ロシアのプーチン大統領(2014年3月17日、ロシア)。
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- ロシアのプーチン大統領による核の脅しは、関係各国のさまざまな反応をもたらした。
- ある専門家は、プーチン大統領はこの核の脅しを使って、混乱や疑念を生じさせたいと考えていたのだろうとInsiderに語った。
- ただ、アナリストらは核戦争の危険性は依然として低いと話している。
ロシアのプーチン大統領が9月21日の演説で口にした事実上の核の脅しは、世界を苛立たせた —— 専門家によると、これはプーチン大統領の狙い通りだという。
ただ、専門家やアナリストたちは核戦争の脅威は依然として低いと話している。
カリフォルニア大学リバーサイド校の政治学の教授で『Ukraine and Russia: From Civilized Divorce to Uncivil War』の著者でもあるポール・ダニエリ(Paul D'Anieri)氏は「核兵器を使用する前に、プーチン大統領には世界に自分が本気だと示し、ウクライナと西側諸国に圧力をかけるために取り得る措置がまだまだある」と話している。
しかし、だからといってプーチン大統領が不安を広めるために核兵器を使用することはない… ということでもない。
ウクライナ侵攻から7カ月が過ぎ、プーチン大統領に第三次世界大戦のリスクを冒す気はなさそうだ。ただ、9月21日のテレビ演説の脅しは、ロシアが保有する5000発以上の核弾頭や、ロケット、ミサイル、砲弾の備蓄を間違いなく思い出させた。
ただ、プーチン大統領はこの演説で軍の部分動員令に署名したと明らかにし、消耗したロシア軍に弾みをつけるべく数十万人の予備役を召集するとも発表していて、専門家は核の脅威と結びついた召集は、ロシアが合理的に勝利と見なすことのできる成果の許容範囲の幅を狭めることになっていると指摘する。
「今回の徴兵によって、この戦争はプーチン大統領にとって負けられない戦争になった」とダニエリ氏はInsiderに語った。
「その結果、プーチン大統領が核兵器の使用といった思い切った行動を取る確率が高まっている」
プーチン大統領の脅しの効果
この戦争で最も失うものが大きいのは常にウクライナだ。そして核戦争の新たな脅威は、ウクライナにとっての危機をさらに高めるばかりだ。
専門家はロシアの核使用の可能性は低いと見ているものの、ウクライナはその危険性を深刻に受け止めている。
ウクライナ軍情報部のバディム・スキビツキー(Vadum Skibitsky)副部長はガーディアンのインタビューで、ロシアが戦術核兵器でウクライナを攻撃する可能性は「非常に高い」と語った。
「ロシア軍は兵士や軍の装備が集中している前線付近を標的にするだろう。食い止めるには対空システムだけでなく、対ロケットシステムがもっと必要だ」
スキビツキー副部長は自らの主張を裏付ける証拠を示してはいない。ただ、多くのアナリストたちがプーチン大統領の核の脅しはアメリカをうまく操ってウクライナに対する支援を抑制しようとするものだと考えていて、ウクライナが過剰と思えるほどに警戒するのももっともかもしれない。
「プーチン大統領は西側諸国がウクライナのために核戦争をするつもりはないと見込んだ上で、強い姿勢を見せることで西側諸国がウクライナに話し合いでの解決を求めるだろうと考えている。(話し合いでの解決は)ロシア側の勝利だ」とダニエリ氏は語った。
プーチン大統領は核の脅威が西側諸国を怖がらせ、ウクライナ支援を削減または打ち切ることを期待していると、専門家は指摘している。西側諸国の支援がウクライナ側の一連の勝利を支えているからだ。
「ウクライナに核を使っても、西側諸国は誰もその報復としてロシアに核を使おうとはしないと信じているところがプーチン大統領のいいところだろう」とダニエリ氏は言う。
一方、ウクライナ側には核戦争の危険性を強調することで、核兵器を保有している西側諸国からさらなる支援を引き出したい考えもあるかもしれない。
赤の広場で行われた戦勝記念日の軍事パレードのリハーサルに登場した、ロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス(Yars)」。移動式発射装置に載せられている。(2018年5月6日、モスクワ)。
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注視する国際社会
ウクライナ侵攻を開始して以来、プーチン大統領はロシアの核兵器の保有量を繰り返し示唆してきたが、21日の演説で口にした核の脅しは国際社会の反発を招いた。
アメリカのバイデン大統領や政府高官はプーチン大統領の発言を公然と非難し、ロシア政府に対し非公式に、1945年以来守られてきた"核不使用"のルールを破った場合の悲惨な結果を警告した。
ロシアに直接警告するだけでなく、アメリカは国際社会にも核の不安を持ち込もうとしている。ポリティコ(Politico)は先週、バイデン政権の内外で中国とインド —— いずれも核兵器を保有するロシアの同盟国 —— にプーチン大統領を説得するよう協力を求める声が高まっていると報じた。
一方、アメリカはロシアが核兵器を移動させたり、警戒状態を変えた兆候がないか監視していると報じられているが、9月29日の時点でそうした動きはないという。
プーチン大統領の脅しは、恐怖と混乱を煽るというまさに狙い通りの効果を発揮しているとダニエリ氏は言う。
「プーチン大統領がやろうとし、恐らくうまくいっているのは、疑念を操ることで次に何が起こるのか、西側諸国の人々を不安にさせることだろう」
(翻訳、編集:山口佳美)