二度と見られない彗星に“神の眼”。英グリニッジ天文台の天文写真コンテスト2022【入賞作品】

People & Space部門の次点作品。天の川とともに特徴的な建築物が写っている。

People & Space部門の次点作品。天の川とともに特徴的な建築物が写っている。

撮影:© Mihail Minkov

夜空を見上げれば、そこにはいつも数え切れないほどの星々が輝いている。世界には、そんな夜空の美しさ、あるいはその先にある神秘的な宇宙の壮大さに魅了されている人々がいる。

イギリスのグリニッジ王立天文台では、毎年、天体写真コンテスト「Astronomy Photographer of the Year 2022」を開催し、夜空に想いを馳せる世界中の写真家たちが撮影した珠玉の一枚を募っている。

14回目となる2022年度のコンテストには、世界67カ国から3000点以上の応募があった。

最優秀作品に輝いたのは、オーストリアの写真家Gerald Rhemann氏が撮影した「レナード彗星」の写真だ。その他にも、チベットにそびえ立つ山に注ぎ込むような星々の軌跡や、美しい銀河の姿など、多様な写真が各部門の入選作品として表彰されている。

最優秀作品と各部門に入選した合計11枚の作品を見ていこう。


美しく揺らぐ「尾」を携えた、もう二度と見ることのできない神秘の彗星

レナード彗星

総合優勝兼、Planets, Comets & Asteroids部門の入選作品。Disconnection Event。レナード彗星の写真。

撮影: © Gerald Rhemann

最優秀作品に輝いたのは、オーストリアのGerald Rhemann氏が撮影したレナード彗星の写真だ。

レナード彗星は2021年1月に初めて発見された彗星で、今はもうすでに地球から遠く離れている。その軌道から、ハレー彗星のように周期的に地球の近くにやってくる彗星ではなく、もう二度と太陽系に近づくことのない彗星だとされている。

Gerald Rhemann氏は、この彗星が地球に最も近づいた2021年12月に写真を撮影。太陽から放たれる電気を帯びた粒子の影響を受けて、彗星独特の尾が乱された瞬間を捉えた。

審査員を務めたイギリスの地域団体the New Crescent SocietyのディレクターであるImad Ahmed氏は、

「天文学、神話、芸術が見事に融合した一枚です。この現象を捉えられたことは、科学者にとって大きな価値がある」

と評しています。

チベットにそびえ立つ山に突き刺さる星々の軌跡

チベット・ナムチャバルワ山に突き刺さるような星々の軌跡

Skyscapes部門に入選作品。Stabbing Into the Stars 。チベット・ナムチャバルワ山に突き刺さるような星々の軌跡。

撮影:© Zihui Hu

2021年12月、中国人のZihui Hu氏がチベットで撮影した写真は、手つかずの自然の美しさを端的に表現した1枚だ。写真のナムチャバルワ山は、その名がチベット語で「天に突き刺さる槍」を意味しており、まるで星々が輝く夜空に突き刺さるようにそびえ立っている。

この写真では、その名前とは正反対に、長時間にわたる撮影によって描かれた夜空の星々の軌跡が、まるで山々に突き刺さるかのように表現されている。

アポロ11号着陸の聖地とISS。人類の到達地点が結ばれた

月面

People & Space部門に入選作品。The International Space Station Transiting Tranquility Base。

撮影: © Andrew McCarthy

一見何を撮影したのか分からないこの写真だが、その詳細を知ると凄まじさがよく分かる。

この写真の大部分に写っているのは地球から見た「月面」の様子だ。さらに、写真右下には国際宇宙ステーション(ISS)の影が見えている。ISS越しに月面を捉えた写真ではあるのだが、驚異的なのは、その位置関係だ。

実は、ISSの背景にある月面の薄いグレーの領域は、かつてNASAのアポロ11号が着陸した「静かの海」と呼ばれる領域である。ISSとこの領域が重なった瞬間を捉えるには、厳密な位置から奇跡的なタイミングで撮影するほかない。

審査員のハンガリー天体写真家協会会長László Francsics氏は、この写真について、

「人間のシンボルであるISSの小さなシルエットは、鉱物に彩られた広大で詳細な月面の前に矮小化されています。それは、私たちがいかにもろい存在であるかを教えてくれる」

と評しています。

夜空と湖面に広がる、緑のカーテン

オーロラ

Aurorae部門の入選作品。In the Embrace of a Green Lady。アイスランド、エイストラホルン山にかかるオーロラ。

撮影:© Filip Hrebenda

オーロラの美しさは、もはや語るまでもない。しかし、スロバキアのFilip Hrebenda氏が撮影したこの写真の美しさはひとしおだ。

この写真は、アイスランド東部にあるエイストラホルン山にかかるオーロラを湖の対岸側から撮影したものだ。山を囲うように広がった緑色のオーロラの光が、湖の水面や、湖に浮かぶ氷にも写り込んでいる。氷の透明感も相まって、その幻想的な情景が際立っている。

星々の残骸が生み出した奇妙な銀河

銀河

Galaxies部門の入選作品、Majestic Sombrero Galaxy。

撮影:© Utkarsh Mishra, Michael Petrasko, Muir Evenden

この写真は、ソンブレロ銀河と呼ばれる銀河の写真だ。

この銀河は、かつて銀河に衝突した星々の残骸が、円盤状にその銀河を包み込むことで、その独特の姿を形成している。この写真では、その特徴的な様子を、1枚の写真を3種類の手法で加工し、再合成することでよりはっきりと表している。

月面に伸びる巨大な影

月面

Our Moon部門、入選作品。Shadow Profile of Plato's East Rim 。巨大な月のクレーターの縁に寄って描かれた影。

撮影:© Martin Lewis

この写真は、月面にある巨大なクレーター「プラトン」を撮影したものだ。

このクレーターに太陽の日差しが差し込んだとき、クレーターの縁から巨大な影が伸びることがある。イギリスのMartin Lewis氏は、2021年4月20日の夜、空高く昇った月のクレーターの内側に深い影を落とした様子を撮影することに成功した。

プラトンの直径は約100キロメートルにも及ぶ。そのクレーターの内側に広がる影の様子から、月面の地形のスケールの大きさを感じることができる。

捉え続けた太陽の姿

太陽

Our Sun部門の入選作品。A Year in the Sun 。太陽の1年。

© Soumyadeep Mukherjee

この太陽の写真は、インドのMukherjee氏が2020年12月25日から2021年12月31日までの間、365日間分撮影した太陽の写真を1枚の写真として合成したものだ。この間、Mukherjee氏はたった6日しか撮影を休むことはなかった。

毎日のように太陽を撮影できた強運のおかげとはいえ、太陽の「黒点」の動きをユニークに表現した魅力的な写真として評価された。

地球を見つめる「神の眼」

惑星状星雲

Stars & Nebulae部門の入選作品。The Eye of God 。宇宙に浮かぶ「神の目」。

撮影:© Weitang Liang

「神の眼」とも呼ばれることもあるこの天体は、みずがめ座の方角にある非常に有名な「惑星状星雲」と呼ばれる天体だ。地球からの距離は約700光年(1光年は光が1年かけて進む距離)であり、横幅も約2.5光年と巨大だ。

惑星状星雲は、中心部にある天体から放出されたガスなどが、その天体の光(紫外線など)に照らされて輝いたもの。

この写真では、中心部にある惑星状星雲コアとその周囲に広がったガスの様子がはっきりと映し出されており、まるで宇宙に浮かぶ巨大な「眼」のように見える。

天の川銀河の隣人、アンドロメダ銀河

アンドロメダ銀河

Young Astronomy Photographer of the Year部門の入選作品。Andromeda Galaxy, The Neighbour。天の川銀河の隣人、アンドロメダ銀河。

撮影:© Yang Hanwen, Zhou Zezhen,Chuxiong, Yunnan Province, China, 21 February 2021

若手部門の最優秀賞に輝いたのは、中国のYang Hanwen氏とZhou Zezhen氏が撮影したアンドロメダ銀河の写真だ。撮影者の2人は、まだ14歳だという。

アンドロメダ銀河は、地球から約250万光年先という他の銀河に比べて非常に近い距離に位置している巨大な銀河だ。また、双眼鏡などを使えば、人間の眼でも見ることが可能な最も遠くにある天体としても知られている。

年輪のように描かれた太陽の姿

太陽

The Annie Maunder Prize for Digital Innovation部門の入選作品。Solar Tree

画像:© Pauline Woolley, using open source data from Solar Dynamic Observatory

この画像は、25枚の太陽の写真を少しずつ拡大しながら、まるで年輪のように重ねて作られた。最も古いデータは画像中央に一番小さく配置されている。元になっているのは、NASAの太陽観測衛星(SDO)が2020年1月1日から2022年2月1日までの間に観測したデータだ。

黒い靄のように見えているのは「太陽フレア」であり、その様子からそれぞれの時期の太陽の活動レベルを視覚的に見ることができる。

審査員からは、年輪のような表現を使った珍しい構図であり、これまでにない表現としての美しさもある画像だと評価された。

真冬の最高峰にかかる、天の川銀河

天の川銀河

The Sir Patrick Moore Prize for Best Newcomer 部門の入選作品。The Milky Way bridge across big snowy mountains

撮影:© Lun Deng

中国の写真家、Lun Deng氏が中国四川省の最高峰・ミニヤコンカ山にかかる天の川銀河を撮影した写真だ。

審査員のImad Ahmed氏は、ゴツゴツとした山頂と天の川のコントラストの美しさを評価した。また、この写真が2021年2月の早朝に撮影されたものであることから、「凍てつくような雪の中でこの写真を撮影した、撮影者の献身的な努力も賞賛したい」としている。

なお、これらの作品は、9月17日からイギリス国立海洋博物館で開催される写真展で展示されている。

(文・三ツ村崇志)

編集部より:冒頭に画像を挿入しました。2022年9月28日 21:20

編集部より:記事末に展示に関する情報を追記しました。2022年9月29日 13:38

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