時価総額はメタ超え。「決済の王者」Visa、利益率65%を実現するビジネスモデルの秘密

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世界時価総額ランキング上位の常連といえば、アップルやマイクロソフトなど「GAFAM」と称されるテックジャイアントがすぐに思い浮かびます。

しかし先ごろ、そのGAFAMの一角を占めるメタを抜いて、ある業界の老舗企業が時価総額10位に浮上しました。クレジットカードでおなじみのVisa Inc.(以下、Visa)です。

図表1

(出所)「Largest Companies by Market Cap」2022年9月22日。

Visaの時価総額は2022年9月22日現在、約3915億ドル(約56兆円、1ドル=143円換算)です。これはJPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカといった伝統的な金融機関をもしのぐ規模です。

クレジットカード業界2位のマスターカードもバンク・オブ・アメリカを超えていますから(図表2)、金融インフラとしてはすでにクレジットカードが伝統的な銀行を凌駕していると言って差し支えないでしょう。

図表2

(出所)YCharts.comのデータ(2022年9月22日時点)をもとに編集部作成。

Visaの起源は1958年、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)がリボ払い可能な消費者向けクレジットカード「BankAmericard」を発行した時にまでさかのぼります(※1) 。

60年以上の歴史があれば立派な成熟企業です。成長が鈍化してもおかしくないところですが、実はVisaは2010年以降、時価総額を10倍以上増やしています(図表3)。

図表3

(出所)「Largest Companies by Market Cap」2022年9月23日。

なぜ老舗のVisaはこれほど成長できているのでしょうか?

そこで今回は「決済の王者」とも言うべきVisaの強さの秘密を、ファイナンスと会計の視点から分析していくことにしましょう。

決済の裏にクレジットカードあり

Visaの飛躍の秘密は、過去20年ほどの間に起きた私たちの生活の変化と大きく関係しています。

まず2000年代にインターネットが普及したことで、ネット上での決済のためにクレジットカードの利用が増えました。国内のクレジットカードの推移を見ても、過去20年間で3倍に増えていますし、直近10年だけでも2倍に増えています(図表4)。

2010年以降にスマートフォンが普及し、スマホ利用料の支払いにもクレジットカードが多く使われるようになったことも大きな要因でしょう。

図表4

(出所)経産省「特定サービス産業動態統計調査」をもとに編集部作成。

さらにここ数年では、クレジットカード以外のキャッシュレス決済も普及してきました(図表5)。

図表5

(出所)経済産業省「2021年のキャッシュレス決済比率を算出しました」(2022年6月1日)をもとに編集部作成。

キャッシュレス決済の多くは裏でクレジットカードに紐付いています。例えば交通系ICであるSuicaは、以前なら残高がなくなると券売機でチャージする必要がありましたが、今ではたいていスマホからクレジットカード経由でチャージ、もしくは交通系のクレジットカードでオートチャージが主流です。

最近普及しているPayPayやLINE Pay、楽天PayなどQRコード決済も、クレジットカードや銀行口座と紐付けることでチャージできます。クレジットカードでチャージすればポイントが付く分、銀行口座からのチャージよりも利用者に選ばれやすいはずです。

このように、過去20年間のうちに私たち個々人のレベルで電子決済の利用機会が増えたことで、クレジットカードを使う機会も必然的に増えてきました。

それだけではありません。2010年以降の世界のビジネスの発展はGAFAMをはじめテック企業の存在抜きに語れませんが、これらの企業の決済にはほぼ間違いなくクレジットカードが絡んでいます

アマゾンでのネットショッピングは言うに及ばずですが、アップルの新製品をウェブから注文するのも、ネットフリックスの有料会員になって映画を楽しむのもたいていクレジットカード決済です。勤め先の会社でFacebook広告を出稿するときも、ZoomやSlackといった法人向けのサブスクサービスを利用するときも、支払い手段の多くはクレジットカードです。

テック系企業の多くはコロナ禍を機に大きく成長しましたが、これらの企業が売上を伸ばすたびにクレジットカード会社も収益を得ているわけです。

このように拡大を続けるクレジットカード市場の中にあって、世界で最も決済額が多いブランドがVisaです(図表6)。

図表6

(出所)“Market share of global general purpose card brands American Express, Diners/Discover, JCB, Mastercard, UnionPay and Visa from 2014 to 2020, based on number of transactions,” Statistaをもとに編集部作成。

Visaの利益率は驚異の65%

ではここで、Visaの財務数値を確認しておきしょう。売上高と営業利益の推移は図表7のとおりです。

図表7

(出所)Visa form 10-kおよびStrainerより筆者作成。

営業利益率は60%を優に超えています。これは現在世界トップクラスの収益力を誇るGAFAMのどの会社よりも高い水準です。

ただし、クレジットカード会社ならどこでもこの水準の営業利益率というわけではありません。Visaの営業利益率を競合3社と比較したのが図表8です。Visaの営業利益率の高さは際立っており、それを追うようにマスターカードが続いていますね。そしてかなり水をあけられてアメリカン・エクスプレス(以下、AMEX)、JCBと続きます。

図表8

(出所)Visa、マスターカード、AMEXはform 10-k、JCBは決算公告より筆者作成。

しかし不思議に思いませんか?同じクレジットカード会社なのに、なぜ営業利益率にこれほどの差が出るのでしょうか?

理由は2つ考えられます。

強い会社がどんどん強くなるビジネス

1つめの理由は、「ネットワーク外部性」が働くからです。ネットワーク外部性とは、プロダクトやサービスの利用者が増えれば増えるほど利便性が高まり、それがさらなる利用者を呼び込む効果を生む現象を言います。

ネットワーク外部性の典型例がSNSです。日本では2010年前後からFacebookやTwitterが本格的に普及し始めると、それまで人気だったGREEやmixiは下火になっていきました。SNSのようなサービスでは、みんなが使っているものに乗っかったほうがユーザーにとっての利便性は高くなります。

クレジットカードもこれと同じです。クレジットカードの導入を検討しているお店にとっては、より利用者の多いクレジットカード会社を選んだほうがいい。その結果、市場シェアが大きいブランドほど店舗側の利用者も顧客側の利用者も増えやすくなるのです。

図表9は、クレジットカードの国際ブランド5社の決済総額比較です。Visaは8.9兆ドルと頭一つ抜けています。5社の決済総額合計を100とした場合のシェアは、Visaが59%、マスターカードが31%、残る3社はいずれも1ケタ以下にとどまります。

図表9

(出所)Visa annual reportより筆者作成。

トップシェアを誇るVisaにはそれだけネットワーク外部性が働くため、相対的に少ないコストでさらなる利用者を呼び込むことができ、結果的に他社より高い利益率に結びついていると考えられます。

実はビジネスモデルが違う

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