クラウド市場では後発ながらアマゾン(Amazon)やマイクロソフト(Microsoft)らトップシェアグループを猛追するオラクル(Oracle)の「価格戦略」の一端が明らかになった。
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日本の自動車メーカー・SUBARUは、車両開発コストの削減を目指し、自社のデータセンターを補完するクラウドベンダーを1年ほど前から探し始めた。
自動車の安全・性能試験のためのシミュレーションを実行するには、高速で複雑な計算を可能にするデータ処理手法、いわゆるハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)のワークロードに耐えうるクラウドインフラを必要としていたのだ。
SUBARUでIT運用管理を担当する情報管理課主事を務める竹熊義広は、Insiderの取材に対し、同社がHPC環境向けに米オラクル(Oracle)のクラウドを導入することを決めた理由は、他のクラウドプロバイダーの3分の1という価格(利用料金)を提示されたからだと語る。
オラクルを導入する「決断は難しくなかった」と竹熊氏は語り、契約に際して「価格のディスカウント」があったことも明かした。
実際、マイクロソフト・アジュール(Microsoft Azure)やグーグルクラウド(Google Cloud)、クラウド市場シェア首位のアマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)といった競合他社に対する優位性として、オラクルは自社サービスの低価格をアピールしている。
その戦略は奏功しているようで、同社は9月12日に発表した2023会計年度第1四半期(6〜8月)決算で、クラウド部門の売上高が前年同期比45%増の36億ドル(約5200億円)だったとしている。
市場シェアで競合他社との開きはまだ大きいものの、一定の前進が見られることには間違いない。
車両開発向けのHPCアプリケーションは長年、自動車メーカーが社内データセンター上で稼働させてきたが、近年はクラウドベンダーが自社インフラ上でホストするハードウェアをユーザー企業にソリューションとして提供するケースが増えている。
クラウドベンダーが提供するサービスを利用することで、自動車メーカーは自社サーバーの運用コストを削減し、社内データセンターの限られたコンピューティングパワーを超えて開発インフラを拡張できる。
2018年にオラクルのHPCサービスローンチにメンバーとして関わったモータースポーツエンジニアリング部門シニアディレクターのテイラー・ニューウィルはInsiderの取材に対し、HPC向けサービスが自動車メーカーをはじめとする製造業にとってとりわけ魅力的な選択肢となるとあらかじめ想定し、ローンチ当初からHPCに最適な環境を提供してきたことを強調した。
とは言え、AWS、マイクロソフト、グーグルクラウドのHPC向けサービスも同様に自動車メーカーをターゲットにしており、実際に世界の大手自動車メーカーがすでにそれらを利用している。
したがって、必要とする集中的な処理能力に対して大きな予算を追加可能な顧客企業をつかまえようと思えば、価格とディスカウントは特に重要な交渉材料となる。
特に、最近では複数のベンダーを並行利用するマルチクラウドの運用も一般的になってきており、ディスカウントはもはや著名大企業を顧客に加えるための一般的な戦術になっているとも言える。
スバルはおよそ半年かけて自社データセンターからオラクルのクラウドインフラへのHPCワークロード移行を完了させ、今年5月から稼働開始。技術コストを3割削減できる見込みだと竹熊は説明する。
現時点でのコストはオラクル導入前とほぼ変わらないものの、数年かけてデータの一部を自社サーバーに戻して平準化することで、コスト削減を実現できるという。
オラクルでは、自動車メーカーがオンプレミス環境から同社のクラウドにHPC環境を移行することにより、5年間で50%のコスト削減を期待できると喧伝している。
竹熊によれば、SUBARUは自社データセンターとオラクルのクラウドインフラを組み合わせて利用する計画で、クラウドの高い計算性能と自社インフラのメリットを同時に活用するハイブリッドモデルを採用しているという。
また、同社は機械学習や人工知能の機能の一部についてはグーグルクラウドを利用するなど、他のクラウドプロバイダーも採用している。
前出の(シニアディレクターの)ニューウィルによれば、オラクルは顧客企業が複数のクラウドの必要な機能を使用する選択肢を容認し、今年7月20日にはマイクロソフトとの正式なパートナーシップを発表。
同時に、相互接続と双方の最適な機能を使ったアプリケーションおよびデータベースを迅速かつ簡単に実行できるよう、複数の技術的変更を行ったことを明らかにした。
「自動車メーカーはあらゆるクラウドと関係を持つグローバル企業が多く、データ移動や認証などの面で他のクラウドプロバイダーとスムーズに連携できることが非常に重要なのです」
[原文:How Oracle won the carmaker Subaru as a cloud customer by being cheaper than the competition]
(翻訳・編集:川村力)