個人のCO2排出どう減らす?国環研がオープンソース開発に取り組んだ理由

2020年春、新型コロナウイルスの流行が始まった当初、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトを爆速で開発・公開し脚光を浴びた取り組みを覚えているだろうか。

これは、市民がIT技術などを生かして課題解決を目指す「シビックテック(Civic Tech)」が、行政サービスのシステム構築を手掛けた異例の取り組みだった。

実はいま、気候変動対策アプリの開発でもシビックテックとの連携が進んでいる。

日本のデータもとに開発したアルゴリズム

今後の改善・転用を視野に入れ、国立環境研究所とコード・フォー・ジャパンがオープンソースのプラットフォームを共同開発。その利活用事例第1弾が「じぶんごとプラネット」アプリだ。

今後の改善・転用を視野に入れ、国立環境研究所とコード・フォー・ジャパンがオープンソースのプラットフォームを共同開発。その利活用事例第1弾が「じぶんごとプラネット」だ。

提供:コード・フォー・ジャパン

2022年8月、国立環境研究所と日本のシビックテックを牽引するコード・フォー・ジャパン(Code for Japan)が協力し、同アプリの基礎となるプラットフォームを共同開発オープンソースソフトウェアを無料公開した。また、その利活用事例の第1弾として、コード・フォー・ジャパンから、気候変動対策アプリ「じぶんごとプラネット」をローンチした。

じぶんごとプラネットとは、住居・食・移動・消費財の4項目に関する6〜10の質問に答えると、それぞれの項目についてユーザーが年間どれだけの温室効果ガスを排出しているのかを二酸化炭素(CO2)量として算出してくれるアプリだ。日本の平均値と比較することもできる。

また、質問への回答をもとに、ユーザーがどんな削減アクションをした時にどの程度CO2を削減できるのか、効果の高い順に表示してくれる。

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じぶんごとプラネットの画面イメージ。

提供:コード・フォー・ジャパン

じぶんごとプラネットの大きな特徴は、国立環境研究所の研究チームが日本のライフスタイルや特徴に基づいて開発した計算アルゴリズムを使っていることだ。

開発を担当した国立環境研究所の小出瑠研究員はこう話す。

「海外では個人向けのCO2排出計算アプリが何年も前から広がっていて、気候変動を身近な問題として考えるきっかけにもなっています。

ただ、そうしたサービスは英語版が多く、CO2排出原単位などのデータや計算アルゴリズムも海外のもの。日本のデータとアルゴリズムを使い、しかも具体的な削減行動の効果を『◯キログラム』と定量的に示すサービスはこれまで公開されていなかったのです」(小出氏)

それに対し、国立環境研究所がコード・フォー・ジャパンと開発した今回のプラットフォームでは、日本独自の定量的なエビデンス(科学的根拠)に基づいたデータとアルゴリズムを使っている。

また、日本でもクレジットカード決済からCO2排出量を算出するといったサービスが登場し始めているものの、削減アクションの効果を定量的に提示することまで含めたプラットフォームの開発は日本初の取り組みとなる。

「今回のプラットフォームは、国立環境研究所が2021年7月に公表した研究成果をもとに開発しました。CO2排出原単位などのデータのほか、日本のライフスタイル・特徴を踏まえた質問を設定しているため、日本で生活する人にとってより精度の高いカーボンフットプリント(※)や削減効果を算出することができます」(小出氏)

※カーボンフットプリントとは:商品やサービスの原材料調達から生産、流通、廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの量。一般にCO2量として換算される。

オープンソース+シビックテックが決め手に

小出氏によると、研究成果をプラットフォームやアプリとして展開することは、2021年7月の公表時点ですでに視野に入っていたという。ただ、多くの人が手軽に使えるようなプラットフォームやアプリにするにはどうしたらいいか。小出氏が注目したのがオープンソース開発だった。

「開発したプラットフォームをその後も改良・発展させやすく、また将来的に自治体や企業のサービスにも転用できるよう、システムのソースコードを公開する形にしたかったんです」(小出氏)

検討の結果、オープンソース開発に長けたコード・フォー・ジャパンに打診することを決定。エンジニアから一般の人まで、さまざまな背景を持つ人が参加して開発するシビックテックである点も決め手になったという。

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プラットフォームの開発を担当した国立環境研究所研究員の小出瑠氏。

オンライン取材画面をキャプチャ

小出氏をはじめとする研究チームがコード・フォー・ジャパンに企画を持ち込んだのは2021年秋。同団体が毎月開催している開発イベント「ソーシャルハックデー」の場を中心に開発していくことになった。

ソーシャルハックデーは、さまざまな課題解決プロジェクトを持ち寄って仲間を集め、参加者全員でサービスをつくり上げるオンライン型の1dayハッカソンだ。

毎月複数のプロジェクトが開催され、コード・フォー・ジャパンの社員のほか、エンジニアやデザイナー、弁護士などの専門家、ビジネスパーソンをはじめ、さまざまな人がボランティアで参加している。

「開催は月1回ですが、それ以外にも参加者それぞれが手分けをして作業を進め、その進捗を毎月のソーシャルハックデーに持ち寄って詰めていくというスタイルです」

コード・フォー・ジャパンの陣内一樹事務局長は、開発の流れをこう話す。

国立環境研究所との共同プロジェクトが始動したのは2021年11月。

2022年8月の公開まで約10回開催し、エンジニアだけで5人、ほかにデザイナーやアイデアづくりで参加した人なども含めると総勢20人近くが開発に関わったという。

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コード・フォー・ジャパンのソーシャルハックデーは毎月オンラインで開催。今回の共同開発もこの場を中心に行われた。

提供:コード・フォー・ジャパン

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