撮影:今村拓馬
今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
年功序列が根強く残る大企業に勤務する20代の女性が、同じ職場の「働かないおじさん」の存在に業を煮やしているようです。
Aさん
私が勤める会社はいわゆる伝統的な大企業です。最近では「成果が大事」とも言っていますが、いまだに年功序列です。
今の職場で不満なのが、働かないおじさん社員の存在です。うちの会社も余裕はないので新しいことにもチャレンジしていかなければいけないと思うのですが、そういう提案を私のような世代がしても、「まずは今やっている仕事で一人前になれ」とか「社内に詳しい人がいないから無理だろう」とか、何かにつけて反対してきて、本人は何の提案もせずきっちり定刻で上がっていきます。
この会社にこの先もいたら、私もいずれあんな風になってしまうのかなと思うと焦ります。やっぱり転職したほうがいいでしょうか。こういう時代だから安定した企業のほうがいいかなと思って入社しましたが、かなりモチベーションが下がっています。
(Aさん/20代後半/女性/メーカー)
DX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめ、時代の大きな転換期が訪れています。
そうした環境下で、Aさんが言うところの「働かないおじさん」——中高年齢層がなかなか変化に対応できず、若手層がフラストレーションを抱える構図があちらこちらで見られます。
多くの企業が危機感を抱いてはいますが、事業変革・組織変革をどれほど本気で推進しようとしているかは、企業によって温度差があるようですね。
Aさんの会社がこの課題に向き合わず、若い人たちにチャンスを与えようとしないなら、早々に見切りをつけて転職するという選択もあるでしょう。
20代後半は、転職市場でニーズが高く、異業種・異職種に転向するチャンスも豊富な年代。大きく成長できるチャンスの時期を、停滞した環境で過ごすのはもったいないと思います。
とはいえ、やはり転職にはリスクもつきものです。今の会社にいてこそ得られる経験・スキル、リソースに恵まれた環境、人間関係など、安易に捨てないほうがいい部分もあると思います。
転職に踏み切る前に、現状の改善を図ってみてはいかがでしょうか。
いくつかの方法をご紹介します。
「変革」に意欲的な部署・プロジェクトを探してみる
まずは、自分の部署内に閉じこもらず、社内を広く見渡してみてください。変革への意識が高い管理職、若手の成長促進を重視する管理職がいる部署がどこかにあると思います。
方針や取り組みに共感できる部署を見つけたら、異動願いを出してみてはいかがでしょうか。
大手企業であれば、「戦略子会社」のほうが新たなチャレンジをする風土があるケースも多いので、出向・転籍などの道もあるかと思います。
「異動まではできない・したくない」ということであれば、組織横断型のプロジェクトが動いていないか、これから立ち上げる計画がないか、調べてみましょう。
変革への取り組みは、社内の各部署からメンバーを集めてプロジェクトが発足することがあります。そうした情報にアンテナを張っておき、情報をキャッチしたら手を挙げて参加してみてください。
こうしたプロジェクトで経験を積んだり、評価を受けたりすることで、Aさんが望んでいるやりがいや成長を得られるかもしれません。
経営ボードとのつながりを作る
私がお勧めしたいのは、役員や事業部門長といった経営ボードとつながりを作り、仲良くなることです。
そうすれば、社内にあるチャンスをいち早くキャッチし、異動やプロジェクト参加といったチャレンジを後押ししてもらえる可能性があります。
私自身、会社に勤務していた若手時代は、さまざまな方法で経営ボードにアプローチしました。それにより、さまざまな情報を得たり応援してもらったりして、自分が望む方向へキャリアを展開することができたと思います。
経営ボードとつながる方法をいくつかご紹介しましょう。
ランチに誘う
「ランチになんて誘っていいのか」と驚くかもしれませんが、実は経営ボードは現場のメンバーと対話する機会を歓迎します。
立場上、自分からは特定のメンバーに声をかけづらいのですが、「現場の声を聞きたい」というニーズを持っているものです。
ですから、自分から「お話ししたいので、ランチをご一緒させてください」と申し出てみてはいかがでしょうか。ランチをとらない人はいませんので、応じてもらえる可能性があります。
経営企画・事業企画・人事など、経営に近い部門に所属している同期などに頼んで紹介してもらい、その同期メンバーを交えて会食の場を設ける手もあります。
対話の機会を得たら、現場の状況や課題を伝えるとともに、個人的な悩みやキャリアビジョンなどについても相談してみるといいでしょう。
「今こんな悩みを抱えています。社内で解決を図るとしたらどんな手段がありますか」「こんなキャリアを歩んでいきたいのですが、どうすれば実現に近づけるでしょうか」といったようにです。
「だったら、この部署でこんな経験を積むといい」など、アドバイスを得られるかもしれませんし、その人の取り組みに参加する機会を得られる可能性もあります。
社内のサークル活動や勉強会に参加する
大手企業であれば、サークル活動やクラブ活動などもあるのではないでしょうか。
そこには、さまざまな部署・さまざまポジションの人が参加していて、フラットな人間関係が築かれていたりします。
あるいは、さまざまな部門・職種の人が集まっている勉強会などもあるかもしれません。
そうした場に参加してもいいでしょう。
なお、大手企業では「ゴルフコンペ」も開催されていると思います。1日参加するだけでも、役員クラスとの距離を縮められる絶好の機会です。
「メンター制度」があれば利用する
会社に「メンター制度」などがあれば、積極的に活用しましょう。
私も会社員時代、希望する相手に面談を申し込める制度を利用し、「全役員」へ面談希望を出していました。人事は希望通りセッティングしてくれて、日替わりでさまざまな役員とランチ面談を行っていたことがありました。
このような制度があれば、ぜひ活用してみてください。
社内で「仲間」を集めてトップへアプローチ
Aさんが「会社のここを変えたい」「会社としてこんな取り組みをするべきだ」といった考えを持っているなら、それを社内に向けて発信し、仲間を募ってみてはいかがでしょうか。
今は社内SNSなどを利用することで、同じ考えを持つ社員とつながりやすくなっていると思います。
「こんなテーマで座談会(勉強会)を開きませんか」などと呼びかけてみるのです。
同じ課題意識を持つ社員が集まれば、数の力をもって経営にアプローチし、動かせる可能性があります。
私も会社員時代、社内で「ワーキングペアレンツの会」を発足したことがあります。
社内のワーキングマザーやワーキングマザーを妻に持つ男性を対象に、「育児中の社員を支援する制度の申請をしたいから、意見を聞かせてほしい」と呼びかけたところ、40~50人ほど集まりました。
そこで意見を集めて経営へ提出した結果、要望が聞き入れられて制度化したものもありましたし、プロジェクトそのものが認められて予算もつくようになりました。
自分1人で不満を抱えたままでいるよりも、同じ課題意識を持つ人と協力してアクションを起こしてみてはいかがでしょうか。
「働かないおじさん」が関与してこない場所や機会を自ら作り、やりたいことにチャレンジしてみてください。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第88回は、10月17日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。