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バイデン大統領「台湾独立容認」ポロリ発言。それでも「なぜか」中国と台湾が静かな理由

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バイデン米大統領は最近、米CBSテレビのインタビュー番組で「ある本音」をこぼした。画像は同番組のスクリーンショット。

Screenshot of CBS News '60 Minutes'

バイデン米大統領は9月18日、テレビのインタビュー番組で「われわれは台湾独立を奨励しないが、彼らが決めること」と述べ、台湾独立を容認する「本音」をポロリと漏らした。

台湾海峡の「現状変更に反対」という同国のこれまでの政策に反する発言だけに、アメリカの台湾問題専門家は「中国の武力行使を招きかねない危険な発言」と批判している。

問題の発言は9月18日放送の米CBSテレビのインタビュー番組「60分(60 Minutes)」で飛び出した。

司会者が「バイデン政権の台湾関与政策について、習近平国家主席は何を知るべきだと思うか」と質問したのに対し、大統領は「米中が前から署名している文書と『一つの中国』政策に同意している。我々は台湾が独立するのを奨励していないが、(独立するかどうかは)彼らが自ら決めること」と明言した。

独立を含め、台湾の将来は2300万人の台湾人自身が決定するという「住民自決論」を支持したともとれる発言は、歴代米大統領で初めてだ。

住民自決論は、台湾の与党・民主進歩党(民進党)が党綱領の「台湾前途決議」(1999年)に明記されており、中国が台湾当局(蔡英文政権)を「独立勢力」とみなす根拠にもなっている。

アメリカ政府の公式な台湾政策は(1)どちらか一方による現状変更に反対(2)台湾独立を支持しない(3)海峡両岸の対立は平和的に解決するよう期待する、という3点で、今回のバイデン発言は(1)と(2)に触れる。

中国の大規模軍事演習など、台湾への軍事的威嚇(いかく)をアメリカが「力による現状変更」とみなすのも(1)が論拠だ。

台湾独立を容認する発言は、「現状変更に反対」としてきた自らの政策を否定するに等しい。

「戦略的混乱」の表れ

2021年来積み重ねられてきた米中首脳協議で、バイデン氏が約束した「四不一無意(4つのノー、1つの意図せず)」には「台湾独立を支持しない」ことが含まれており、今回の発言はそれにも抵触する。

約束の否定は、バイデン政権の対中政策の「戦略的混乱」の表れという批判を免れない。

発言について、アジア政策の「元締め」カート・キャンベル米インド太平洋調整官は9月19日、首都ワシントンで開かれたシンクタンク主催のフォーラムで「我々の台湾政策は一貫しており、変更はない」と述べた。

バイデン大統領の「不規則発言」が出るたびに「火消し」する、いつものパターンが繰り返された。

CBSテレビのインタビューでは、「米軍は台湾を防衛するのか?」との質問に、バイデン氏は「イエス、中国が前例のない攻撃をすれば」と答えた。司会者が「つまりウクライナとは異なり、中国が侵略した場合、米軍が台湾を防衛するということですね?」と畳みかけると、バイデンは再び「イエス」と答えている。

大統領就任以降、バイデン氏が(中国の武力行使について米側の対応を事前に明らかにしない)「あいまい戦略」を否定する発言をしたのは、今回を含め少なくとも4度目だ。

直近では5月23日、東京での日米首脳会談後の記者会見で、「台湾防衛のため、あなたは軍事的に関与するつもりか」と米記者に問われ、「イエス」と回答。さらに「関与する?」と念を押されると、「それが我々の約束だ」と述べ、中国が台湾を攻撃した場合の軍事的関与を明言した。

このときも「あいまい戦略」を逸脱するとして問題化したが、ホワイトハウスも国防総省も発言直後に「一つの中国」政策の変更ではないと否定している。

また、同発言は台湾への「軍事関与」を認めたものの、アメリカはウクライナ同様「代理戦争」にとどまり、米軍を投入しないのでは、との憶測も呼んだ。その影響もあってか、台湾では米軍投入への懐疑論が広がっている。

そうした経緯を踏まえて、今回は一歩進んで「米軍投入」を明言し、中国側を強くけん制しながら台湾側の懸念を払拭する意図がバイデン氏にはあったと、筆者は考えている。

CBSテレビによると、インタビューの収録日は9月15日。中央アジアのウズベキスタンで習・プーチン両氏の中ロ首脳会談が行われた当日で、中ロの「結束」に対抗する意図も働いていたかもしれない

「中国に戦争決断させる」と専門家

では、中国問題の専門家は、今回の「独立容認」発言をどう受け止めているのか。

米シンクタンク「ジャーマン・マーシャルファンド」のボニー・グレーザー氏は9月19日、「中国はアメリカが台湾独立を支持しているとみなしており、この発言は中国に戦争を決断させかねない」と厳しく批判した(VOAChinese、9月20日付)。

グレーザー氏はさらに、「バイデン発言は地域情勢の安定にとって無益。アメリカには明確で一致した台湾政策が必要だ」とも述べた。たび重なるバイデンの不規則発言を「戦略的混乱」とみる。

では、中国はどう反応したか。それは驚くほど静かだった。

国連総会出席のためニューヨーク入りした王毅外相は9月19日、キッシンジャー元米国務長官と会い、バイデン発言を「台湾の防衛支援に関する発言」と表現し、ペロシ米下院議長の訪台および米上院で審議中の「台湾政策法案」と並べ、「これらはすべて中米間の三つの共同コミュニケに挑戦し、中米関係の政治的基礎を破壊する」と批判した

中国が発言を「台湾の防衛支援に関する発言」と捉え、「台湾独立容認」を正面から問題にしないスタンスであることが分かる。

「不可解な」中国の反応

米中関係では過激なコメントで知られる中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は今回、「独立容認」発言にはコメントしていない(9月27日現在)。

また、9月19日に行われた中国外務省の定例会見で、毛寧副報道官は「国家分裂を目的としたいかなる活動も容認せず、一切の必要な選択肢を保持する」と批判したが、筆者が9月22日に外交部ウェブサイトを閲覧したところ、その部分は削除されていた。

これら中国の不可解な反応は何を意味するのか。筆者は3つの理由を挙げたい。

第1に、大統領という最高権力者の口から出たこと。これを問題視して深追いすれば、米中対立に拍車がかかり、出口がふさがれる恐れがある。これが国務長官発言であれば、徹底批判しただろう。

第2に、日米首脳会談後の記者会見と同じく、今回も発言はただちに否定されたため、結果的には「存在しなかった」ことになる。深追いできないのだ。

ただし、中国指導部は大統領の「本音」とみなし、今後は対米批判のたびに「台湾独立支持が米政府の本音」と非難するに違いない。

そして第3に、10月16日に開催予定の中国共産党第20回大会の開催まで1カ月を切り、内外環境の安定が必要な時期に当たることだ。

11月には初の対面による米中首脳会談が模索されており、いま発言を問題視すれば会談は飛んでしまう。おそらくこれが最大の理由だ。

バイデン発言は明らかに確信犯で、独立容認も本音だろう。「住民自決論」は、米民主党の伝統的な「リベラル・イデオロギー」だからである。

台湾は「痛しかゆし」

最後に台湾の反応にも触れておこう。

「現状維持」を建前にしてきた蔡英文政権にとって、独立容認発言は「痛しかゆし」だ。

日本経済新聞(電子版、9月22日付)は、呉釗燮・台湾外交部長(外相)と9月21日に行ったインタビューで、バイデン大統領の「独立容認」発言について質問した。

呉氏は「大統領の発言にはとても感謝している」と述べた上で、「台湾人は今後も未来を自ら自由に選択できる。その意味で(どこの国からの干渉も受けない)『現状維持』を最も望む」と答えたという。

台湾側の本音としては、米トップ発言は「のどから手が出るほど」欲しい援護射撃のはずだが、熱烈歓迎すれば「現状維持」路線と矛盾してしまう

それだけではない。

中国は「外部勢力(アメリカ)」と「台湾独立勢力」の結託を「主要矛盾」とみなしており、台湾側が「はしゃいだ対応」をすれば、「レッドライン(容認できない一線)」を越えたとして、武力行使に出る恐れすら否定できない。

バイデン氏の際どい発言に対する反応をみると、それが軍事衝突につながらぬよう対応する配慮が当事者間に働いていることが分かる。

同時に、挑発発言は予期せぬ発火点になりかねないことも当事者の反応から読みとれる。不測の事態とは、予期せぬ「軍事的衝突」だけを意味するわけではない。

(文・岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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