英語学習サービスのプログリットが本日29日、東証グロース市場に上場する。小規模かつダウンラウンドでの上場になったが、なぜこのタイミングだったのか。資本戦略と今後の計画を岡田祥吾CEO(31歳)に聞いた。
個人投資家に絞って資金調達
プログリットの岡田祥吾CEO。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社を経て、同社を起業した。
撮影:竹下郁子
同社のメインサービスは社名を冠した「プログリット」。通常の英語学習サービスと異なり、英会話などの「授業」ではなく、「自習」を提供するのが特徴だ。自習は毎日2〜3時間。専門のコンサルタントがカリキュラムを立て、毎日添削、1週間ごとにテストも実施する。費用は3カ月で59万9500円(税込)。ハイクラスのビジネスパーソンが主な顧客で、利用者は累計1万3000人だ。
IPO(新規株式公開)の想定時価総額は約28億円、市場吸収額は7億5000万円。公募価格は730円で、直近2021年10月の第三者割当増資時の株価1502円に比べて、いわゆるダウンラウンドでの上場になった。岡田氏は、
「当然悔しい気持ちはありますが、まずはこの株価での上場を受け入れてくださった既存株主の皆様に感謝しています」(岡田さん)
と話す。
これには同社の資本政策が大きく関連している。プログリットはこれまで約2億3000万円の資金調達をしており、故・瀧本哲史氏や本田圭佑氏、元USEN-NEXTホールディングス取締役副社長の島田亨氏、WEIN Groupの溝口勇児CEOなどが出資してきた。
「僕たちはいわゆるVCではなく、個人投資家に絞って資金調達をしてきました。なので、大きい時価総額で上場しなければというプレッシャーは一般的なスタートアップほどありません。
上場はあくまでスタート。長期的に株価を上げていくことが重要だと考えています」(岡田さん)
英会話ビジネス、コロナで分かれ道
提供:プログリット
岡田さんがプログリットを創業したのは2016年。
「もともと上場するまで資金調達しないというのが基本方針でした。創業1期目から黒字でいこうと。時々、赤字になったりもしましたが」(岡田さん)
宣言通り1期目、2017年8月期の売上高は1億円を突破。純利益は1700万円だった。その後サービスは順調に伸びていったが、コロナ禍で海外赴任や出張機会が減少し、成長も鈍化。
2021年8月期は売上高19億8000万円に対し、7600万円の純損失を出した。
「コロナ禍で他社のオンライン英会話サービスは伸びていましたが、うちは高単価なので入会には気合いが必要。ステイホームの中『60万円を投資して英語やるぞ』という機運ではなかったのではないかと分析しています」(岡田さん)
現在はコロナの収束と共に客足も戻ってきているそうだが、一方で、赤字の原因は他にもあったという。
「本質的には完全に経営の問題でした。予測できない事態が起きた時に利益を保てるようなビジネスモデルではなかったんです」(岡田さん)
「予約の取れない店」へ経営を転換
プログリット社内の壁。本田圭佑さんのメッセージも。
撮影:竹下郁子
プログリットの肝である英語学習の専属コンサルタントは全員正社員だ。業務委託や契約社員の講師が多い英語業界では異例だが、従業員に「安心して働いてもらうこと」、そして利用者に「高品質なサービスを提供すること」を目指し、創業時から一貫してこの方針を貫いてきた。
また週次の面談などを行う場として、全国9カ所に校舎を構えている。
コロナで会員数が伸びない中、重くのしかかったのが、こうした人件費や校舎などの固定費だった。
「以前は異常なほどアクセルを踏んでいました。どんどん人を採用して、稼働率80%ほどで走っていたんです。
コロナをきっかけに『急成長でなく堅実成長』を目指そうと方針を切り替えました。
今は利用者が増えるのを見てからコンサルタントを採用しています。僕たちは常に100%キャパマックスで、利用者に待っていただく。必然的に需要が多い状態を保つようにしました。予約の取れない店のようなイメージです」(岡田さん)
今プログリットに申し込むと、受講までおよそ1カ月半から2カ月かかるそうだ。こうした経営方針の転換もあってか、2022年8月期の業績予想は売上高22億3900万円、純利益1億8600万円を見込む。
上場後は法人契約とM&Aに注力
撮影:竹下郁子
岡田さんがIPOを決めたのは4年前。一般消費者向け(B to C)サービスは信頼を得ることが重要だという判断から、できるだけ早期での上場を目指してきた。
加えて、今後は法人契約にも注力したいという。これまでトヨタ、サントリー、野村不動産、SOMPOホールディングス、メルカリなど累計198社と法人契約を結んできたが、上場を機に法人営業チームを強化し、さらに加速させたいと意気込む。
またM&A(合併・買収)にも挑戦したいと話す。
「成長していく上でM&Aは必須だと考えています。M&Aするためには資金が必要ですが、未上場よりも上場したほうがさまざまな資金調達オプションができるので、その選択肢を持つためにも早く上場したいと考えていました」(岡田さん)
一体どんな企業のM&Aを考えているのか。1つは「英語学習サービス」で、プログリットのような高単価ではないサービスを提供している企業と一緒になり、顧客の裾野を広げていく狙いだ。
生活習慣まで「介入」する
学習管理を行うアプリ画面(イメージ)。「気を抜けない」3カ月だ。
提供:プログリット
もう1つは、英語以外の「何か」だ。
「世界で活躍出来る人を増やしたいと思って起業しました。英語はそのためのスキルの1つ。ビジネスパーソンのスキル向上のためのサービスは多岐に渡ります。プログリットで培った方法論を活かし、新たな領域でもサポートしていきたいなと」(岡田さん)
「びっくりするくらい介入するんですよ、僕ら」(岡田さん)という通り、プログリットはコンサルタントが会員の起床時間から生活習慣まで把握し、学習時間の捻出から学習法まで最適解を提案する。
利用者の学習データはリアルタイムでコンサルタントに共有されるため、計画通りの時間に学習を開始できなかった場合、すぐにコンサルタントからメッセージがくるという。
「プログリットをやると時間の使い方が大きく変わります。意外と無駄にしている時間があると自覚してもらうことから始めるので。
学習法もかなりデータが集まってきました。朝と夜どちらが効率的に学べるか、1時間勉強する場合に30分英会話をして30分シャドーイング(リスニングして復唱すること)するほうがいいのか、それとも1時間全て英会話など同じ内容をしたほうがいのかなどの答えを僕らは持っています。経験則ではなく、データドリブンな指導ができるのも強みです」(岡田さん)
コーチングの内容を増やしながら、事業を拡大させるという岡田さん。「リスキリング」の重要性が叫ばれる昨今、プログリットの新たな挑戦は始まったばかりだ。
(文・竹下郁子)