アラスカの「サーモカルスト」と呼ばれる地形にできた湖はメタンガスであふれ、表面に泡が出てきている。
NASA / Sofie Bates
- NASAは、永久凍土が溶けて出現する陥没地形「サーモカルスト」について研究している。
- そこにできた湖は、気候変動にさらなる危険をもたらすメタンガスを大量に放出している可能性がある。
- 気温が上昇してこのような湖が増えると、悪循環が生まれかねない。
アラスカの永久凍土が溶けて出現した湖が、大気中にメタンを放出しているとNASAの科学者が語った。
「サーモカルスト」と呼ばれるこのような湖は、気候に悪影響をもたらすガスを多く含んでおり、表面に泡が出ているのが確認できるほどだ。
2021年の研究によると、気温の上昇と森林火災の増加でアラスカの永久凍土が溶け、このような湖がますます多く現れるようになってきているという。
NASAのブログに2022年9月に投稿された記事によると、NASAの北極圏脆弱性実験(ABoVE:Arctic Boreal Vulnerability Experiment)プロジェクトは、気候変動に対してそれらが及ぼす影響について調査している。
「サーモカルスト」には大量のメタンが含まれており、火をつけることができる。
University of Alaska Fairbanks
「サーモカルスト」は、大地が溶けて崩壊した後に生まれる
「サーモカルスト」の湖は、一年中凍ったままだった永久凍土が溶けた時に現れる。溶解が起きると、地中に入り込んだ膨大な氷も解け、それにより地面が数メートルも崩れ落ちてしまう。
アラスカ大学フェアバンクス校の生態学者、ケイティ・ウォルター・アンソニー(Katey Walter Anthony)は「数年前、この場所の地面は今よりも3メートルも高く、トウヒ(マツ科の針葉樹)の森だった」とアラスカの「ビッグ・トレイル湖」と呼ばれるサーモカルストについて話した。
ウォルター・アンソニーは、NASAとともにABoVEプロジェクトでビッグ・トレイル湖の気候変動への影響を調べている。
陥没した穴に水が入ると、バクテリアも侵入する。
「ビッグ・トレイル湖では、冷凍庫のドアを初めて開け、中の食品をすべて微生物に与えて分解させているようなものだ」とウォルター・アンソニーは語った。
「微生物は分解する時に、メタンガスを放出する」
アラスカのビッグ・トレイル湖で、カヤックに乗って調査を行うウォルター・アンソニー。
Sofie Bates / NASA
NASAのブログによると、北極には膨大な数の湖があるが、ほとんどは数千年前の古いもので、今はもうそのようなガスをあまり放出しないという。
大量のガスを放出しているのは、ビッグ・トレイル湖のような50年以内に現れた新しい湖だけだ。
さらに、その量は少量には程遠い。以前Insiderで紹介したように、このような湖では大量のメタンが放出されているため、下の動画のように、氷に穴をあけると簡単に火がつく。
メタンは破壊的な温室効果ガスだ
二酸化炭素は依然として気候危機の長期的な主要因だが、メタンの漏出は短期的な気候変動を抑制するための重要な課題になっている。
メタンは温室効果ガスの一種で、地面から放射される熱を大気中に閉じ込め、地球を冷やさないようにする働きがある。メタンの熱を閉じ込める効果は二酸化炭素の約30倍だ。だがしかし、アメリカ海洋大気庁(NOAA)によると、二酸化炭素は大気中に長く残るが、メタンはそれよりも早く消散する。
「メタンの排出を減らすことは、短期的に気候変動の影響を軽減し、温暖化の進行を抑えるために我々が今すぐ使える重要な手段だ」とNOAAの管理者、リック・スピンラッド(Rick Spinrad)は以前語っていた。
また、メタンは、世界で年間約50万人の早期死亡を引き起こしている地上レベルでのオゾンの生成にも寄与しているという。
農業や燃料開発、埋め立てといった人間の活動は、大量のメタンの排出をもたらす。例えば、メタンのパイプラインからのガスの漏洩は、宇宙からも発見でき、簡単に対応できるため、問題視されている。
だが、NOAAによると湿地のような自然の発生源もメタンの排出の大きな要因になり得る。「これがどのくらい進行していくのかを理解することは重要だ。なぜなら、気温上昇が「人間がコントロールできる範囲を大きく超える」「悪循環を引き起こす」可能性があるからだ」とNOAAは今年4月に述べている。
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)