「コロナ鎖国」の影響で羽田国際線ターミナルは年末年始の書き入れ時も閑散としていた。
撮影:渡邊裕子
※本記事は9月30日の記事の再掲です。
9月22日、国連総会のためにニューヨークに来ていた岸田首相がニューヨーク証券取引所で講演し、「10月11日から米国並みの水準まで水際対策を緩和する。入国者の上限を撤廃し、ビザなし渡航、個人旅行を再開する」と表明した。
これに先立つ9月11日、木原誠二官房副長官はフジテレビの報道番組に出演し、「円安状況だから、インバウンド(訪日外国人)は最も効く。世界が交流を再開しているわけで、我々も後れを取ってはいけない」と述べたという。
9月現在、G7のうち新型コロナ対策で入国者数を制限(現在の上限は1日あたり5万人)しているのは、日本だけだ。この「開国宣言」は、まさに「やっと」という感じがする。このこと自体は喜ぶべきニュースだ。
だがこのニュースを読んで浮かんだのは、パンデミックの間にもう何度使ったか分からない「周回遅れ」という言葉だった。
開国の理由は「円安だから」でいいのか?
まず、円安は今始まったわけではない。今年1月には1ドル110円台だった円が、その後ずっと落ち続け、9月の今、140円台中盤になっている。「円安なので、インバウンドで稼ぐべき」などということは、国民の誰もが過去8カ月感じていたことだ。それを今さら「円安メリットを生かして今稼ぐ力を強化しよう」と言われても、「今までどこにいたんですか?」と言いたくなる。
(出所)Yahoo!ファイナンスの情報をもとに編集部作成。
次に、日本のコロナ鎖国を解除する理由は、「円安だから」でいいのか?という疑問だ。これまでの厳しい水際対策は、国民の健康・安全を守るためにやっていたことではなかったのか。水際対策緩和に踏み切るに際しては、「コロナ感染状況から見て、もはや厳しい水際対策には意味がないと判断した。よって入国規制を緩和する」というのが、あるべき論理であり、順序であるはずだろう。
ここへ来ていきなり「円安だから開国します」というのは、話をすり替えられたようで唐突だし、ではこれまでの入国規制はいったい何のためだったのかという疑問を感じさせるものがある。
三つ目に、官房副長官は出演した番組で「秋冬に日本の魅力があるので、しっかりやるべきだ」という趣旨の発言をしたという。インバウンド狙いを開国の理由にするのならそれでもいいが、であれば秋冬より、桜の時期、そして夏休みシーズンのほうがはるかにインパクト大だったのではないだろうか。秋冬にも日本の魅力はあるだろうが、それは春夏の稼ぎ時に外国人観光客を思うようにつかめなかったがゆえの、後付けの言い訳のように聞こえる。
アクセルとブレーキを同時に踏むちぐはぐぶり
日本がやっと「鎖国」を解除する今、この半年の間に他国がやってきたことと改めて照らし合わせてみると、「なぜこんなにも日本は動きが鈍かったのだろう」という疑問を感じざるを得ない。
これは私が日本人だから自国に対して特に批判的だということではないと思う。アメリカや欧州の友人たちからも、今年に入ってからずっと日本の水際対策の厳しさについて尋ねられていた。彼らから見ても、日本の方針はことのほか厳しく、変化が遅いものと映るようだった。
下記は簡単なタイムラインだが、これを見ると分かるように、欧州やアメリカはじめ西側先進国は、今年の2月から6月の間に軒並み入国規制や国内での行動規制を解除してきた。しかもそれらの多くが、わりと大胆に舵を切っている。日本が3000人、1万人といった単位で入国者上限を微調整してきたのとは対照的だ。
(出所)各国の情報をもとに筆者作成。
これまでの一連の流れを見ていて私が一番問題だと思うのは、5月5日のロンドンでの岸田首相の約束が実現できなかったことだ。
岸田首相は5月5日にロンドンで講演した際、入国制限をめぐり「6月には他のG7諸国並みに円滑な入国が可能となるよう水際対策をさらに緩和する」と大勢の前で述べ、その言葉は世界中で報じられた。
しかし蓋を開けてみると、6月に日本政府がやったのは、1日あたりの入国者数上限を1万人から2万人に引き上げたことと、観光目的の入国も認めたことだけだ。しかも、それには「すべての国を対象に観光ビザの取得を求める」という但し書きがついていた。
この時、個人旅行は認めず団体ツアーのみで、添乗員の同行を条件にしたのも謎な方針だった。感染拡大防止という観点から見て、なぜ個人旅行はダメで団体ならいいのか。なぜ大人の旅行に添乗員が同行しなくてはならないのか(旅行代理店を通じて外国人の動きを把握し、コントロールしたいということなのだろうと想像する)。
そもそも今どきパッケージツアーや、添乗員が同行する団体旅行に参加する人たちはどのくらいいるのだろう? こんなパターナリスティックな条件をつけた国は他にあるのだろうか?(私は聞いたことがない)。
後述するが、6月に発表された水際緩和策がこのように中途半端かつ観光客に負担の大きいものであったことが影響してか、夏の訪日外国人旅行客の数は、期待外れに低かった。
このようにどっちつかずの緩和では、とても「他のG7諸国並みに円滑な入国」を可能にしたとは言えない。G7のどこも入国者上限を設けていないというのに、日本だけが9月の今もそれを続けている。観光ビザ取得を全世界に要求するという条件も、10月11日の解除までは存続のままだし(なぜ発表の翌日にでも廃止できないのだろう?)、3本目のワクチン接種証明も要求し続けている。
岸田首相はロンドンで講演した際、「日本経済は力強く成長を続ける。安心して日本に投資してほしい。インベスト・イン・キシダ」「最高のおもてなしをする」とも述べている。しかし「日本に来てください!」と手招きしながら、もう片方の手で門を狭め続ける姿勢は、外からは、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるように映る。
ブロードウェイは連日満席
9月27日、ニューヨークのタイムズスクエアで行われた毎年恒例のメトロポリタン歌劇場オープニングナイトの様子。マスク姿はほとんど見かけなくなり、街にはコロナ前の活気が戻ってきた。
撮影:渡邊裕子
世界を見回すと、今年に入ってから観光業は復活を見せている。これは今年前半、アメリカで国内旅行をしていても実感することだった。過去2年間家から出られず、人に会えなかった反動もあってか、とにかく人が激しく移動し始めたという感じがあった。国内便の飛行機はいつ乗ってもいっぱいだし、乗り換えで使った空港のレストランやバーも軒並み長蛇の列だった。
ニューヨークで道を歩いていても、国内旅行者に加え、話している言語から、欧州からの観光客が増えているなと感じることがどんどん増えてきた。インフレでホテルの値段はいつもにも増してすさまじくなっているのだが、それでもかまわず来ているのだなと感心する。ブロードウェイの劇場も、行くたびに満席だ。
国連世界観光機関(UNWTO)が今年8月に出したレポートによれば、今年の1月から5月までの間に、世界で約2億5000万人の人々が旅行したということだった。これは、パンデミック前の2019年の数字の約半分(46%)にあたる数字だ。2021年の同期間の数字は7700万人だったので、1年で約3倍に伸びたということだ。
なかでも、欧州(2021年の4倍以上の観光客を記録した)が強い回復を見せており、特に4月のイースター休暇のあたりに多くが旅行した。欧州内での旅行者も多い。アメリカも順調で、2021年に比べると倍以上の観光客が訪れた。
中東、アフリカでも、順調な回復が見られ、2019年の数字の約50%まで戻っている。アジア・太平洋地域も、全体で見ると2021年のほぼ倍の観光客が訪れている。ただし、他地域に比べるとアジアはリバウンドの仕方が弱く、パンデミック前2019年の数字に比較するといまだ90%のダウンとなっている。
(出所)UNWTO, “INTERNATIONAL TOURISM CONSOLIDATES STRONG RECOVERY AMIDST GROWING CHALLENGES," August 1, 2022.
インバウンド停止の経済損失は11兆円との試算も
一方の日本はどうだろう。日本政府観光局(JNTO)によると、今年に入ってからの訪日観光客の推移はこんな感じだ。
- 2022年3月:訪日外国人数は2020年4月以降で最多の6.6万人。ただし2019年と比較すると97.6%減
- 2022年6月:2019年6月(288万41人)に比べて95.8%減
- 2022年7月:訪日外国人客数は14万4500人。2019年7月(299万1189人)と比べて95.2%減
- 2022年8月:訪日外国人旅行者数(推計値)は16万9800人。コロナ禍前比93.3%減。7月(14万4500人)からわずか2万5300人の増加。
4月以降8月までの間、5カ月連続で10万人超の推移が続いてはいるものの、各月の伸びは限定的なものにとどまっている(なお、コロナ前2019年の訪日観光客は年間3188万人なので、毎月200万~300万人の観光客が到着していたことになる。下のグラフ参照)。
6月に観光客の受け入れを2年ぶりに再開した時、観光地などでは訪日客が戻ってくることに期待があったと思う。ただ、添乗員付きの団体ツアーに限るという日本ならではの条件や、ビザ取得、搭乗72時間前以内に受けたPCRの陰性証明が必要ということから、欧州やアメリカ、東南アジア諸国と比べても、日本は選ばれにくくなってしまっていたということだろう。
岸田首相も木原官房副長官も、目下の円安の中、インバウンド拡大が経済活性化に最も効くとの認識を示しており、実際9月22日の発表を受け航空券の予約が増えているという報道も出てきているが、「円安の今、日本が開国すれば日本でお金を使いたい人はたくさんおり、インバウンド観光客は戻ってくる」というのは、自明のことなのだろうか。
9月上旬に、成田空港で営業していた飲食店などのテナントのうち、全体の2割近くにあたる80店舗あまりが撤退したというニュースが流れた。残る380店舗余りについても9月3日の時点で、およそ4割が休業したままであり、成田空港の国際線の利用客は、現在もコロナ前の3割未満まで減少しているという。
これは、この2年半のあいだに何度も成田や羽田を使ってきた私自身の感覚からも納得いくものだ(最近も5月と8月に続けて日本に行った)。羽田の国際線ターミナルの免税店(特にブランド店舗)は今も多くが閉まっているし、レストランも数えるくらいしか開いていない。国内線のターミナルの活気とは対照的だ。
成田もいまだに寂しい。8月に成田を使った際、夜10時発の便だったので空港で食事をしようと思っていたのだが、8時以降やっているレストランはないということだった。
2022年5月の成田空港内。平日昼間でこの寂しさだ。
撮影:渡邊裕子
インバウンド停止による経済損失を金額に直したらどのくらいのものなのだろう?という疑問をずっと感じていたが、先日、2021年に発表された関西大学の宮本勝浩名誉教授の分析を目にした。宮本教授によると、2020年の1年間において失われた訪日外国人の経済効果について計算した結果、日本全体で約10兆9557億円ということであった。
また、「円安なら観光消費が増えるだろう」という考え方に対し、インバウンドアナリストの宮本大氏は疑問を唱えている。宮本氏の分析によると、ドル円相場と観光消費の間の相関関係は限定的であり、円安が効果を発揮するのは買い物だけだという。
そしてこの「円安が観光消費を刺激するはず」という印象は、2013年(当時ドル・円が100円から120円になった)、ビザ発給が緩和され、中国人が大挙して日本を訪れ「爆買い」したときのことがあるからではないかと指摘する。
2019年の3188万人の訪日観光客のうち28%を占める約900万人が中国人であったことを考えると、それ以外の国々からの観光客がその穴を埋めるというのは現実的ではないだろうと宮本氏は見ている。
また今年に入ってから、パンデミックの反動で、アメリカや欧州では対面でのビジネス・イベント(見本市や国際会議など)が急増しているのだが、日本ではそういった会議が開催できる状況にはない。東京や京都が候補地に挙がっても、「どうせ日本には行けないから」と早々にリストから排除されてしまうのを目の当たりにしてきた。
私自身がその影響を受けたこともあった。私がアドバイザーを務めている企業では、エグゼクティブや政府関係者を集めた150人規模の会議を毎年違う場所で開催している。2022年は京都という可能性があったため、リストを準備し計画はそれなりに進んでいたのだが、今年の春先に「日本はとうてい行けそうにない」との判断が出て、開催候補地から外されてしまった。結局、その会議は欧州での開催が決まった。
一つ会議をやるだけで、何十人、何百人という人が日本に行き、航空券、ホテル、食事、買い物などにお金を使う。今年に入ってからの9カ月だけをとっても、日本がどれだけの機会を失ってきたか、ちょっと想像がつかない。
この非効率なシステムに外国人はきっと耐えられない
ただ、仮に今の日本に外国人たちが大挙して押しかけた場合でも、私自身がパンデミック下で日米を何度も往復してみた経験に基づいて感じるのは、本当に良い体験を提供できるだろうか?という不安だ。
日本の入国規制には、前述のとおり、他の先進国と比べて数々のユニークな点がある。例えば、「3回目のワクチン接種証明が提示できる人たちに限って、陰性証明の提示を免除する」という方針だ。
Our World in Dataによると、世界でこれまでに打たれた追加接種の回数は、100人あたり31.7回ということだ。単純に考えて、世界人口の約7割は2本しかワクチンを打っていないということになる。これら7割の人たちが日本に来る場合、現在の方針では、搭乗72時間以内の陰性証明が必要ということになる。これをいまだに求めている国は、特に先進国では珍しいので、行く側からすると非常に面倒に感じるはずだ。
(出所)Our World in Data, "COVID-19 vaccine boosters administered per 100 people," Sep 25, 2022.をもとに編集部作成。
また、日本の現在の方針では、追加接種を「いつ打ったか」は問われない。これもよく考えると奇妙な話だ。例えば私の場合、3回目のワクチンは昨年11月に打ったので、とっくに効果は切れているはずだ。でも、打っているのでPCRは免除になる。ちなみに、4本目は今年4月に打っているのだが、日本入国に際して4本目を打ったかどうかは聞かれもしないし、打ったからといって優遇されるわけでもない。
その一方で、例えばつい1カ月前に2本目のワクチンを打った人の場合、追加接種をしていないわけなので、PCR免除にはならない。1カ月前にワクチンを打ったなら、その抗体は有効なはずだが、それについては考慮されない。このあたりは合理的とは言えないと思う。
過去1年で、日本の空港での入国・検疫システムはかなり改善した。日本に着陸後、書類を持って空港内の「関所」を10カ所近く回らされることもなくなったし(通称「スタンプラリー」)、行き先を教えてもらえないままバスに乗せられ(通称「ミステリーツアー」)隔離施設に入れられることもなくなった。
以前はすべての書類が紙ベースだったが、今はMySOSというアプリを携帯電話にダウンロードし、それに陰性証明やワクチン証明をアップし、無事審査を通過すると画面が青くなり、そのQRコードを見せれば搭乗できるというシステムになっている。
と、確かに改善はしているのだが、それでも、これを外国人相手にやって大丈夫かな?と思うこともある。というのも、日本の空港に着いた後、そのMySOSのQRコードを見せるためだけにいまだに延々と歩かされるからだ。
この青い紙をもらうために空港内を延々歩かなければならない。お年寄りや子ども連れには過酷なはずだ。
撮影:渡邊裕子
空港内を歩き、列になって待たされ、大きな部屋に入ると、たくさんの机にたくさんのスタッフが座っている。順番に呼ばれ、自分の担当者の机にくっついているスキャナーにQRコードをかざすと、スタッフが青い紙(そう、また紙に戻るのだ)をくれ、それを持って入国審査にお進みくださいと言われ、今来たばかりの道を引き返す。この青い紙をもらうためだけにこの部屋に送られたということだ。
こんなに多くの人が一つの場所に集まっていたら(到着客もバイトの人たちも)、余計に感染リスクが高まるのでは? QRコードだったものをなぜ紙に戻すのか? 自動化(無人)ゲートをいっぱい作ってQRコードをスキャンするシステムにしたほうが安全では?など疑問が次々に浮かぶ。
この入国の儀式を、日本人以外にも強制するつもりなのだろうか。空港は、国の玄関であり、その国に着いた人が一番初めに体験するスペースだ。そこでの印象のインパクトは大きい。
飛行機から降りた人は、誰もが疲れているし、一刻も早くゆっくりしたいと思っている。日本人はこのような場合、どんな理不尽なやり方でも黙って受け入れる人が多いと思うが、これを外国人観光客に体験させた場合、理解されないだろうし、「なぜこんな非効率なシステムになっているのか」とキレる人たちも出てくると思う。
いまだにコロナ全盛期のころのような防護服を着て、フェイスガードをした職員たちがいるのも、海外から来た人たちには異様に映るはずだ。このあたりは、10月11日の本格開国の前に、どうにかしたほうがいいのではないだろうか。
日本のレストランでは、いまだに入口で「検温、消毒にご協力ください」というお願いが広く行われているが、これも今は欧米ではされていない。検温については、「熱があれば即ちコロナ陽性」というわけではないし、熱がなく、まったくの無症状で陽性の場合もある以上、あまり意義がないのではないかと思う。消毒については、接触感染を恐れていた頃は、アメリカでも消毒が広まっていたが、CDCが接触感染の可能性は1万分の1未満と発表して以来、気にしなくなった。
外国人観光客にマスク着用を強制するのか?という問題もある。感染が深刻だった去年、一昨年ならまだしも、WHOも「終わりが視野に入ってきた」と言い、多くの国においてマスク着用義務が撤廃されている今、炎天下の屋外でも100%の人がマスクを着用する日本の感覚は、外国人(特にアジア人以外の外国人)には理解が難しい。
マスクにせよ、アクリル板にせよ、消毒や検温にせよ、科学的理由があってやっているというよりは、「雰囲気」でやっている(やめられない)という部分が少なからずあるのではないだろうか。海外に行った時には、日本人の政治家も(屋内でも)マスクをしていないし、エリザベス女王の葬儀でもそうだった。
「コロナ鎖国がおもてなしのイメージ傷つけた」
外国からの観光客で賑わっていた頃の光景は果たして戻ってくるのだろうか(2019年7月に渋谷で撮影)。
MAHATHIR MOHD YASIN / Shutterstock.com
もう一つ、私がハードルだと思うことがある。この2年半の間に、アメリカや欧州の人たちにとって、日本に行くことへの精神的距離感が広がってしまったということだ。例えばビジネスの出張一つとっても、多くのことはオンラインの会議でできてしまうということが分かったし、その方が肉体的に楽だということを知ってしまった。
アメリカや欧州から日本に行くためには、長いフライトに乗り、着いてから激しい時差に苦しみ、出張中は家族や同僚と時差を超えて変な時間にコミュニケーションしなくてはいけない。出張から家に戻った後も、しばらくは使い物にならないくらい疲れる。そこまでして文字通りの「極東」に行くのは、よほどの理由がない限り、面倒くさい……と思うようになってしまった人たちは、私の身の回りだけ見ても、決して少なくないと感じる。
それに加え、日本がとってきた鎖国政策は英語圏でもさんざん報道されていたので、排他的な国、何かあったら外国人に門戸を閉ざす国という印象が強まってしまった。これは、次に危機が起きたときにまた同じことをするのではという不信感にもつながる。
9月16日のワシントン・ポストが、この点についてハッキリと指摘していた。大意としては以下のとおりだ。
長きにわたる日本の閉鎖は、海外の投資家、研究者、観光客たちの訪問先としての日本の評判に、のちのちまで残る傷をつけてしまった。日本は外国人の訪問を厳しく制限してきたが、これは科学的に疑わしいアプローチであり、日本を、他の主要経済国やアジア太平洋の近隣諸国と比較すると特殊な国にしてしまった。
政策関係者たちやメディアは、ウイルスの拡散を外国人と結び付け、排外主義が悪化した。投資家、研究者、留学生たちは、プランを変更し、別の国々に向かった。最近日本は団体旅行を受け付けるようになったが、あまりにも厳しい監視と官僚主義というハードルのため、旅行客たちを遠ざけることになってしまった。
日本は今、再び国際社会に加わろうとしているわけだが、「credibility gap(信頼性の欠如、不信感)」に直面している。ビジネス界、学界、政策や外交関係の人々は、コロナ鎖国が「おもてなしを大事にする文化」という日本のイメージを傷つけてしまったということに懸念を抱いている。彼らは、日本は、その立ち位置を取り戻すために具体的な方策をとる必要があると言う。
日本でのリサーチができないために、助成金を失った研究者たち、日本研究プログラムから脱落してしまった学生たちもいる。おかげで、いくつかの学校では、日本研究学部が閉鎖になる可能性まである。意識調査に参加したある名門大学の教授は、日本だけを専門的に研究することは学生に勧めていないと述べていた。
今日本の政府や観光関連業界の人々が期待しているように、「この2年半、ずっと日本に行きたかった!」と言って多くの外国人たちが日本を訪れ、円安に乗ってたくさんのお金を使ってくれることを私も願っている。
ただ、この2年半あまりの日本のあり方によって失われたソフトパワーが大きいこと、それを取り返したければこの先それなりの努力が必要であることは、自覚しておいた方がいいだろう。
(文・渡邊裕子)
渡邊裕子:ニューヨーク在住。ハーバード大学ケネディ・スクール大学院修了。ニューヨークのジャパン・ソサエティーで各種シンポジウム、人物交流などを企画運営。地政学リスク分析の米コンサルティング会社ユーラシア・グループで日本担当ディレクターを務める。2017年7月退社、11月までアドバイザー。約1年間の自主休業(サバティカル)を経て、2019年、中東北アフリカ諸国の政治情勢がビジネスに与える影響の分析を専門とするコンサルティング会社、HSWジャパンを設立。複数の企業の日本戦略アドバイザー、執筆活動も行う。株式会社サイボウズ社外取締役。Twitterは YukoWatanabe @ywny