と辞めていった。
「もし、その仕事が私にできることであって、私の人生から与えてくれたもの、つまりお金以上のものを奪わなければ、気難しい客や変わった経営者にも耐えられる。そんなものは忘れてしまえばいい」と彼女は言う。
「時にはその仕事に見合うだけの価値がない時もあることはわかっている」
テキサスで時給約13ドル(約1865円)もらっているクレアにとって、この仕事にはまだ価値がある。しかし、それは彼女が自分の賃金を演じているからだ。彼女は期待されることはするけれど、それ以上のことを引き受けたり、必要以上に自分を追い詰めたりはしない。これは、「静かな退職(quiet quitting)」のもうひとつの側面であり、Z世代にとって特に重要な実践方法だと彼女は考えている。
「私はいつ現れ、いつ去るかを自分でコントロールできる。そこにいる間は、少なくとも言われたとおりにしようと思っているが、朝9時から夜9時まで働くことはしない」
クレアはどうやって給料分を「演じる」のか
クレアにとって、自分の賃金を演じるということは、自分のアイデンティティを仕事と切り離し、それ以上のことをする必要性を感じないようにすることだ。
「少なくとも私の頭の中では、どんな仕事であっても、仕事がすべてではないはずだと思っている」とクレアは言う。
「これは人生の総決算ではない。これは文字通り、ただの仕事だ」
特にインフレが進み、賃金が非常に低く、貧困ラインを下回るほどの状況では、クレアは仕事を続けるために必要以上のことをする理由はないと考え、自分の賃金を演じること本質的なものだと思っている。
「ファンのお気に入りになることにも、『それ以上のことをする』ことにも興味はない。なぜなら具体的に店で『それ以上のこと』をして、1日の終わりに何か意味を持つことになるのだろうか」と彼女は話す。
もし、自分がすごく頑張るのならば、彼女はそれに対する何かご褒美が欲しいという。
「何度やってもダメな時に、なぜ私は挑戦しなければならないのだろう」とクレアは話す。
「あきらめるのでも、仕事をしないのでもない。これが私の雇われた仕事だと理解しているだけだ」
結局のところ、自分がそのビジネスにとってどれだけ重要な存在であるかを考える必要があるとクレアは言う。
「そのビジネスにとって、あなたはあまり重要ではない」とクレアは言い、「私の経験では仕事がうまくいくためには重要だが、雇用主にとって、その仕事が終われば大して重要ではない」と付け加えた。
なぜZ世代は、自分の賃金を演じる傾向が強いのか
Z世代であるクレアは、自分たちの世代は過去の世代とは仕事への取り組み方が違うと考えている。例えば、彼女の祖父は、私生活や彼の頭の中で何が起こっていても仕事にすべてを捧げるメンタリティを持っていたという。
彼女は、それが 「über-employee」 という考え方を生み出したと話す。この考え方では「心の健康、身体、医療の健康、家庭での問題、友人との問題、他人との人生におけるドラマなど、自分がどうであるかは関係ない。仕事に行くときは毎日115%の力を発揮する」のだという。
だが、Z世代は高騰するインフレ、不透明な政治環境、そして「ロー対ウェイド事件(Roe v. Wade)」が覆されるような状況にも直面しているとクレアは言う。
「そのようなことを全部ひっくるめて、今の若い人たちは、『私は人間だ。精神衛生が優先される日もあるし、仕事より、祖母の世話や他の仕事など自分の何かが優先される日もある』と考えている」とクレアは話す。
他の世代の人たちも同じように感じているかもしれないが、Z世代はより積極的に反撃する姿を示している。「静かな退職」や給料を上げるために行動することは新しいことではない。しかし、この言葉をめぐる反発や騒動は、ますます強くなる労働力に雇用主が動揺していることを示している。
「私の経験では、何年か前と比べて、従業員と雇用主には大きな距離がある」とクレアは言う。
「なぜならば、私たちは世代として、また国としても、私たちがどれほど重要な存在であるか、そして健康であるかどうか、あらゆる情報を得ることができるようになったからだ」
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)